社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

内海庫一郎「フランクフルト学派統計学の略図」(『経済学研究』(北海道大学)29巻1号,2号, 1979年

2016-10-17 11:27:34 | 4-2.統計学史(大陸派)
内海庫一郎「フランクフルト学派統計学の略図」(『経済学研究』(北海道大学)29巻1号,2号, 1979年

後期ドイツ社会統計学に位置づけられるフランクフルト学派の系譜を紹介した論文。フランクフルト学派の統計学のわが国への紹介が断片的であり, それを通史的に整理したものがなかったので, 筆者は必ずしもその分野の専門家ではないが, 有田正三, 足利末男などの業績にたよりながら, その図式化を試みた, とある。また, 戦後の日本の統計学会は, 記述統計学から推測統計学へ重心を移し, 数理統計学一辺倒の傾向があるので, フランクフルト学派のような, 伝統的ドイツ社会統計学を, 独自の哲学をベースに継承しつつ, 数理統計学をも批判的に摂取する統計学もあるのだと示したかったようである。現時点では, 有田正三「フランクフルト学派の統計学理論について」『経済学の諸問題』[故金澤尚淑博士追悼論文集・編集委員会]大阪経済法科大学出版部, 1987年; 長屋政勝『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年, があるので, フランクフルト学派の略図は正確にフォローできるので, 本稿が必ずしも必須文献というわけではないが, この論稿が出るまではそれがなかったのである。その意味で, この論稿はフランクフルト学派の系譜を概観する作業に先鞭をつけた論稿であり, また筆者の個性が際立って内容的に面白いので, いまでも一読に値する。

 全体は, ドイツ社会統計学のマイヤー的形態, フランクフルト学派のチチェク段階, フラスケムパー段階, ブリント段階, そしてメンゲスと, それぞれの統計学の内容がポイントをとらえて紹介されている。

 マイヤーの所説では, 「実体科学としての統計学」「実質的意味における統計学」が強調される。チチェクの所説では, 「形式科学としての統計学」, 統計利用論に焦点がしぼられて, その統計学が統計数獲得論=統計調査論, 統計数解釈論=統計利用論から構成されていることが指摘されている。フラスケムパーの所説では, (1)認識目的の2元論と(2)事物論理と数論理の並行主義がとりあげられている。ブリントの所説は, 「社会統計的認識の本質と不十分性」「確率論的手法の本質と不十分性」に分解されて検討されている。メンゲスの所説では統計的認識目標の2元論と統計調査の二重性, 推論に関する詳論の紹介がなされている。次いでメンゲスによるフランクフルト学派の思想的要約, フランクフルト学派の「思想財産」と「近代的科学思想」との親近性の模索が披露されている。

 文中, マイヤー型社会統計学とソ連の統計学論争の結語との比較についての, あるいはその同じマイヤー統計学の日本の統計学界に与えた影響についての言及が挟まれ, 興味深い。それらは具体的には,マイヤーの実体統計学と50年代のソ連統計学論争のオストロヴィチャノフ報告との比較であり, あるいは日本では財部静治, 高野岩三郎に影響を与えたこと, チチェクのわが国への影響は小さく岡崎文規, 竹田武男のわずかの訳がある程度だが(当時), 四基本概念が蜷川虎三の大量観察の4要素と親近性があること, 杉榮がフラスケムパーの影響をうけ, また関弥三郎の統計学がフラスケムパーのそれを前提していたことの指摘である。

 『統計学古典選集』の紹介, チチェク“Grundrisse der Statistik”の編別構成, フラスケムパーの「一般統計学」の論点系列を掲げながら, この学派の特徴の要点を説明していく手法はユニーク。

 巻末に, チチェク, フラスケムパー, ブリント, ハルトウイック, メンゲス, グローマンの文献が掲載されているが, これは有田正三によるとのこと。
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