社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

横本宏「家計調査における家計簿式方法について」『統計学』第25号,1972年3月

2016-10-16 11:17:12 | 10.家計調査論
横本宏「家計調査における家計簿式方法について」『統計学』(経済統計研究会)第25号,1972年3月

本稿の目的は,家計調査における家計簿式方法の検討であるが,本心は家計簿式調査方法の権威のベールを剥ぐこと,その含意はこの方法を否定するのではなく,正しく生かすために必要な条件を明らかにすることにあったようである(p.48)。叙述の順序はまずこの方法の提唱者だったエンゲルの見解を検討し,次にエンゲルの家計調査方法論の問題点を理論的に整理し,さらに家計簿式方法の現実的な問題点を検討し,最後に家計調査の方法を検討することの意義を示すという構成になっている。

 エンゲルは『ベルギー家族の生活費』で家計簿式方法での家計調査が,いわゆるアンケート式,質問票式調査よりもよいとした。エンゲルがこの方法を最善としたのは,家計の収支に関する事実をありのままに把握できるからであった。この方法によれば,原資料となる家計は「作られたもの」でなく,「理想計算」でもない「現実計算」となる。

 筆者はエンゲルのこの家計調査方法論を点検し,問題点を抽出している。第一はエンゲルの家計調査論が解析論であることである。解析のためのデータに関心があり,そのデータを獲得するための調査活動は等閑視されている。第二にその調査論に社会科学的視点が欠けていた。消費に関する数字を消費者自身から得なければならないとし,調査する側とされる側との関係が調査結果に微妙に反映することをみたのは卓見であったが,調査過程の分析がなかった。第三に,家計簿式方法以外の文書順問法,口頭順問法を「代用法」とみなし,むしろ軽視していたことである。日本にもことさら家計簿式方法を重視する傾向があり,例えば高野岩三郎の指導のもとに行われた「東京ニ於ケル二十職工家計調査」もその観点から評価されるが,筆者はそのことよりもこの調査が労働者世帯を対象としたこと,労働者と労働者組織の自主的協力のもとに行われたことが重要だったと述べている。

この論稿が執筆された時点のことであるが,家計調査が家計簿式方法で行われている国は少ない。ベルギー,チェコ,イギリス,日本の4か国であった(面接聞き取り調査を行っているのはアメリカなど9か国,簡単な記録簿と面接の併用がフランスなど8か国)。家計簿式方法が,それ以外の方法より,結果が精確であるというのは,必ずしも確かなことではない。イギリスでそのことを確かめた試験調査(1953-54年)があり,日本でもたとえば夫の「こづかい」が家計に占める割合は意外と高く,その使途ははっきりしない。家計簿式方式が絶対的にいい調査なのではなく,重要なのは被調査者がその調査の意義をどのように理解し,どのような協力を行うかである。

 最後に,家計調査の方法を検討することの意義を考察している。家計調査は国レベルでも地方自治体レベルでも盛んである。それらのほとんどは,家計簿式方法を採用している。しかし,そのような調査は必ずしも労働者の生活実態を浮き彫りにできていない。課題はなぜそうなるのかを方法の問題として批判的に検討し,その改善のための要求をすることである。また,労働者が自ら家計調査を実施することも劣らず重要である。
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