社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

近昭夫「ユールにおける統計的方法の利用」山田貢・近昭夫編『経済分析と統計的方法(経済学と数理統計学Ⅱ)』産業統計研究社, 1982年6月

2016-10-17 20:07:22 | 4-3.統計学史(英米派)
近昭夫「ユールにおける統計的方法の利用」山田貢・近昭夫編『経済分析と統計的方法(経済学と数理統計学Ⅱ)』産業統計研究社, 1982年6月

 K.ピアソン門下のひとりで, それまで主として生物現象に使われていた数理統計学の手法を社会・経済現象に関する統計分析に適用した統計学者に, G.U.ユール(1871-1951)がいる。本稿はそのG.U.ユールの研究成果を紹介し, これを批判的に論じたものである。

 G.U.ユールの業績は多方面にわたるが, ここで取り上げられているのは, 1890年代の救貧問題に関する統計研究, 1920年代のいわゆるナンセンス相関に関するもの, そして人口現象へのロジスティック曲線のあてはめ, 太陽黒点の観測データを材料とした攪乱的時系列解析である。

 ユールは1895年から1899年にかけて, 救貧問題に関する論文を著している。切掛けは, チャールズ・ブースの研究に対する疑問だった。ブースは1894年に, 当時の政府統計を利用して, 救貧問題のなかでも最大の問題である老人の救貧を詳細に分析して導き出した。ユールは, それらの結論のなかの「院外で救助を与えられる割合は, 救貧全体のパーセンテージに対して一般的関係をもたない」という指摘に反論し, そのさいの資料分析に相関係数, 回帰方程式を用いた。その結果, ユールが到達した一つの結論は, 「全体的な救貧の律と院外救済とは正の相関をしている。すなわち, 前者の高い平均値には後者の高い平均値が対応する」というブースの指摘と異なる事実の発見だった(ここで, ユールは相関計数の意味する内容に留保をつけ, また相関係数は因果関係を示すものではない, としている)。

 統計学の分野では, 1900年代に入って, 相関計算の試みが次々となされた。これらの試みのなかから, 次第に「ニセの相関」という問題が浮上した。「ニセの相関」とは, 2つの統計系列間に本来何の関係もないのに, 相関係数を行うと高い値を示すという問題である。ユールは階差法を用いて, 「ニセの相関」が避けられないことを明らかにした。また, ユールはその後, この問題を「無意味な相関」の問題として再度, とりあげた。「無意味な相関」とは, 2つの変化する系列の相関係数の値が非常に高く, 標準誤差の公式にてらしても「有意である」との判定がでても, そこには何の実体的意味がないという問題である。ユールはその原因を「法本抽出のゆれ」であると考えた。「ニセの相関」「ナンセンス相関」について, これらを自覚的に問題視し, こうした問題がなぜ出てくるのかを真摯に考察しようとしたことは, 高く評価されてしかるべきである。しかし, ユールは, ここでも問題の処理の仕方が形式的な考察の域から出ることができず, 考察のプロセスは数学的問題におきかえられた。「ニセの相関」「 ナンセンス相関」を避けるには, 指標の選択を当該の現象に関する理論的考察で基礎づける必要がある。ユールはついにそこに目をむけることがなかった。

 最後にユールによる人口現象ロジスティック曲線のあてはめ(この曲線を最初に定式化したのはベルギーの数学者フェルフュルスト), 太陽黒点の観測データを材料とした攪乱的時系列解析が紹介されている。筆者によれば, ユールはこれらの研究(攪乱的系列の周期分析)でも階差相関の考え方を応用し, また攪乱的時系列の問題(とくに時系列の周期性)で三角関数を用いた処理を行うなど, 問題の数学的・形式的処理に終始した。問題なのは, そこにトレンド除去の経済的意味の考察, 人口増加法則の社会的・経済的諸条件の具体的分析がないことである。

 全体として, ユールの統計研究が経済学的研究に統計的方法を導入し, その後の時系列解析論の展開への橋渡しとなったことは事実であるが(たとえば攪乱的誤差あるいはショックの累積が周期的波動を形成することを明らかにしたとして[スルツキー・ユール効果], その定差方程式の活用の仕方とともにR.フリッシュが注目), 諸研究そのものの経済学的, 学術的貢献にみるべきものはなかった。これが, 筆者の結論である。
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