社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

玉木義男「生計費指数」『物価指数の理論と実際』ダイヤモンド社, 1988年

2016-10-16 11:36:48 | 10.家計調査論
玉木義男「生計費指数(第5章)」『物価指数の理論と実際』ダイヤモンド社, 1988年

 物価指数と生計費指数とは兄弟のようでもあり, 後者が前者の前身のようでもあり, 関連がある。本稿は, とかく曖昧になりがちな両者の相違を概念的に確認したものである。

 最初に予備的考察として, 日本での物価指数作成の沿革を整理している。次いで, 戦前の「内閣府統計局の生計費指数」と現行の(執筆当時の)「総務庁の消費者物価指数」について, それらの性格, 対象とする世帯(費目), ウェイト, 算式, 利用の形態で, 比較し, 最後に「生計費指数」の名のもとにどのようなものがこれまでに考えられてきたかが, 検討されている。

 重要なのは, 戦前の「生計費指数」と戦後の「消費者物価指数」との比較であり, 筆者は両者が対象となる品目で基本的な差がないこと, しかし大きな差として, 前者が労働者世帯を対象としていたのに対し, 後者が一般消費世帯であること, であることと確認している。

 問題なのは, 「生計費指数」といってもさまざまな内容のものが, 正確な定義づけもなく, その名称を冠して使われてきたこと, 「生計費指数」といわれてきたものも実際には対象項目を「消費支出」に限定され, 「非消費費支出」「実支出以外の支出」は考慮されていないので, 本来の生計費指数とは程遠い内容の指数であった指数が, これまでの「生計費指数」だったこと, である。近時, 消費者物価指数は国民経済計算体系との整合性が問われており, そのような現状に鑑みると, 消費者物価指数には経済的弱者のための生計費指数という意味合いはますます薄れているくらいである。論者によっては, したがって, 「生計費指数」という名称は使うべきでないというものもいるくらいである。

 予備的考察として書かれている「物価指数の沿革」は, 戦前の「生計費指数」と戦後の「消費者物価指数」の位置を確認できる。ここではまた, 文字通り, この分野でのいろいろな試みの来歴を知ることができる。それによると日本の物価指数は, 明治28年の『貨幣制度調査会』に掲載された明治6年基準の同27年までの各年の指数がもっとも古い。その後, この種の指数は続々と登場する。消費者サイドに近いところで測定した指数としては, 日本銀行の行内資料として明治37年1月基準の小売物価指数が, 公表されたものとしては大正3年基準の「日銀調東京小売物価指数」が最初である。

 家賃, 光熱費, 娯楽費, 教育費, 衛生費, 通信交通費など物的形態をとらない品目を含めて, 生計費指数として自覚的に作成されるようになったのは, 昭和12年(1937年)からである。

 戦後(昭和21年), この指数は, 消費者物価指数と名称を変更した。背景には, アメリカでの指数論争, ILO第6回国際労働統計家会議での議論があったようである。筆者のこの物価指数の沿革を読むことによって, わたしたちは戦前の内閣統計局生計費指数と総務庁統計局消費者物価指数への変遷をたどることができる。

 筆者は末尾で, 指数利用の範囲の拡大, 利用目的の多様化に鑑みて, 目的にあった指数の作成を提唱している。例として, 物価水準の変動を測定するための指数と賃金や年金のスライディング・スケールとしての指数, 国民経済計算の実質化のためのデフレータとしての指数などである。
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