社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

有田正三「リューメリンにおける統計学の構造と性格-ドイツ社会統計学の形式化の問題・その1」『彦根論叢』第20号,1954年

2016-10-16 21:39:01 | 4-2.統計学史(大陸派)
有田正三「リューメリンにおける統計学の構造と性格-ドイツ社会統計学の形式化の問題・その1」『彦根論叢』第20号,1954年

 統計学の形式化を構想したリューメリン(1815-89)の統計学を紹介,検討した論稿。ドイツ社会統計学は20世紀に入ってその形式化を強めたが,それに先立ちマイヤーが独立の学問としての統計学の体系化を図っていたちょうどその頃,統計学の形式化に先鞭をつけた統計学者がいた。リューメリンがその人である。本稿ではそのリューメリンの主著『統計学の理論について』により,彼による統計学の概念と構造を分析することが課題とされる。

 リューメリンによると,統計学は統計方法という一つの特殊な研究方法の使用を目的とした学問的実践である。統計学は対象(自然または社会)の知識の体系ではない。ましてや,独立の学問でもない。それは他の経験諸科学の補助科学である。要は,リューメリンにあっては,統計方法という一つの形式的手続きの応用,観察手段の使用が統計学である。
リューメリンに特徴的なのは,統計によって得られる国家あるいは社会の知識を分解し,これらを統計方法の使用と使用される客体という2つの要素に還元し(方法と題材の分離),後者を捨て前者をとったことである。ここで重要になるのは,統計方法のいわゆる普遍的意義の獲得ならびにその認識である。統計方法は,形式的に一定の条件さえ満たされるならばどのような学問領域にも応用できる独立的な論理手段の一つとされる。

 方法と題材の分離,すなわち統計方法の使用をもって統計学と規定するリューメリンの立場は,統計方法の普遍化という現象を受け入れ,そのことによって必然化する統計学の解体を救う措置であった。統計学の普遍的意義の強調は,それによって得られる知識で統計学を構成する立場とは共存できない(当時の少なからぬ統計学者がそうだった)。しかし,この措置によって,統計学は解体の危機を免れるかもしれないが,いまやその性格を変え,さらに学問体系上の大きな転換,すなわち独立の学問であることをやめ補助学の地位を甘受することになる。

 リューメリンは,さらに別個の2つの学問の存在を考える。一つは「統計学の理論」,もう一つは「統計学の技術」(=「技術的統計学」)である。「統計学の理論」が取り上げるのは,統計手続きの形式的側面,すなわち統計方法の使用と言う特殊な方法的過程がもつ形式的構造の規定である。リューメリンの統計理論を理解するには,その本質である方法規定に言及しなければならない。その性格は,統計方法の本質から明らかにされる。統計方法の本質は,あらゆる人間的思惟の基本的方向のひとつをなすものと統計方法の構造とが重なりあう部分にある。統計方法の本質が規定されると,それにより統計方法の適用条件が誘導される。その適用条件をみたすものが統計方法の対象である。「集団」または「集団概念」がこれにあたる。この対象規定は方法規定の結果または結論であるが,それが与えられたところにその客体を研究対象としてもつ学問領域,すなわち応用領域がみいだされる。以上,応用領域の規定は対象領域を前提し,対象規定は方法規定より誘導される。そして方法規定では,人間的思惟の基本的生得的性質が方法の基礎となる。

リューメリンの方法的諸規定は,みられるように,極めて抽象的形式的である。しかし,それらの諸規定の具体化,実質化が全くなされていないのかというと,そうではない。多くの努力が払われているのは事実である。例えば,対象規定が妥当する客体が現実界にもとめられている。集合的概念は,人間社会の自然的集団と人工的集団に分けて考察される。しかし,これらの考察も仔細にみれば,思惟,形式,抽象性の実在,内容,具体性への転化は,形式的外的にしか問題とされず,抽象性,形式性の弊を免れていない。           

 筆者は次に,方法規定の具体化の問題に考察を進める。リューメリンのいう「統計学の技術」の検討である。「統計学の技術」は適用客体を社会とし,これに対する上記の特殊な配慮を方法論的に規定することを課題とする。リューメリンの言葉によれば,それは主要な適用領域である社会科学と最も重要な管掌形態である官庁統計を考慮にいれた統計方法のための技能論である。この具体化は方法規定を完結したうえで示されたもので,その内容は完結された方法規定をそのまま実現するための具体的措置にすぎない。

 筆者のまとめは,次のようである。「統計方法論」は統計方法の基本的応用客体が社会であることを示し,社会への方法規定の具体化の問題を介して「統計学の技術」に関係する。リューメリンはこの関係を基礎とし,「理論」と「技術」とをそれぞれ構成部分とする統一的方法論的学問,すなわち「統計方法論」を構想する。しかし,この「統計方法論」は,これに統合されて構成部分となる「理論」と「技術」とでその基礎を異にする。前者はその根拠を人間的思惟の基本的生得的性質にもとめ,「技術」はそれを社会にもとめる。このように,それぞれがよって立つ基礎を異にするものを結合して「統計方法論」としても,そこにあらわれる思想は便宜主義的なものである。その結果,リューメリンの「統計方法論」は克服できない二元性をもつと評価せざるをえない。(p.15)

 筆者はさらに重ねて末尾で,リューメリンの統計理論を要約し,今後の課題を展望している。要約はリューメリンの統計方法論の性格について,その対象規定に対する方法規定の独立,優位の関係の確認,そしてその基礎を異にする2つの構成部分からなる統計方法論の構造の指摘である。結果として,リューメリンは形式科学としての統計学を志向し,その統計学の全構造は統計学形式化の傾向によって貫かれている。課題としては,このような統計学の形式化の方向は,20世紀に入ってからのドイツ社会統計学の形式主義的変容と同質のものであるかどうかであり,それについては今後の検討が不可欠であると結んでいる(p.19)。
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