社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

山本正「統計学の対象と方法-戦後におけるわが国社会統計学派の研究の特質-(4章)」『数量的経済分析の基本問題』産業統計研究社, 1984年

2016-10-08 21:49:22 | 11.日本の統計・統計学
山本正「統計学の対象と方法-戦後におけるわが国社会統計学派の研究の特質-(4章)」『数量的経済分析の基本問題』産業統計研究社, 1984年

有沢広巳, 蜷川虎三によって戦前, 先鞭がつけられ, 土台が築かれ, 戦後, 強力に展開された社会統計学の成果を, サーヴェイした論文。その戦後の社会統計学派の特質を, 筆者は5点に要約している。第一は, 統計法を社会科学方法論の基礎から, 社会科学の認識方法, 手段(操作)として根底的に再検討したことである。その代表者は, 大橋隆憲, 内海庫一郎であり, その業績が後段で紹介, 検討されるが, その内容は唯物弁証法の基本規定に基づいて統計的方法の諸カテゴリーを確定することだった。第二に, 社会統計学派が直接に目標としたのは, 社会統計学の体系化をはかった蜷川統計学の批判的検討, その批判的展開だったことである。第三に, 数理統計学との対峙の姿勢である。統計学を応用数学の一種であるとし, 社会分析との接点を欠くのが数理統計学であるが, 社会統計学派はその批判的検討を自らの課題とした。第四に, 社会統計学派は, 上杉正一郎を中心として, 統計学の「階級性」「統計調査の社会性」を追及した。第五に, 社会統計学派は統計学史の研究に力を注いだ。ドイツ社会統計学派, イギリス政治算術学派の研究などがそれである。

 社会統計学派の研究成果は, 戦前の蜷川虎三によるドイツ社会統計学の批判的継承の上に積み上げられたが, 戦後では1950年代のソ連統計学論争の影響も大きかった。筆者はそのソ連統計学論争を紹介しながら, 日本の社会統計学派によるその評価について言及している。周知のように, ソ連統計学論争では, 統計学の学問的成果が厳しく問われ, 普遍科学方法論説, 実質社会科学説, 社会科学方法論説に立脚するそれぞれの論者が討論を行った。その結果, 統計学は社会経済現象と過程の量的側面を研究する実質科学である, とする説が公認され, 仔細にその定義の中身をさぐると社会統計学派と数理統計学派(普遍科学方法論説)との妥協の産物としての結論であった。筆者によれば, 日本の社会統計学者はこの論争を重視したが, その結論には懐疑的であり, 大方は統計学を社会科学方法論と考える立場にたったと言う。

 こうした事情を背景に, 筆者は次に, 蜷川統計学を継承, 発展させた内海庫一郎の統計を取り上げている。この部分は, ほとんどが紹介と引用であり, 筆者の見解は表に出ていないが, その内容は要するに, 蜷川が集団論を重視し, 「存在たる集団」と「意識的に構成された集団」(純解析的集団, 単なる解析的集団)を措定し, それぞれの方法的前提として, 大量観察法と大数観察法を提起した,ということである。内海は蜷川のこの二元論的構成を批判し, 「存在たる集団」に「集団たる存在」を対置し(さらに「個」を統計の対象そして考察), 「純解析的集団」を統計学から追放し, あわせて大数法則そのものを否定した。

 この内海理論にたいして, 大橋隆憲, 吉田忠, 木村太郎, 広田純,田中章義がそれぞれの立場から意見を述べている。大橋は「社会集団」を客観的実在と擁護し, 吉田は内海説が集団概念の全面的否定につながると警告しながらも, 経済量を統計学のなかにとりこもうとした点を評価した(蜷川の「大量」の4要素の規定が非弁証法的であるとし, この点で内海に同意)。また木村は, 内海が集団概念の絶対性を否定したこと, 社会集団の調査結果でないものも統計として認知したことを評価した。広田は社会集団説の立場に立ちつつ, 経済活動を示す数字も統計と規定した。なかでも一番, 本質をついていたのは, 大橋が, 内海統計対象論による統計対象の拡大を統計学の社会測量学=計量社会学方法論への解消につながるとみたことである。「社会集団説よりする内海統計対象論に対する批判の究極的根拠はここに存すると考えられる」(p.192)と筆者は述べているが, これに対しては, さまざまな数理主義的の傾向に反発するのが内海理論だったはず, とここでは, 内海を擁護している。この言説の直後に「我々は統計対象の性質に応じて, 大量観察が不可欠と認められる場合には, あくまでもそのかけがえのない意義と絶対的な必要性を力説しなければならない」(p.192)と締めくくっている。
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