社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

野澤正徳「部門連関バランスと社会的生産物」『経済論叢』第100巻第4号,1967年10月

2016-10-17 21:32:44 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
野澤正徳「部門連関バランスと社会的生産物」『経済論叢』第100巻第4号,1967年10月

 中央統計局は,1962年,「1959年ソ連国民経済における社会的生産物の部門連関バランス」を作成した。これ以前から,同バランスの研究は続けられていた。決定的だったのは,1960年4月ソ連科学アカデミー主催「経済研究と計画化における数学的方法の適用に関する学術会議」での部門連関バランスの価値の確認で,その後中央統計局はその実際的作成にまい進することとなった。その背景には,第一にソ連経済の生産構造の高度化,複雑化が顕著となり,各種の生産物の生産と消費を中心とした連関と釣合をきめ細かく計画化する必要に迫られたこと,第二に国民経済の効率的合理的運営が強調され,生産力の合理的配置,投資の効率化,諸資源の最適配分といった課題が日程にのぼっていたことがある。

 本稿の課題は,当時脚光を浴びるにいたった部門連関バランスの意義と限度を考察することである。筆者はこうした課題には問題点が2つあるとし,一つは部門連関バランスとマルクス再生産の関連を究明すること,もう一つは部門連関バランスの数理的側面の経済的意味を明らかにし,連関バランスの経済学と計画化への導入についてその意義と限度をさぐることであると述べている。本稿ではそのうちの前者が扱われている。

 構成は,「部門連関バランスの基本構成」「部門連関バランスにおける社会的総生産物の構成と循環の表示」「部門連関バランスと再生産表式」「部門連関バランスと国民経済バランス」となっている。「部門連関バランスの基本構成」では価額表示バランス(もう一つ現物表示バランス)を例に,その内容を紹介している。部門連関バランスは4象限の碁盤縞の行列形式の表示をした統計表である。第Ⅰ象限は,社会的生産物の生産的消費への配分,物的生産の全部門(83部門)の間の生産的連関を反映する。第Ⅱ象限は,国民所得の物的構成,国民所得の消費と蓄積への利用,第Ⅲ象限は国民所得の価値構成,純生産物の基本的要素,第Ⅳ象限は国民所得の再分配の若干の要素を表示する。

 このバランスは,社会主義的生産における社会的総生産物の価値構成,物的構成を捉える統計表である。この観点からとらえるならば,第Ⅰ象限は生産手段の補填部分の物的構成と価値構成を,第Ⅱ象限は国民所得の物的構成を,第Ⅲ象限は国民所得の価値構成を反映している。同時に,それは社会的総生産物の循環を,すなわち第Ⅰ象限は生産手段(労働手段)の生産と補填の過程を,第Ⅲ象限は国民所得の分配,再分配を,第Ⅳ象限は国民所得の再分配局面,再分配の結果の最終所得の形成とその個人的,社会的フォンドへの利用を,第Ⅱ象限は国民所得の支出,利用局面,国民所得の消費,蓄積フォンドの支出,利用による国民所得の物的諸要素の消費と蓄積を反映している。労働手段の貨幣補填と現物補填は,このバランスでは第Ⅰ象限の下の横行と第Ⅱ象限の縦列に示される。部門連関バランスは,社会的総生産物の構成と循環とを同時に反映していることになる。

 次いで筆者は部門連関バランスとマルクス再生産表式を対比,検討している。この検討をとおして,バラン的表示が均衡を前提としていること,またそれが直接には社会的総生産物の構成を示しながら,同時に国民所得の分配と最終利用をも反映していることが明らかにされている。再生産表式と部門連関バランスとの対比によって,後者の特徴は物的部門の分割が他部門化されていること,本源的所得の具体的諸形態が表示されていること,国民所得の利用の社会主義的形態が表示されていること,国民所得の再分配過程を一定の限界内(再分配の経路を欠いた状態で再分配の結果のみ)で反映していること,である。
 それではこの部門連関バランスの登場は,伝統的な国民経済バラン体系といかなる関係をもつのであろうか。国民経済バラン体系は,次のような構成をもつ。(1)国民経済バランス総括表,(2)国民経済の労働資源バランス,(3)社会的生産物の生産,消費および蓄積のバランス=総合物財バランス,(4)社会的生産物の分配,(5)国民経済における社会的生産物と国民所得の生産,分配および再分配バランス=財務バランス,(6)社会的生産物の国民経済二大部門再生産,(7)国民経済の固定フォンドバランス。

 このうち社会的生産物の生産,消費および蓄積のバランス=総合物財バランスと連関バランスの第Ⅰ,Ⅱ象限は基本的に同じ内容である。しかし,総合物財バランスの物的支出欄に示される生産的連関の表示は生産部門の大分類に依拠し粗いものであるが,連関バランスのそれは詳細な生産的連関表示となっている。国民経済における社会的生産物と国民所得の生産,分配および再分配バランス=財務バランスにおける国民所得の循環の三局面(第一次分配,再分配,最終利用)は,連関バランスの第Ⅲ,Ⅳ,Ⅱ象限にほぼ対応している。このような対応関係をもちながら,連関バランスは詳細な部門分類により社会的総生産物と国民所得の構成,循環の部門構成をより具体的に表示し,この意味で国民経済バランスの具体的展開という意義をもつが,他方では社会形態の表示の欠如,再分配局面の表示の不完全さという限界に直面している。部門連関バランスは伝統的なバランス方法に代位する方法をとるものではなく,国民経済バランス体系の一環として位置づけられ,基本表の補助的役割を果たすものである。

 最後に筆者は,部門連関バランスにおける社会的総生産物の反映を評価するうえで,固定フォンドの回転の表示が重要であるとして(固定フォンドの価値補填[減価償却]と現物表示,「最終生産物」概念と減価償却,固定フォンドの存在と部門連関の表示など),爾後の課題として確認している。
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