社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

有田正三「ジージェックの四基本概念の理論についてージージェック統計学研究のための一断章-」『彦根論叢』第34号,1956年

2016-10-16 21:40:15 | 4-2.統計学史(大陸派)
有田正三「ジージェックの四基本概念の理論についてージージェック統計学研究のための一断章-」『彦根論叢』第34号,1956年

ジージェック(1876-1938)は,大戦間のドイツ社会統計学者の理論的代表であり,とくに統計調査論で大きな貢献をなした。彼の統計調査論の結論は「四基本概念の理論」で,それは『統計方法論の五つの主要問題』[以下,『主要問題』と略す](1923年)で定式化され,さらに『統計学綱要』(1923年)における体系的展開の導線となった。

『主要問題』に定式化された「四基本概念の理論」とは,統計調査の手続きの「本質」である「調査単位」「調査標識」「組」および「表示」である。ジージェックの所論の要点は,第一に統計数獲得には常にこの四要素が形成され,これらが調査手続き,整理手続きの基礎となること,第二に統計数の意味がこれら四要素の概念によって決まるということである。「四基本概念の理論」は,ジージェックの統計方法論体系で大きな役割を演じる。すなわち,それは統計方法論の確固とした統一的な基礎であり,その調査論がここから出発し,これを制約として統計利用論を展開しようとした。

ジージェックの一般統計方法論体系での「四基本概念の理論」がもつ現実的意義を,筆者は3点に整理している。(1)統計数の特殊的性格の認識とこの認識を基礎とする2つの方法的提示([イ]統計作成者は統計に対する需要を考慮していかなる数を獲得しなければならないか,それをいかにして獲得すべきかを熟慮しなければならない。[ロ]統計利用者は統計数が何を語るかを正しく理解,判断しなければならない)。(2)統計的「恣意」論への展開(統計利用の前提となる統計資料の蒐集,統計数字の探索および選択・吟味の拠り所)。(3)統計比較の形式的要件としての統計比較適性。これらの結論は,統計利用論の分野に属すが,それは方法的提示にとどまっているので,その具体的展開がほしいところである。

 ジージェックの「四基本概念の理論」は,それまで技術的範疇でしか問題とされてこなかった統計調査論を一般方法論の内容にまで高めたことである。そこに大きな意義がある。しかし,筆者は同時に,四基本概念の規定に限界があることを指摘する。最も大きな限界は,「四基本概念の理論」が認識成果に対する関係でしか問題とされていないことである。これらの概念は対象に対する関係,対象からの被規定性においてとりあげられなければならない。ジージェックのこの問題の扱い方は,機能的である(対象方法に対する対象の規定性の無視,認識論上の相対主義,“対象を正しく語らぬ”統計数)。筆者はこれらの難点が現実からの3つの要請,すなわち(イ)官庁統計の提供する統計数の意味,(ロ)ブルジョア的統計利用からの別個の統計数への需要,(ハ)以上の2つに対する労働者階級の批判,の妥協的統一と関わると,指摘している。

また,ジージェックは,四つの方法的概念が調査および整理を計画指導する統計家によって定立されるとする。この立論は指導的統計家の視点からの,あるいは権力の側からの議論である。ここに大きな問題点がある。「四基本概念の理論」はここにおいて,手続き=職能の区分によって必然化する統計数獲得=統計調査手続きの構成における計画担当者=指導的統計家と実施担当者との区分と二重化の無視,また実施担当者の意義の無視によってもたらされた「指導的統計家の定立した概念によって規定される」命題に落着する。

ジージェックの「四基本概念の理論」は,積極的意味と消極的意味とが不可分に結びついている。重要なのは,その積極的意味をくみ取り発展させることである。しかし,事態はそのような方向に進まなかったことは,フラスケンパーの「事物論理的」概念に明らかである。フラスケンパーは,この概念によって量化適性を欠く社会的事実を計量可能にする方向をとった。そこにあるのは,ジージェックにおける消極的なものの一層の拡大である,概念の構成的機能の強調である。これは数および数理的形式に収斂する統計方法論体系とその体系における統計調査論の萎縮であった。
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