社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

山口秋義「中央統計局の成立(1918年)」『ロシア国家統計制度の成立』梓出版社,2003年

2016-10-17 21:51:14 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
山口秋義「中央統計局の成立(1918年)」『ロシア国家統計制度の成立』梓出版社,2003年

 旧ソ連の中央統計局が成立したのは,革命直後の1918年7月である。世界で最初の「集中型」統計組織であった。この統計機関は,設立直後から次々と大きな仕事を行った。全露工業センサス(1918年),農業センサス(1919,1920年),工業センサス(1919,1920,1923年),人口センサス(1926年),「1924/24年国民経済バランス」(1926年),等々。この論文は,革命の混乱期のなかで,中央統計局が設立されるまでの経緯を詳しく考証したもの。

 筆者は中央統計局設立に際して影響を与えた,当時のヨーロッパでの政府統計組織の位置づけをめぐる論議に着目している。一つは第一回万国統計会議(ブリュッセル,1853年),もう一つはその第二回会議(パリ,1855年)である。前者では,ケトレーが当時自ら議長を務めていたベルギー中央委員会に匹敵する機関を各国でも設置するように提案した。ベルギー中央委員会は,国内の各行政機関がそれぞれ作成していた統計の重複を調整し,作成が空白になっていた統計を埋めて統計の全体としての体系性を確保する調整機関であった。第二回会議でも,この課題が再検討された。こうした論議を経て,各国で統計の調整機関がたちあがる。スウェーデン(1858年),イタリア(1862年),ロシア(1863年)がそれらである。その後,第六回会議(フローレンス,1867年)では,各国で成立した統計委員会をより大きな権限をもつ組織へ改組する提案がなされた。国家機構の中で統計機関に独立した位置を与えるというのがこの提案の趣旨であった。

 1917年2月革命後に成立した臨時政府内務省中央統計委員会は,その後の統計制度改革論議を経て,10月革命後の中央統計局設置へとつながった。筆者はこの間の事情を詳しくフォローしている。筆者を案内人に経過をたどることにする。

 10月革命後の12月,全露中央執行委員会,農業人民委員部調査部との共催で「全露統計家会議」が開催された。中心的役割を果たしたのがトゥーラ県ゼムストヴォ統計局長であったポポフであった(後の中央統計局長)。会議では臨時政府下で実施された農業・土地センサスの集計作業など当面の業務に関する議論が主で,統計組織の在り方をめぐる議論は少なかった。後者のテーマが日程にのぼったのは,1918年6月の第一回全露統計家大会においてである。ここでは「国家統計について」の草案が論議の対象となった。ポポフが開会宣言を行い,「国家統計組織」というテーマで基調報告を行った。付属資料として「中央国家統計組織に関する法令草案」「地方統計機関組織に関する法令草案」が提出された。ポポフはここでフローレンス大会の決議を受けて,新たな国家統計組織として中央集権的集中型統計機構の必要性を主張した。この提案は大筋で大会参加者によって承認され,若干の修正を受けた案が人民委員会議へ提出された。

 人民委員会議に提出され案はさらに議論にかけられ,法案検討委員会の設置の下で,審議された。案はここで大きな修正を受ける。切掛けは,人民委員会議長レーニンの見解であった。結論だけ示すと,中央統計組織の国家機構における位置づけで,それまで全露統計家会議以来,フローレンス会議の趣旨を受けて,国家統計組織は完全な政治的独立機関として構想されてきたが,レーニンはこの点に異論を示し,中央統計組織が人民委員会会議に従属すべきであると主張した。人民委員会議ではレーニン見解をいれる形で,統計関連法(「国家統計について(法令)」「地方統計機関に関する規則」「中央統計局付属統計問題評議会に関する法令」)がまとめられた。これらによって中央統計局と県統計問題評議会が設置された。中央主権的集中型統計機構が形づくられた。「国家統計について(法令)」では,中央統計局長が人民委員会議に従属することが明確に示され,総合調整機関である統計問題評議会は,中央統計局の付属機関として位置づけられた。

 人民委員会議でのレーニンの提案が大きな意味をもったことはわかるが,レーン自身はフローレンス会議の決議をどのように評価していたのだろうか。またこの論文ではレーニンが突然(唐突に),それまでの議論の経過を軌道修正させる提案をしたように書かれているが,レーニン提案の根拠はそもそもどこにあったのか,当時の政治・社会状況との関連で知りたいところであるが,そのあたりの事情は書かれていない。
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