社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

長屋政勝「社会統計学の『外敵』と『内敵』-マイヤー統計学の批判をめぐって-(第1章)」『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年

2016-10-17 11:39:09 | 4-2.統計学史(大陸派)
長屋政勝「社会統計学の『外敵』と『内敵』-マイヤー統計学の批判をめぐって-(第1章)」『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年

 1920年代までにドイツ社会統計学を代表する理論であったマイヤーの統計理論=精密社会理論は,1910年頃から斯界における批判にさらされるようになった(直接的には, マイヤーの『道徳統計学』[第一分冊]1909年, に対する批判)。これらの動きは, (1)個別科学における経験的社会研究の進展, (2)「論理派」「認識派」の統計学との拮抗, (3)数理統計学の台頭と伝播に集約される。前2者がマイヤー統計学の「外敵」, 最後の数理統計学派が「内敵」である。筆者はこの3つの要因を, 詳細に分析し, マイヤーの統計学の行き詰まりと, それを超克する新たなドイツ社会統計学であったフランクフルト学派の統計学の形成を展望している。

 「外敵」の一つとみなされたのは, 1900-30年代における経験的実証研究の飛躍的発展である。それらは資本主義社会の深刻な社会問題(農・工業労働者, 手工業従事者の生活と労働条件, 住宅問題, 失業問題, ストライキの発生, 出生率の低下, 犯罪と非行, 浮浪, アルコール中毒, 性病)の実態把握のための調査であった。個別問題に則しての, モノグラフ的研究, 調査分析, アンケート, 社会調査, 心理的測定, 社会医学調査がさまざまに実施された。マイヤーはこれらを「統計外調査」と位置づけたが, 経験的実証研究の隆盛はおとろえを知らず, いきおいそれまで統計家が専売特許としてきた社会現象の数量的研究の枠をせばめ, それを相対化し, 実質科学としての統計学の比重を小さくすることとなった。

 次の「外敵」は論理学派, 認識論派の統計学であった。論理学派, 認識論派の見解では, 統計学は独立の実体的学問ではなく, 統計資料蒐集と整理・加工の方法論的検討を任務とする科学である。こうした考え方は実はリューメリン以来, ドイツ社会統計学の底流にあり, マイヤー的統計学を終始牽制する役割を果たしていた。マイヤー統計学批判のこの流れにのって登場したのが社会学者のテンニースである(1909年にドイツ社会学会を結成)。ドイツでの社会医学, 教育学, 心理学, 犯罪学の分野での実証分析の成果を背景にしたテンニースの場合, その批判の舌鋒は鋭く, マイヤー統計学が行っていることは政府統計を唯一の資料源とした調査結果の分析にすぎず, 諸現象の個々の表面的事実の確認にすぎないとして, 経験的社会学への統計学の吸収, その解体をせまった。

 マイヤー統計学の存在根拠をおびやかした第三の旗頭があった。数理統計学派の台頭である。ひとくちに数理統計学派といってもその傾向は多様であったが, 共通していたのは, 与えられた数値集合なり系列を確率論的集合ととらえ, そこに数量的規則性の発言を検証し,正規分布をふくめたさまざまな分布型の定式化, 分布を特徴づける測度の算定, 測度間の関連, 分布間の相関, 系列変動の安定性あるいは周期性を統計方法とみなし, そこに統計学の発展の可能性を追求する姿勢である。確率論にもとづいたデータの数理的解析法を, L.v.ボルトケヴィッチは「ストカスティーク」と呼んだ。マイヤーはこの動きが数理統計学一辺倒に傾く危険性を読み取り, 批判的態度を堅持した。しかしながら, 統計解析の普遍的方法としての数理派の自立化は衰えることなく, ドイツ社会統計学はむしろこの流れを理論的に整理し, 体系のなかに位置づける方向に変化していく。彼らの態度変更はここまでくれば, フランクフルト学派の登場まであとわずかであった。

 筆者は以上のようにマイヤー統計学が行き詰まりをみせていく過程を詳細に活写し, その結びとして1920-30年代のフランクフルト学派の形成を整理している。

 この論文を冒頭に収めた『ドイツ社会統計方法論史研究』の課題を, 筆者は次のように述べている。少々長いが, 重要なので引用する, 「本書の課題はドイツ社会統計学の展開にあって, 特に1920年代以降の社会統計方法論の構成をめぐって提示された論題と論点を整理し, それらの検討を通じて形成されてゆく統計方法論の特徴を明らかにすることにある。より具体的にいうと, 第一次世界大戦に生じた社会統計学の理論的転換の中で, 統計学を方法科学と規定する見解にとって解決を迫られた基本問題を究明することである。ここでいう理論的転換とは, 19世紀末に成立したマイヤー的統計学=実体科学としての社会統計学が, 内外の諸契機に促され, 実体的部分を切り離し, 方法科学として再編されること, つまり, マイヤー的構想が崩壊した後のドイツ社会統計学の分断状況の中から, 統計学が方法科学, しかも社会科学的に基礎づけられた統計方法論として再生し, 自立することをさす。この転換過程はまた対象規定と方法構成をめぐって社会統計学の理論構成に深刻な影響を与え, 有意味な議論の提示を促す。これらの議論に現れた主要論点, それに対する特徴的見解を追跡し, これらが結果として社会統計学方法理論の再構成にどのように関与したかを解明すること, これが本書の課題である」(「序言」)。
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