社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

石田望「『消費者物価指数論』考」『経済』1972年1月号

2016-10-16 11:59:56 | 9.物価指数論
石田望「『消費者物価指数論』考」『経済』1972年1月号

 現在の消費者物価指数は,一定の効用水準を維持するために必要な貨幣支出額の比とされている。他方,実際の計算では,家計調査の統計でウェイトを採っているが,この調査では平均的な家計が想定されている。効用は個人的なもの,あるいは特定の社会グループのものだから,計算は矛盾している。筆者はこの平均家計を基礎とした現行の消費者物価指数がどのような意味をもつのかという問題の解明を,本稿の第一の課題としている。第二の課題は,ヘドニック・アプローチの評価に関して,である。この方法は,「一定水準の効用を維持する」という原則で,価格の上昇分から効用の増分を割り引く方法であるが(この論稿,執筆当時はヘドニック・アプローチによって測られた品目はなかったが,現在はある),それに意味があるのかという点である。第三の課題は,そもそも異なる時点での効用の比較がいかなる仮定のもとで成立するのか,の考察である。   

 第一の課題について,筆者の回答は,次のとおりである。現行の消費者物価指数は,「一定の効用を維持する生計費指数」であり,同一効用生計費指数とも呼ばれる。それはもし「全ての人々の各品目の購入価格は等しい」という条件が妥当するならば,「個々の消費者に同一の効用を与える両時点の均衡支出の社会全体の合計額の比」として定義された社会全体の平均のラスパイレス指数である。この意味で,この式は社会全体の平均的指数と言えばよく,「社会全体の平均的効用」という無理な概念をもちだすことはない。

 ところが上記の「全ての人々の各品目の購入価格は等しい」という条件は,2とおりの意味で無理がある,と筆者は言う。すなわち,(1)同一の商品でも同じ価格で購入していない,(2)同一品目に属する2つ以上の商品が別々の価格で購入されている。現行消費者物価指数は,多数の銘柄のなかから品目ごとに一銘柄が指定され,調査された価格の平均が使われているので前者は回避されているが,後者は回避されていない。すなわち,先の条件は「各世帯は同じ銘柄の商品を購入する」という非現実的仮定である。政府は階層別物価指数や標準世帯指数などを作成しているが,階層によって消費される銘柄は異なるので,それを無視することは,上述の条件を成立させることになり,適当でない。

 ヘドニック・アプローチは効用測定することが無理であるので,直接効用を数量化しないで品質変化による影響を価格から取り除く方法として編み出されたものである。端的に言えば,ヘドニック・アプローチは品質向上による価格の上昇が消費者物価指数を上方偏倚させるのを是正する措置である。しかし,ヘドニック・アプローチの結果として出てくる結論は,品質指標と価格および効用との単調な増加関係ばかりでなく,比例関係まで仮定されていること,またもとめられた回帰方程式が「ある時点で同時に流通している商品の間で求めた価格と品質指標の関係式であって,時間の経過に関してはなんの考慮も払われていない」という難点をもつ。後者に関して,銘柄指定は時の経過が関与する問題なので,ヘドニック・アプローチには不備がある。

 一般に効用の可測性の仮定を回避するために,無差別曲線が使われる。ここで仮定されているのは,(1)消費者は財の組み合わせを自由に選択できる,(2)その際,消費者は効用の大きさを測定することはできないが,その大小や相等を判定できる,ということである。しかし,同一効用指数の場合,異なった2つの時点での効用の比較が問題になるのであるから,(1)の選択の自由の仮定は満たされない。また効用の可測性を仮定した場合には,効用関数を考えるのが一般的であるが,財の消費とその効用の関係が関数関係におきかえられた途端,関数関係から時間の要素は脱漏する。筆者は,同一効用関数が前提としている異時点間の効用比較という基礎的概念の含意が不明である,と言う。
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