社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

山田茂「消費者物価指数作成過程の検討」『統計学』第71号,1996年9月

2016-10-16 20:34:43 | 9.物価指数論
山田茂「消費者物価指数作成過程の検討」『統計学』(経済統計学会)第71号,1996年9月

 消費者物価指数(以下CPIと略)が話題になるときは,物価高騰の時期が多い。生活実感とのズレが問題にされる。いわく,CPIが示す値は生活実感よりも低めに出る,等々。しかし,この論文が出た時期は,逆であった。社会的に「価格破壊」が問題視された。物価はもっと下落しているはずなのに,CPIはそれを反映できていない。そのような論調が当時の経済企画庁,通産省,スーパー業界から発信された。総務省統計局は「大きな問題はない」と対応したが,筆者はいま一度,CPIの作成過程の再検証を試みた。考察の対象は,CPIが対象とする費目の範囲,ウェイト,小売物価統計調査の品目・銘柄,調査時点,調査地域と店舗,業態間の価格差である。考察の時期は,1993年からこの論文執筆当時までである。指数への「非消費支出」繰り入れの問題は別途行うとしている。以下,結論部分を摘記する。

 CPIが対象とする費目の範囲:指数の対象となる費目が「家計調査」の「消費支出」に限定されている。しかし,「非消費支出」部分(比率)は,この間,増加している。住宅購入費(「家計調査」の「土地家屋借金返済」「財産購入」)も対象外であるが,この部分の割合も急速に上昇している。

 ウェイト:「市町村別指数」から「全国平均指数」への加重平均には,地域別の「世帯2人以上の非農林漁家世帯」と世帯当たりの支出金額の積がウェイトとして用いられる。それゆえ,単身世帯が多い大都市地域の価格動向の全国指数に対する影響は人口比より小さくなる。「世帯2人以上の非農林漁家世帯」の費目別支出比率は「家計調査」からとられているが,「家計調査」は調査拒否率が大きく,サンプル調査を原則としているが,被調査者世帯の抽出に偏りがある。「こづかい」のウェイトも大きくなってきているが,この部分の使途が不明である(サービスへの使途が予想される)。
小売物価統計調査・①品目・銘柄:「基本銘柄」は長く使われ,メーカーの特定の方針のもとに希望小売価格が設定され,それらの価格動向が品目全体を十分に反映できるか否か疑問である。

 小売物価統計調査・②時点:調査の時点は(1)調査員による調査品目,(2)都道府県・統計局による調査品目,(3)家計調査の3種類である。(1)では1週間以内のセールス価格は除外されているので,セールスの影響が生じにくい。調査日は「12日を含む水・木・金」となっているが増加している共働き世帯は休日に買い物をまとめて行うケースが増えている。(3)では家賃調査に関して,民営借家の場合,3か月周期で調査しているため,調査月に相当していない月は前々月あるいは前月の価格で代用するので,指数への反映が遅れる。家賃に関して,小売物価調査では,「敷金」「礼金」は除外されているが,「家計調査」では「謝礼金」「権利金」「仲介料」が含まれている。

小売物価統計調査・③調査地域と店舗:最近の消費者の購買行動と価格分布の想定が実態とあっていない。店舗間格差のある品目をDSで,とくに他市町村のDSで購入するケースが増えているが,調査はそうした事情への配慮を欠いている。調査店舗がデパートである場合が多いが,これも実態と異なる(一般小売店,スーパーのウェイトが高い)。対象店舗の変更は頻繁に行われていない。店舗での実地調査が行われていない「全国区統一価格」は,統計局からの問い合わせでデータ取得していて,実態調査になっていない(交通・通信費,乗用車,ピアノ,書籍,新聞,化粧品など)。また,「店舗間の価格差が小さい」ので少ない調査店舗で調査されているものがあるが(背広服・夏物,果実飲料),業態の差を考慮していないなどの点で調査方法に疑問がのこる。筆者は,背広服・夏物,果実飲料などのように価格分布の大きいケースを,参考として,対象店舗数が小売物価統計調査よりも多い全国物価統計調査の結果と対比している。

結論は次のようである,「現行CPIの作成方法は小売業と世帯の生活状況における大きな変化への対応が十分でなく(世帯構成と生活時間の多様化,意識面での変化[価格志向が強まる一方で,品質・ブランドへの関心の高い層の存在,単身世帯の増加によるサービス支出への増大傾向,世帯類型の多様化,CPI除外費目の支出増など-引用者],その結果は『デパートや一般小売店で中旬の平日に,セールではない価格でも大手メーカーの製品を中心に購入し,家計簿を継続的に記帳している世帯員2人以上の世帯の支出についての指数』という調査方法に規定された性格を色濃く帯びているといえる。また,支出パターンに関する世帯類型の間の共通性が低くなっているので,さまざまな改善策が講じられているものの,その代表性も以前よりは薄れているといえよう」(p.20)。
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