社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

玉木義男「消費者物価指数算式の選択基準-ラスパイレス算式の選択と性格をめぐって-」『新潟大学経済論集』第18号,1974年―Ⅱ

2016-10-16 12:03:14 | 9.物価指数論
玉木義男「消費者物価指数算式の選択基準-ラスパイレス算式の選択と性格をめぐって-」『新潟大学経済論集』第18号,1974年―Ⅱ

 ラスパイレス式(固定基準加重算術平均)によって計算される現行消費者物価指数は,消費標準物価指数である。ほとんどの国(90%以上)が,消費者物価指数の計算にラスパイレス式を使っている。I.フィッシャーによれば,物価指数の算式は優に100を超える。数ある指数算式のなかで,ラスパイレス式が実用化されているのはなぜだろうか。それが経済理論的に唯一無二だからだろうか。筆者はこの問いにこたえるために,本稿を書いた。
結論から言えば,ラスパイレス式が定着したのは理論的根拠があるからではなく,それがすぐれて最も実用的であったからである。

 この結論はどのように導かれたのであろうか。以下に,筆者によって示された,そのプロセスを纏める。

 筆者はどの指数算式が妥当であるかを,判断する選択基準に言及している。大きく分けてそれを理論的選択基準と実用的選択基準に分けて考えることができる。前者の理論的選択基準はさらに,主観価値説的選択基準(原子論的選択基準と函数論的選択基準)と客観価値説的選択基準とに分かれる。主観価値説的選択基準にうちの原子論的選択基準とは,価格と数量との関係が独立であると仮定して指数算式を数理形式的に選ぶ基準である。これに対し,主観価値説的選択基準のうちの函数論的選択基準とは,価格と数量との間に函数的相互依存関係を前提として,二時点間における等しい主観価値をもつ貨幣支出額の変化を測定するというものである。フリッシュは,この函数論的指数論の型を限界値論,近似値論,弾性値論に分類した。客観的価値説的選択基準は,貨幣一単位に含まれる社会的労働量の変化を測定する物価指数論にもとづく。

 さて,原子論的選択基準を定式化したのは,フィッシャーである。フィッシャーは物価指数の算式はすべての方向で公平でなければならいとして,算式吟味の形式的テスト,すなわち商品転逆テスト,時点転逆テスト,要素転逆テストを開発した。これらのうち,商品転逆テストは,商品の順序を変えても指数の値は変わらないことを要求するテストで,ほとんどの算式はこれを満たす。したがって重要なのは,時点転逆テストと要素転逆テストである。時点転逆テストは,時点0を基準にした時点tの指数は,時点tを基準にした時点0の指数の逆数にならなければならないことを要求するテストである。ラスパイレス式,パーシェ式は,このテストに合格しない(エッジワース式,フィッシャー式は合格)。次に要素転逆テストであるが,このテストは,物価指数P0tと数量指数Q0tとの積が金額指数に一致することを要求するテストであるが,ラスパイレス式もパーシェ式も不合格となる(フィッシャー式は合格)。原子論的選択基準は形式的テストであって,実はあまり意味のあるものではないが,それにしてもラスパイレス式はこの種のテストで良い結果がでない。したがって,ラスパイレス式は原子論的選択基準からみて最良の指数算式と認められているわけではない。
次に函数論的選択基準である。函数論的指数論は,ハーバラー以降の指数論の中心的地位を占めている。その理由はその物価指数算式が,価格と数量との関係に一定の経済的関係を認めるので,原子論的指数論より現実的ということであった。そうは言っても,この指数論は2時点間における効用の「等価性」について測定可能ということを前提として成立するのであり,その前提自体が観念的である。効用の等価性のような心理的主観的概念をどのようにして測定できるのであろうか,という疑問が出てくる。函数論的選択基準にしたがって考察しても,ラスパイレス式は限界値論では「真の物価指数」よりも上方に偏していて,フィッシャー式やエッジワース式よりも劣るとみなされ,近似値理論ではボーレーの近似算式やフリッシュの福支出法よりも優れているとは言えない。したがって,ラスパイレス式は,函数論的選択基準によって推奨されるわけではない。

 客観価値説的選択基準は,そのよってたつ経済理論がラスパイレス式のそれとは水と油の関係なので,前者の基準が後者の算式を推奨する関係にないことは言うまでもない。

 最後に筆者は,実用的選択基準からラスパイレス式の検討を行っている。総理府統計局(当時)は,算式の選択基準として,「正確性」「迅速性」「経済性」「意味の明確さ」を掲げているので,それらにそくしてラスパイレス式を評価している。「迅速性」「経済性」の基準からみると,ラスパイレス式は基準時のウェイトを5年に一度もとめておけばよいので都合がよい(早く安く)。総務省の言う「正確性」は数理的形式的「正確性」,すなわち一定の仮定のもとでの形式的整合性という意味である。「意味の明確さ」は,ウェイトを基準時に固定して価格だけを変化させて物価の変動をみる仮定で単純化したモデルという意味での条件付きの「明確さ」である。「したがって,消費者物価指数は,消費水準における物価水準の変動をあるがままに正しく反映させるような算式であるべきだという本来の観点からすれば,このような実用的な選択基準は,いわば二義的な選択基準といわなければならないであろう。/ということはまた,実際に使用されているラスパイレス式は,そのような二義的な基準によって,(プラグマティックに-引用者[但し,文中の筆者の用語])選ばれているということでもある」(p.109)。            
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