社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

足利末男「社会統計学の独自性-ドイツ統計学におけるフランクフルト学派-」『経済学論集』(福山大学), 10巻1・2合併号, 1985年12月

2016-10-17 11:33:15 | 4-2.統計学史(大陸派)
足利末男「社会統計学の独自性-ドイツ統計学におけるフランクフルト学派-」『経済学論集』(福山大学), 10巻1・2合併号, 1985年12月

 本稿は, ドイツ統計学におけるフランクフルト学派の理論を展望している。最初に, 学問としての統計学を確立したケトレー(1796-1874), それに続くリューメリン(1815-1889), マイヤー(1841-1889)が紹介され, 三人が三人とも官庁統計の実務的指導者だったことを喚起している。マイヤーは, 統計学が社会統計学における実体科学という立場を打ち出し, 研究対象としての「社会的集団」, 研究方法としての「悉皆大量観察」を明確にした。しかし, マイヤーは統計によって得られたものをも, 体系的に一つの実体科学と構想したため, 結果的にマイヤーによって実現された統計学は, グロテスクな統計知識の集積になってしまった。「実体科学としての統計学」はそれが完成したとみられた途端に, 「形式科学=方法論としての科学」への転換をせまられることになった。そこに登場したのが, フランクフルト学派のチチェク(1876-1938)であり, フラスケムパー(1886-1979)であった。

 筆者はこのチチェクとフラスケムパーの統計観を紹介するが, 後者が数理統計学の批判的摂取を意図して社会統計学の理論を組み立て直したさいの, その社会統計学の構成を示した論述が興味深い。

 筆者によれば, フラスケムパーは統計の特性を社会的事実の数とし, 社会的事実の数=社会科学的概念は有機体的, 全体的, 意味関係的性質のものとみ, その量的性格に着目した。この考え方は, 新カント派の西南学派, すなわちディルタイ, リッカート, ヴィンデルバント, マックス・ウェーバーのそれをよりどころとした。
社会的事実が数量としてとらえられるためには, それは統計的集団として再構成されなければならない。フラスケムパーはこの統計的集団を「同種の, しかし変化する単位の総体」と考え, 統計学の基本概念とした。この同種性は, フラスケムパーにおいては, さらに「事物的に有意義な標識同種性」と本質的同種性とに分かれる。

 これらの事物同種性の2分は, 統計学における「認識目標の2元論」へと導く。「事物的に有意義な標識同種性」では, 大数法則は, 何の役割も演じない。ここでは, 計量, 計数, 比較が重要である(記述的認識目標)。本質的同種性では大数法則によって, そこにある典型的なものが認識される(法則志向的認識目標)。ここでは確率論が大きな役割をはたす。
フラスケムパーの社会統計学のもう一つの構成原理は, 「事物論理と数論理の並行論の要請」である。社会的事実の数量化のためには, それを数えるようにする概念(事物論理的概念)が必要であり, フラスケムパーはこれを事物論理的概念の第Ⅰ類と呼ぶ。事物論理的概念には, もう一つ数量的関係の実質的意味を明らかにするものがあり, これは事物論理的概念の第Ⅱ類と呼ばれている。社会統計学で用いられる数理的方法は, 数学の本質から出てくる特殊な性質と, それが適用される対象のもつ意味によっても制約される。フラスケムパーはこの並行の要請が自らの創見として誇っていたようである。

 本稿はドイツ統計学の立ち遅れを数理統計学の批判的摂取によって克服しようとしたフランクフルト学派の学問的営為を平易に解説し, この学派の再評価を試みたものである。
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