社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

三潴信邦「『東京都世帯階層別生計調査と生計費指数』の中止について」『統計学』第39号,1980年9月

2016-10-16 20:20:31 | 9.物価指数論
三潴信邦「『東京都世帯階層別生計調査と生計費指数』の中止について」『統計学』(経済統計研究会)第39号,1980年9月

 東京都美濃部都政下で実施された東京都世帯階層別生計調査が,鈴木都政への転換によって,実施開始の1978年7月からわずか1年9カ月で中止されるにいたった経緯と顛末を要約した論稿。

 1976年8月4日,「東京都生計費指数研究会」が美濃部都知事の諮問機関として発足した。研究会のメンバーは,次のとおり。青木淑子(生活経済研究所),伊藤陽一(法政大学),北川豊(埼玉大学),小宮源次郎(全日本労働総同盟調査局),坂元慶行(統計数理研究所),高橋菊江(日本労働組合総評議会生活局),田村羊子(日本生活協同組合連合会),暉峻淑子(埼玉大学),三潴信邦(筑波大学),谷茂岡正子(東京都物価調査員),横本宏(国民生活センター)。
この研究会の課題は,「東京都民の生活実態をあらわす生計費指数の作成方法およびこれに関連する諸問題の研究」であった。中間報告書は1977年4月27日に,最終報告書は1978年3月に作成され,知事に提出された。そこで提言された統計指標は,①階層・類型別生計費指数,②階層・類型別家計調査(典型調査),③重要商品価格動向である。
東京都統計部は,「最終報告」に盛り込まれ提言にそって,1978年7月から「世帯階層別生計費調査」(約300世帯)の実施に入った(結果は月報及び年報で公表)。また,1958年6月から「暫定生計費指数」を作成した(『東京都世帯階層別暫定生計費指数』として月報で公表)。

 その後,①ウェイト資料として,「消費支出」が1978年7月から79年6月の調査まで算出され,「非消費支出」および「実支出以外の支出」が当該調査をもとに一定の方法で算出された。価格資料として,「消費支出」に関してはCPI(東京都区部)の個別価格指数が,「非消費支出」および「実支出以外の支出」が別の方法で計算された。また「生計費調査」は,1979年4月分から『東京都世帯階層別生計調査』として月報,年報が発表された。

 東京都独自のこの典型調査方式による家計調査と生計費指数は内外で評価を受け,軌道に乗り始めた矢先,1979年4月の都知事選で美濃部都政が鈴木都政に代わったことにより,中止された。表向きの理由は財源難であったが,筆者によれば実際上は中央政府直結の鈴木都政による政治的断行であった。

 この論稿では,以上の経緯が説明された後,調査中止の撤回をもとめる鈴木知事宛の要望書(三潴・北川の連記,国民春闘共闘会議など),予算の復活をもとめる公明党宛の要請(国民春闘共闘会議),請願書,要望書が資料として付されている。また定例都議会議事録(本会議)[1980年2月28日,29日],予算特別委員会議事録[同年3月12日,17日],総務都民生活委員会議事録[同年3月15日],予算特別委員会[同年3月21日]から関連質疑の部分が抽出され,討議の様子が伝えられている。
これらの中で都行政側は,一貫して財政難を主に,既存の政府関連統計で十分に対応できるとの理由づけで,当該調査中止の結論を繰り返し答弁している。この調査が中小企業勤労世帯など階層別に税金,ローン,保険料などの非消費支出分を組み込んだ生計費を示した意義への配慮は,眼中にない(と言うより政治的判断のもとに革新都政の事業をつぶすことが目的であった)。
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