社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

長屋政勝「フランクフルト学派統計学の現代的課題(第5章)」『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年

2016-10-17 14:59:26 | 4-2.統計学史(大陸派)
長屋政勝「フランクフルト学派統計学の現代的課題(第5章)」『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年

 本稿のもとになった論文は, 「フランクフルト学派統計学と数理統計学―フランクフルト学派統計学の展開―」『経済論叢』(京都大学)137巻4・5号, 1986年, である。論文の内容は, このもとのタイトルの方が内容にそくしている。

 全体は大きく2つにわかれている。前半は, 1953年10月にハイデルベルクで開催された第24回ドイツ統計学会年次総会でのフランクフルト学派統計学と数理統計学派との論争の紹介と検討である。後半は, 総会の翌年, ハルトヴィックがゲーテ大学経済学・社会学部に就任にさいして行った講演「自然科学的統計学と社会科学的統計学」の内容と, その後のフランクフルト学派統計学が継承する2つの方向から, ドイツ社会統計学の現代的課題を確認しようというものである。

 第24回ドイツ統計学会年次総会は, 第二次世界大戦後の西ドイツ統計学界における数理統計学の隆盛のなかで開催された。筆者はこの論文で, O.アンダーソン(ミュンヘン大学)報告「社会統計学における統計的因果研究の現代的方法」, それに対するハルトヴィック, 数理派に属する研究者のコメント, ブリント報告「社会統計的認識の問題と特質」を要約している。

 アンダーソンは戦後の数理派を代表する統計学者であり, 総会ではその立場の議論のいわば露払いとしての役割を果たした。アンダーソンにあっては, 統計学をあらゆる領域にまたがるデータ一般の蒐集と加工の方法手続きに関する方法科学である。利用される方法は, 普遍的な確率論的方法である。この統計学, あるいは統計的方法は, 社会統計学の研究にはただちに適用できない。対象となる社会的集団の独自の性質があるからである。確率論的方法は一般的普遍的な性格をもちながらも, 社会的集団現象の特異性を考慮に入れると, その適用は必ずしもスムースに進まない。しかし, 言及はそこまでで, アンダーソンは, 統計的因果研究は確率論的図式を条件として, 仮説検定法にのっとって展開されなければならないとする。(筆者はこのようにアンダーソン理論を紹介した後に, 仮説検定法を統計的因果研究と直結することの難点を指摘し, その根拠を示している)

 アンダーソン報告には, 数理派のウィンクラーなどが反論したらしいが, 筆者はそのなかで異色の存在だったハルトヴィックのコメントをとりあげている。ハルトヴィックは, アンダーソンが自然科学的統計学と社会科学的統計学との間に「分割線」をひいたことに着目し, その点を掘り下げ, 統計方法論をストカスティークな普遍的方法論とみなす「統計方法一元論」に徹底的な批判をくわえた。それは極めて原則的な視点からの普遍科学方法論説の否定であった。

 次いでフランクフルト学派を代表するブリントの報告が紹介されている。ブリントは報告の中で, 社会統計的認識には, 記述的認識とストカスティークなそれとがありうるが, 一般的に社会統計的認識ではストカスティークなそれが成立する場がきわめて限られているか, あるいはその適用が全く不可能な領域があるので, 確率論に立脚する統計方法一元論の主張が不可能であることを論証した。ブリントによれば, ストカスティークな方法が適用できない領域には, 論理的推理であたらなければならないのである。
ブリント報告に対しては, それを評価し, 擁護したフラスケムパーのコメント, 社会統計的認識とストカスティークとの対立点を鋭く追及したハルトヴィックのコメント, 社会統計的認識とストカスティークとの間に原理的対立を認めず, 程度の差があるにすぎないとした数理派(W.ウィンクラー, H.ケレラー, L.ボッセ, M.ニコラス, H.ミュンツナー)のコメントがあり, 筆者はこれらを手際よく紹介している。

 論文の後半では, ハルトヴィックのゲーテ大学就任講演が紹介, 検討され, そこに潜むペシミズムを2つの方向で克服しようとするメンゲスとグローマンの統計学を展望している。

 まずハルトヴィックの講演では, 社会統計論の独自の課題として, 調整理論, 統計的測度論, 社会統計的因果研究があげられ, それらへの取り組みの必要性が強調された。これらのうち調整理論とは, 理念型としての経済学的, 社会科学的概念と統計学的概念との間隙を埋め合わせる理論であり, その数量的把握の方法を完成させるという課題をもつ。統計的測度論とは, 集団の大きさ, その内部構成, 相互関係, 時間的変化を統計的に測るための計算を仕上げる理論である。社会統計的因果研究は, 非同質的集団である社会的集団に存在する因果関係を確率論の原理にもとづかない非数理的な判断の方法を研究課題とする。以上の課題を解決するために構成される統計学を, ハルトヴィックは「批判的社会科学的統計学」と呼んだ。ハルトヴィックのこの方向は, フラスケムパー流の統計学の方法論にそうかたちで, それを認識論的により深く追求することによって, 理念型への志向を強め, ストカスティークの拒否にいたる内容のものであった。しかし, 非数理的な, より一般的な確率判断様式=社会統計のストカスティークは, ハルトヴィックにおいては, 単なる提唱にとどまり, 肉付けされないままに終わった。その統計学にペシミズムがただようといわれる所以である。

このペシミズムを克服する一つの方向が, メンゲスの統計学である。メンゲスはハルトヴィックの調整理論など社会統計学の課題として数理統計学の成果を最大限に吸収し, 融和的な統計学, メンゲスの言葉で言えば「適応統計学」を構想した。ハルトヴィックが落ちいったペシミズムを克服するもう一つの方向は, グローマンの統計学である。グローマンはメンゲスと異なり, あくまでも社会統計的認識とストカスティークとの融合に反対し, 現実のさまざまな社会経済的理論研究・実証研究, 政策問題から提起されるデータの蒐集, 整理, 利用に関する方法手続き上の諸問題を社会統計的方法論として理論化, 体系化する努力を行った。 

全体に長い論文で, 理解は容易でないが, 数理統計学の台頭を背景にしたドイツ統計学の発展的展開と苦悩とを読み取ることができた。
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