社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

岩井浩「消費者物価指数の対象反映性」『経済論集』第25巻第2­4号, 1975年

2016-10-16 15:30:54 | 9.物価指数論
岩井浩「消費者物価指数の対象反映性」『経済論集』(関西大学)25巻2­4号, 1975年

 本稿の課題を筆者は, 消費者物価指数の基本性格(その基本的概念と方法および経済理論的基礎)を, その対象反映性の問題に限定して解明すること, としている。本論に入る前に, 予備的考察を行っている。そこでは, 現行CPIに対する批判の論点, 指数が何を測定しているのかの解釈(一般的物価水準なのか, 個別物価水準=特定購買力の変動なのか, 生計費なのか)についての整理が与えられている。

 本編は二章構成である。第一章では, ILOの国際労働統計家会議を中心とする指数の国際的標準化の変遷が追跡され, 消費者物価指数の目的, 性格, その理論的基礎と方法に関する種々の見解, また現行CPI作成実務における支配的な概念と方法(「固定マーケットバスケット法」)について解説されている。第二章では, CPIの対象反映性が労働価値説の観点から検討される。以下にこの順で, 筆者の論稿の要約を掲げる。

第一章。CPIの国際基準は, ILOの国際労働統計家会議を中心にこれまで議論されてきた(1925年の第2回会議以降)。現在, 使用されている「固定マーケットバスケット法」(ラスパイレス算式)によるCPI(生計費指数)の基本的概念と方法は, すでに, この第2回会議で明らかにされていた。その内容は, 生計費指数は当初から, 賃金の購買力指数として, 一般に労働者の生活標準を不変的に維持する費用(「家計支出調査」による)の変動を測定する原理にもとづいて作成されること, 標準世帯の家計支出にしめる品目とウェイトの選択は家計支出調査(実態生計費調査)にもとづく「標準支出法」あるいは「家計支出法」によって行われること, それらは社会階層ごとで作成されるべきこと, 指数算式は一般に個別価格の変動を基準時のウェイトで加重平均する「固定マーケットバスケット法」(ラスパイレス算式)によること, などであった。

 次いで注目すべき会議は第6回(1947年)のそれで, ここで生計費指数の消費者物価指数への呼称変更が決まった。この変更は, この会議にいたる各国での(とくにアメリカ)議論を踏まえてのことである。その主要な理由は, 生計費の変動を測定するとなると, 価格変動以外の要因をも考慮に入れなければならないが, 「固定マーケットバスケット法」では家計によって購入される財貨とサービスの種類と構成は不変とされる, したがってそれは世帯が費やした総支出の変化を測定するものではない, したがって生計費指数は厳密に表現すれば, 生計価格指数, あるいは生計費価格指数である, ということにあった。

筆者はこの第六回会議の内容を細かく紹介し, さらに第九回会議(1957年)でのポイントに簡単にふれた後, アメリカの「スティグラー・レポート」の紹介に紙幅を割いている。このレポートで提唱されたのが, 不変効用指数(一定不変の効用水準を維持するためのコストを測定した指数), さらに進んでは「不変的福祉的消費水準指数」であった。この提唱が, いわゆる「真の生計費指数」(関数論的生計費指数論)の延長上にあることはいうまでもない。周知のように, 「真の生計費指数」は一定の満足水準に対応する商品の集計という生計費の主観的規定のもとに, 同一の満足度を与える貨幣支出額の比較を, あるいは等価的貨幣支出額の比較を目的として作成される。(不変効用指数は, BLSのS.ジャフェなどによって, その非現実性が批判された)。このスティグラー・レポートを背景に開催された第10回国際労働統計家会議は, CPIの概念と方法に関する従来研究を総括し, 「真の生計費指数」論の展開をふまえ, 固定バスケットにもとづくラスパイレス指数を「真の生計費指数」の代用(近似値)とした。

 第二章では, 労働力の再生産費という観点から, CPIの考察を行っている。その際, C.M.ニキーチンの所説を援用している。それによると, 資本主義国で作成されているCPIの問題点としては, 指数計算の項目に消費支出のカテゴリーにかかわるものだけがとりあげられていること, 指数世帯が高所得層に偏っていること(低所得層の比重の低さ)がまず, 指摘されている。しかし, ニキーチンにあっては労働力の価値, その再生産費としての労働者の生計費と消費者物価指数の理論的関係の分析が不十分であるとして, そもそも労働力の価値とは何か, その現代的諸形態がどのようであるかを教科書的におさえ, 次いで筆者は労働力の価値を構成する品目を実際の家計簿の費目構成と対照して, その範囲を確定している(参考資料として, 伊藤セツ, 荒又重雄の研究が下敷きになっている)。それとの関係で, 現行CPIの生計費の資料構成に対するいくつかの問題点を示し(「非消費支出」「実支出以外の支出」の除外, 労働力の再生産費の「社会化」部分の無視, 基準時点の変更の形式性など), 同時に春闘共闘委員会による家計調査にもとづく消費者物価指数を評価し, その紹介を行っている。紹介は具体的で詳細である。春闘共闘委員会による当時の物価指数が政府公表のそれより, かなり高めに出ていることが, 興味深い。

 筆者はこの論文で, 消費者物価指数の多岐にわたる論点を手際よく整理, 要約し, その作業をふまえて, 労働者の家計費(生計費)にしめる労働力の再生産費を基礎にした物価指数の作成を展望している。その生きた事例として, 春闘共闘委員会による家計調査にもとづく消費者物価指数の試みを参考にしていること, また労働者の世帯については, それを階層別に区分し, それぞれの層に対応した物価指数(生計費価格指数)の作成が重要であることを繰り返し主張していること, など今日でも有効な議論が展開されている。
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