社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

木村和範「平均概念について-ジニ『平均論』(ミラノ,1558年)断章」『学園論集』(北海学園大学)第56巻第3号

2016-10-17 15:21:13 | 4-2.統計学史(大陸派)
木村和範「平均概念について-ジニ『平均論』(ミラノ,1558年)断章」『学園論集』(北海学園大学)第56巻第3号,2008年(「平均の概念」『ジニの統計理論』共同文化社,2010年)

 所得分布の不平等度を計測するジニ係数で知られるジニは,統計の他の分野でも多くの仕事を残した。平均論の分野での業績は,その一つである。

 この論稿では,ジニのその「平均論」が取り上げられている。ボローニャで開催された第27回イタリア科学振興協会研究大会(1938年)やイタリア統計学会ピサ大会(1939年)が切掛けとなり,ジニが有志とともに,平均をめぐる諸論点整理のための研究会をたちあげた。そこでの議論の成果は,『平均論(Gini,C.,Le Medie, in collaborazione con Gustavo Barbensi, Luigi Galvani, Stefania Gatti, Ernesto Pizzetti, Milano,1958)』として公にされた。筆者はこの著作を手掛かりに,ジニの平均論を紹介,検討している。筆者自身が本稿の要点を,以下のように掲げている。(p.132)

・『平均論』はジニの単著と言うより,第二次世界大戦以前からのジニの構想を実現するためにローマ大学で組織された研究会の成果であり,そこにはイタリア学派における「平均論」の共通理解が示されている。

・ジニは平均を「解析的平均」と「非解析的平均」とに区分した。後者の「非解析的平均」は位置上の平均で,今日計算上の平均と対照される位置上の平均である。

・ジニの「解析的平均」は,平均を,もとめるべき実数の系列に関する関数関係において把握する。この点が関数関係によって表現できない「非解析的平均」と異なる。

・ジニの「計算的平均」とは,平均をもとめるべき系列のなかで,現実に対応する項を見出しえない数値である。このため,通常,用いられる計算的平均とは異なった意味をもつ。

・ジニの「解析的平均」には「固定的」,「非解析的平均」には「弛緩的」という特徴がある。「固定的」とは系列を構成する項の数量的規定性に関する変化に平均の値が鋭敏に反応することを言う。

・キズィーニは,平均Mが関数関係f(M,M,・・・,M)= f(x_1,x_2,x_3,・・・,x_n ) を満足する値であると定義した。

・ジニは,上式を満たすMを「平衡数」と名づけた。相加平均や相乗平均は「平衡数」に一致するが,すべての「平衡数」がジニの「平均」と一致するとは限らない。ジニは,この理由によって,この式が「解析的平均」の一般式として適当でないとした。

・上式が「非解析的平均」はもとより,「解析的平均」の定義式としても有効でないとジニが主張した根拠は,「内部性の要請」である。この「要請」は平均が実数の系列において,小さい値の項よりも小さくなく,大きい値の項よりも大きくないという,あらゆる平均が満たすべき条件である。

・この論稿では,筆者は上式を平均の定義式とするキズィーニをawariya派に属する論者に,「内部性の要請」を満たす実数をもって平均とみなすジニを medianus 派に属する論者に分類することで,論点が際立たせた。

 文中,平均を表す英単語,average と mean の意味上の相違が解説されている(p.131)。average は,アラビア語の「傷物」を意味する。損害保険の分野では,これが転じて航海で発生した損害を意味し,また「損害額を割り当てる」という動詞としても使用された。そこから,average はさまざまな値を「ならす」という意味での「平均」となった。キズィーニの平均の定義式は,average に対応していると言う。

 これに対し,mean はラテン語の medianus (中間にあるもの)を語源とし,「両極端の中央に位置するもの」という意味がある。さらには意図や結果との中間にあってそれらを結びつける「手段」「方法」という意味が,あるいは生きるための「手だて」を購入する「収入」や「財産」の意味がある。筆者によれば,ジニの「内部性の要請」は,meanの語源としてのmedianus に対応している。

 末尾に「数学注」がある。メジアンとモードの解説である。

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