社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

足利末男「消費者物価指数の理解のために」『日本労働協会雑誌』第95号, 1967年

2016-10-16 11:56:20 | 9.物価指数論
足利末男「消費者物価指数の理解のために」『日本労働協会雑誌』第95号, 1967年(『統計学と社会』ミネルヴァ書房, 1968年, 所収)

 筆者は, 日本の消費者物価指数(以下CPIと略)が, 西ドイツ(当時)の生計費指数と対比すると, その汎用性のゆえに, 作成目的があきらかでないので, 現行の指数とともに, 目的(貧困対策, 低賃金対策, 住宅対策など)の明確な指数, 集団別(所得, 職業など)の指数を作成すべきと主張している。

 日本のCPIは, 多くの国々と同様に, ラスパイレス式によっている。他にパーシェ式などもあるが, ラスパイレス式によっているのは, たぶんに便宜的な理由からである。すなわち, ウェイトをとる際に, 「家計調査」からとるデータが, ラスパイレス式では基準時のそれであるので, 計算のための準備が容易だからである。問題は, 採用品目やウェイトがどのような集団の消費生活を反映するようになっているのか, である。日本のCPIでは, それは「家計調査」の対象となった集団であり, 具体的には, 都市の全世帯(農・漁家を除く)の平均的世帯である。

 これに対し, 西ドイツの生計費指数(この論稿では1962年基準の指数を使用)は, 同じくラスパイレス式によっている点で変わりないが, 3種の個別生計費指数が作成されていた。それらは, 世帯主だけを所得とする4人家族からなる中位の所得を有する雇用者世帯の生計費指数(雇用者世帯生計費指数), 年金もしくは社会的扶助を受けている老人夫婦の生計費指数(老人夫婦生計費指数), 7歳の子供の生計費指数である。筆者はこれらのうち, 前2者の指数計算について, 採用されている品目数, ウェイト, そして実際の計算された指数がどのようになっていたかを紹介し(品目の比較では1958年基準のものとの比較を行っている), 西ドイツの生計費指数の概観と特徴を示している。さらに, 日本のCPIと対比し, 違いを明らかにしている(日本のCPIのウェイトでは, 教養・娯楽費のそれが非常に高い, など)。

 筆者が一番言いたかったことは, 日本のCPIには汎用性があるようにみえながら, 実は作成の意図がきわめて曖昧な指数であり(戦後の経済統計が国民所得統計と結び付け, それに収斂させることに眼目があったために, そうなった), これに対し西ドイツの生計費指数では最初から汎用物価指数であることを放棄し, 社会政策的視点からその適用範囲もしくは代表する集団を特定した指数作成に主眼があったことである。日本のそれには, 社会保障制度との連携をもたせる意図がもともとなかったわけである。

 冒頭に掲げた筆者の提言は, 以上の日本のCPIと西ドイツの生計費指数との比較分析から出たものである。この論文は1960年代の終わりに書かれたが, それから半世紀たった今も基本的には何も変わっていない。むしろ, CPIと旧来の国民所得統計の延長上に登場したSNA(国民経済計算体系)との親近性を強めている。
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