社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

芝村良「R.A.フィッシャーの実験計画法と農事試験について」『統計学』(経済統計学会)第76号, 1999年3月, (『R.A.

2016-10-17 20:19:36 | 4-3.統計学史(英米派)
芝村良「R.A.フィッシャーの実験計画法と農事試験について」『統計学』(経済統計学会)第76号, 1999年3月, (『R.A.

フィッシャーの統計理論-推測統計学の形成とその社会的背景:フィッシャーの実験計画法(第1章)』九州大学出版会, 2004年)

 R.A.フィッシャーは20世紀最大の数理統計学者といわれながら, 彼の学説史的側面からの研究は十分でなかったとの認識にたって, 本稿で筆者は フィッシャーの統計理論の生成と展開を,当時の社会的背景を念頭に,その実践的利用の動機と結び付けて考察している。ここでは, フィッシャーが農事試験のデータ解析にとりくむなかで確立した実験計画法の成立過程について述べられ, 彼の統計理論研究と実験計画法およびその対象である農事試験との関連が丁寧に記されている。
叙述の順序は, 「農事試験と統計的方法」「実験計画法の成立過程とフィッシャーの統計理論(分散分析法と農事試験)

(フィッシャーの問題意識と実験計画法)(実験計画法とフィッシャーの統計理論)」である。
全体を要約すると,次のとおりである。最初に農事試験という統計的方法の適用対象がどのようなものかを明らかにするために, フィッシャー以前の農事試験の歴史的経緯が解説されている。ここでは, 農事試験に関わる諸問題に対する対処が, 2つの時期(農法の比較, 検討のために農事試験が行われた1730-1830年代と化学肥料および品種の比較, 検討のために農事試験が行われた1840-1910年代)に区分して紹介されている。その結果, 農事試験が比較を目的に行われたこと, 種々の要因が試験結果に影響したこと, そのために実験の繰り返しによって結果が判定されなければならないこと, が確認されている。農事試験の目的が農法の比較から化学肥料と品種の比較に重点が移るにしたがい, 測定値に高い精度が要求されるようになり, 統計的方法のこの領域への導入, 適用が決定的になる。

 筆者は次いで, フィッシャーが農事試験のデータに分散分析法をした経過を追跡している。農事試験では, 一般に, 測定値の変動に種々の要因が不確実性をもって, 収穫量の大きさにからんでくることは避けられない。この要因ごとの変動を分離するには, 分散分析法を適用するのが適当である。分散分析法を使えば, 収穫量の差が統計的に有意か否かを判定できる。また, 自由度概念を導入した分散分析法では, 精密標本分布を援用することで, 標本の大小にかかわらず, 正確な誤差推定が可能である。これによって, 有意性検定による判定結果の妥当性が保証される。フィッシャー統計理論の意義は, この点にある。

 フィッシャーが上記の統計理論を確立するにいたったのは, 従来型の農事試験(実験計画法)に対する次のような問題意識があったからである。一つは誤差を正確に推定することが重要であること(従来型の農事試験の方法ではそれを減らすべきと考えられていた), もう一つは実験結果の判定を有意性検定という統計的方法で行うべきとしたこと(従来は実験家の経験的感覚にたよっていた)である。誤差を正確に推定するには, 従来の試験の方法が改められなければならない。フィッシャーはそこで, 3原則(局地管理, 確率化, 繰り返し)を組み込んだ実験計画法を考案した。

 フィッシャーの統計理論の意義は, 精力的に精密標本分布の導出および整理に取り組み, 同時にそれまでの統計的推測に関する理論的問題点を整理し, 再構成し, 標本の大きさにかかわらない正確な統計的推測を可能にする方法を確立したことにある。

 フィッシャーの実験計画法, 分散分析法および有意性検定法が農事試験の特性と深くかかわっていること, 実証的な推論にともなう不確実性の度合いの定量化によって帰納的推論の厳密性を保証するフィッシャー的な統計的推測と誤差の正確な測定を可能にするデータ獲得の方法論である実験計画法とが密接不可分な関係にあること, したがってフィッシャー理論の基本性格を語る場合には, 実験計画法との関係の検討がさけられないこと, これらがこの論文での筆者の結論である。
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