社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

木村和範「所得分布の統計的計測にかんする諸見解-パレートからジニまで」『東京経済大学会誌』第250号,2006年

2016-10-17 15:17:19 | 4-2.統計学史(大陸派)
木村和範「所得分布の統計的計測にかんする諸見解-パレートからジニまで」『東京経済大学会誌』第250号,2006年(「ジニ係数とその前史」『ジニの統計理論』共同文化社,2010年)

 19世紀から20世紀前半にかけ,ヨーロッパ諸国では貧困問題が,社会問題となった。一方での資本の蓄積と集中は,他方で労働者の窮乏化をもたらした。事実を具体的に論ずるために,所得統計や資産統計を用いた実証的研究が要請された。本稿は所得分布の計測指標として今日でも使われているジニ係数の内容と意味を,それ以前のいくつかの関連指標との対比で明らかにすることを試みた論文である。

 取り上げられた統計指標(図)は,パレート指数とローレンツ曲線である。19世紀末,ヨーロッパ諸国では国民各層の富がどのような水準にあり,いかなる分布をしているかで,見解が対立していた。この対立の状況を打開するには,現実に所得や資産の分布がどのようになっているかを計測する必要があった。その方法は2つに大別された。一つはパレート指数やジニ係数のように単一の計測指標を用いる方法(この方法は所得分布が関数関係にあるとみてそのパラメータを計測指標とするものと,所得分布を関数関係として把握されないで,その分布の集中度を計測指標とするものとに分かれた),もう一つはローレンツ曲線に代表されるグラフ法である。

 所得分布の統計的計測の問題を初めて数学的手法で解明したのは,パレートである。パレートは所得分布に対して関数関係(パレート法則[パレート常数])をあてはめ,パラメータα(パレート指数)によって各国・各地域の所得分布を比較検討し,αの安定性を主張した。パレート理論は,その後,ジニによって批判的に克服された。イタリアでのパレート理論受容に貢献したのがベニーニである。ベニーニはパレート法則の適法性の擁護,パレート指数の計算方法としてのコーシーの補完法の採用,パレート指数の安定性の主張という3点で,パレート理論の後継者であった。しかし,パレート指数αの解釈は異なっていた。パレートは当初からαの増大が所得分布の集中を意味すると考えていたが,ベニーニはその増大が意味するのは所得分布の均等化とみた。この解釈は,今日でも生きている。

 ベニーニによってイタリアに持ち込まれたパレートに関して,次の3点の批判があった。①αの解釈,②αの安定性(ブレシアーニ),③パレート法則の妥当性。ジニはαに代替する所得分布の計測指標として集中係数δを考案した。しかし,このδはパレート指数αと同じく,所得分布が関数関係で表現されることを前提とする。それができない場合,いかにして所得分布の集中度を計測するかという問題が残された。

 同じころ,アメリカではローレンツが所得分布を分析する手法を開発し,これがローレンツ曲線として広く受け入れられた(最初の頃のローレンツ曲線は軸の取り方,図の描き方が現在知られているものと異なる)。同時期にフランスでもシャトラン,セアーユがグラフ法で所得や資産の分析法の研究に携わっていた。シャトランはフランス全土における遺産相続の集中を研究する目的で,相続曲線を表示する方式を考案した。その後,シャトランは,別の「新しい方法」で相続曲線を描く方法を開発した。後者はローレンツ曲線に似ている。しかし,シャトランにもセアーユにも,ローレンツへの言及はない。

 このような状況の中でジニは集中比(ジニ係数)を1914年の論文(Gini,C.,”Sulla misura della concentrazione e delle variabilita dei caratteri”, Atti del Reale Istituto Veneto di Scienze, Lettere ed Arti, Anno accademico 1913-14,Tomo LXXIII,Parte seconda)で公表した。この論文の課題は,①パレート指数αは(したがってジニのδも),関数関係で表現される所得分布に関する集中の測度であり,関数関係を前提としない所得分布の集中度に関する統計的計測指標がもとめられたので,これに妥当な速度を構想する必要があった(R(ジニ係数)として提案された),②ローレンツ曲線の明証性は認められるが,曲線の形状の比較を目視でなく,厳密性を確保し得る測度を構想すること(ローレンツ曲線とRとの数学的関係の解明),③集中指数の研究直後にジニが考案した変動性指数の一種としての平均差とRとの数学的関係を解明すること,であった。
これらの3つの課題は,1914年論文に回答が与えられた。筆者はそれらの数学的内容を丁寧にパラフレーズしている。
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