社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

濱砂敬郎「現代ソビエト数理統計方法論の一形態-H.K.ドゥルジーニンの統計的方法論について-」『統計学』(経済統計研究会)34号, 1978年3月

2016-10-17 21:42:27 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
濱砂敬郎「現代ソビエト数理統計方法論の一形態-H.K.ドゥルジーニンの統計的方法論について-」『統計学』(経済統計研究会)34号, 1978年3月

 この論文はドゥルジーニンの統計理論の特徴づけを行うことで, 当時のソ連経済での数理統計学の問題点を考察することを目的としている。ドゥルジーニンと言えば, 戦後のソ連統計学論争で統計学=社会科学方法論説の立場をとった統計学の大御所として知られる。そのドゥルジーニンが, 1955年, 1966年, 1971年にそれぞれ発表した論文, 著作をたどり, 普遍科学方法論説に, すなわち数理統計学の受容に傾斜していったことが, 確認されている。ドゥルジーニンの所説を理解するために使われた直接的資料は, 次のとおりである。≪Ленин по статистике≫1955;近昭夫「統計学の哲学的諸問題について」『北大経済学』9号, 1966年;≪Математическая статистика в экономике≫1971。

 筆者は, 1955年時点のドゥルジーニンが, 表向きには, 統計学=社会科学方法論説の立場を踏襲しているかのように主張しながら, しかしそれとは異なる実質科学説的な統計的方法および統計学観の芽生えがあることに着目している。筆者はこの点を, 統計学の対象に同質的な集団現象を予定し, 現象的な合法則性をもとめる一般化指標論の志向があること, 計画実践を意識した社会主義的統計論の志向があることのなかに読み取っている。

 1966年時点では, ドゥルジーニンは統計理論の方法論的基礎として統計的法則論と大数法則論を展開した。筆者はこれをもって, ドゥルジーニンの数理的方法論の骨格が出来上がったと見ている。この理論では大数観察の原理としての大数法則の普遍的性格が指摘され, 社会主義計画経済における大数法則を適用することの意義が述べられ, 数理統計学の意義が意識的強調された。筆者の整理によれば, 大数法則はドゥルジーニンにあっては, 統計指標を獲得する統計的方法の観点から, 計画経済の均衡的性格を捉えなおした操作概念であり, それによって統計法則に「兆候」する原因機構の発現が擬制化された形態である。大数法則は計画指標と統計指標とに操作技術的な結合原理を与えるものに他ならない, さらにドゥルジーニンは自らの統計法則論に大数法則を位置づけることを試み, 統計学の2つの課題(記述-比較的課題と分析的課題)をあげ, 後者による統計学は客観的現実の諸合法則性を理論的に把握し, 経験的合法則性を確認する統計的方法論であり, その対象は事実・要因の総体=大量的諸現象であるとした。

 1971年時点になると, ドゥルジーニンは自らの統計方法論を数理統計方法論として一層明確にするようになる。筆者はその点をドゥルジーニンの統計学教科書『経済における数理統計学』で確認している。この教科書では, 統計的方法の対象は偶然的な変動を運動様式とする同質的な集団現象であること, 大数法則については1966年の見解をとりつつ, 計画経済の条件下でのその作用が現象の恒常的な均衡と交互作用をとると考えられ, 生産性指標などの安定性を種々のデータによって示すことができると主張されているようである。

 最後に筆者はドゥルジーニンの統計的方法論の眼目が, 社会科学のための統計方法論ではなく, 経済計画や経済管理の実践に適用される数理統計方法論を, ソ連統計学の現代的形態と押さえ, そのことに含まれるいくつかの問題点(大数法則の社会主義社会における適用可能性, 統計および統計利用の歴史的規定性が後景に退くこと)を指摘しようとしたことにあると述べ, 稿を閉じている。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 内海庫一郎「統計学の学問的... | トップ | 岩崎俊夫「数理科学的経済分... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む