社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

内海健寿「チャールズ・ブースの統計調査『ロンドン住民の生活と労働』(1902-1904)の歴史的意義」『統計学』(経済統計研究会)第47号,1984年9月

2016-10-17 20:14:19 | 4-3.統計学史(英米派)
内海健寿「チャールズ・ブースの統計調査『ロンドン住民の生活と労働』(1902-1904)の歴史的意義」『統計学』(経済統計研究会)第47号,1984年9月

 チャールズ・ブースの貧困研究 ”Life and Labour of the People in London, 17vols.1892-1902”(ロンドン住民の生活と労働)[全17巻]の意義を紹介した研究ノート。チャールズ・ブース(1840-1916)は,実業家(舟主)で社会問題研究家。1886年にロンドンにおける住民の状態と職業の調査を準備し,翌年からイースト・エンドの調査に入った。調査の目的は,貧困,悲惨な境遇,堕落の数字的資料を得ることであり,諸階級の生活の一般的状態を知ることであった。

 調査の結果,貧困の原因は失業と低賃金であり,それに付随した怠惰,酩酊,浪費,病気などであった。ブースは貧困者,極貧者の約4000の実例を分析してこの結論を得た(ブースの原因分析の表がp.103に掲載されている)。ブースの統計調査によって,貧困が社会問題として意識されるようになり,その最大の原因が低賃金にあることをつきとめたことが,その歴史的意義として記憶されている。

 チャールズ・ブースには,ウィリアム・ブース(1829―1912)という兄がいた。筆者はこのウィリアム・ブースに若干,言及している。それによると,ウィリアムは宗教家で,救世軍の創始者である(1878年)。イギリス国教会に属していたが,回心してメソジスト教会に転じ,後に独立して下層階級に対する伝道者となった。チャールズの上記の大著は,ウィリアムズの慈善事業を科学的にするべき統計的資料となった。

 チャールズの業績は,日本でどのような影響を及ぼしたのであろうか。筆者は,横山源之助『日本の下層社会』(1898年)刊行のおりに日野資秀がこの著作の「序」でチャールズに触れていること,『労働世界』という雑誌にチャールズの業績に敬意を表した記事があること,青盛和雄がその労作『人口学研究』のなかでチャールズの調査を引用した野尻重雄『農民離村の実証的研究』に触れ,紹介していること,大戦後には社会学者一柳豊勝,品川満紀編『社会福祉の歴史』でチャールズの調査が注目されたことをあげている。

 チャールズによる調査が日本の研究者に与えた最大のものは,なんといっても,高野岩三郎(1871―1949)に対してであった。高野岩三郎はチャールズ・ブースの『ロンドン住民の生活と労働』,ウィリアム・ブースの『最暗黒の英国とその出路』に強い感銘を受け,同様の問題意識と方法を用いて大都会東京における下層社会の分析を試みた。高野岩三郎は落合謙太郎と協力して,EAST LONDON IN TOKYO(1894)をこの分野の先駆的業績として公にした。横山源之助『日本の下層社会』(1898年),農商務省『職工事情』(1903)が続いた。高野岩三郎はさらに「東京ニ於ケル二十職工家計調査」を日本での最初の科学的家計調査として実施した(1916年)。なお高野岩三郎には房太郎という兄(1869―1904)という労働運動家がいて(片山潜と労働組合期成会を結成),岩三郎に強い影響を与えた。

筆者は,ブース兄弟と高野兄弟を対比して,かれらがともに社会改革者として成したおおきな仕事を高く評価し,その歴史的意義を強調している。
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