社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

広田純「『統計学の諸問題に関する科学会議』の検討-その2 決議を中心に-」有澤広巳編『統計学の対象と方法-ソヴェト統計学論争の紹介と検討-』日本評論新社, 1956年

2016-10-17 21:21:41 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
広田純「『統計学の諸問題に関する科学会議』の検討-その2 決議を中心に-」有澤広巳編『統計学の対象と方法-ソヴェト統計学論争の紹介と検討-』日本評論新社, 1956年

 筆者は本稿で, 山田耕之介論文「『統計学の諸問題に関する科学会議』の検討-その1 議事録を中心に-」(有澤広巳編『統計学の対象と方法-ソヴェト統計学論争の紹介と検討-』)を受け, ソヴェト統計学論争の「決議」を資料に, その意義と問題点を洗い出している。

 決議には次のような統計学の規定があった。筆者はまず, この規定が問題である, とする。質と量の区別にもとづいて科学の対象を規定できない, 対象の量的側面だけを扱う実体科学は存在しない。それでは, 学問としての統計学の対象は何であるのか。

 普遍科学方法論説, すなわち数理派に属する研究者は, その範囲に自然現象と社会現象を含める。その根拠は, 具体的な現実では, 社会現象と自然現象とが相互作用していること, そのどちらも大量的現象, 大量的過程が存在し, そこに大数法則が適用できることにもとめる。しかし, 筆者はこの説明に, 疑問を投げかける。社会現象と自然現象との相互作用の存在は, 両者を区別する必要性を否定するものではない, 大量的現象, 大量的過程がすべて大数法則の作用する現象, 過程とは限らないからである。さらにもっと重要な問題点は, 統計ないし統計調査の対象あるいは統計による研究の対象との問題が, あたかも科学としての統計学の対象の問題と全く同じ問題であるかのように混同していることである。両者は, 全く別個の問題である。

 筆者は次に統計ないし統計学が科学的認識にとってどういう意義をもっているか, と問うている。ここでは, 統計学が社会認識の独自の科学的方法をもつこと, その意味での認識論的意義をもつこと, 統計の批判的利用の見地から, それぞれの統計がなにを対象として, どのような機関によって作成され, どんな方法で調査されたのか, またその調査結果はいかにまとめられたのか, すなわち統計資料そのものの吟味の必要性が強調されている。つまり統計の認識論的意義を云々するには, 歴史的・社会的な材料としての統計そのものの特質が明らかにされなければならない。

 統計学の方法は, どのように議論されるべきなのだろうか。この問題について, 筆者は統計方法の理論的基礎に大数法則をもとめる見解を批判し, 同時に普遍科学方法論説あるいは社会科学方法論説の立場からでは, 歴史的に作成され, また今後とも作成されるであろう各種の特殊な統計方法をあますところなく説明することはできないとして, これらの立場を退ける。「統計方法は科学としての統計学の方法ではなく, むしろ科学的に研究されるべき統計学の内容, あるいはその対象の一部ということ」になる(p.108)。

 最後に, 筆者は数理統計学の利用について, 会議でどのような議論があったかに言及している。会議では, 一方で数理的, 形式主義的偏向が厳しく批判されたが, かなりの統計家が大数法則の過小評価, サンプリング理論の無視にたいして抗議する見解があったようである。オストロヴィチャノフも次のように述べていた, 「統計学は場合によっては, 確率論をふくめて数理統計学の方法を首尾よく利用する。数理統計学は, 社会経済関係の研究領域においては, 応用範囲が限定されている。すなわち, 技術的計算法, 抽出法, 大数法則, 確率論といったものだけである」と。筆者はこの紹介をしながら, なぜ技術的計算法, 抽出法, 大数法則, 確率論といった項目がとりあげられたのか, またそれらを統計学が利用するというのはどういう意味なのかが, このオストロヴィチャノフの文言からはよくわからないと書いている(p.110)。サンプリングの理論の評価を含め, 数理統計学の位置づけがすっきりしないまま, 討論の過程でくすぶっていたわけである。

 文中, 単一の国民経済計算制度と大量的統計観察の方法の研究, および統計資料の分析方法の究明を統計学の課題とした中央統計局のチェルメンスキーの見解に親近性を表明している箇所が印象に残った(p.93)。
ジャンル:
きいて!きいて!
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 山田耕之介「『統計学の諸問... | トップ | 田沼肇「ソヴェト統計学論争... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む