社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

玉木義男「連鎖基準指数の推奨とその問題点」『統計学』第36号,1979年3月

2016-10-16 20:19:03 | 9.物価指数論
玉木義男「連鎖基準指数の推奨とその問題点」『統計学』(経済統計研究会)第36号,1979年3月

 日本では1976年の『消費者物価指数年報』から「特殊指数」として連鎖基準方式による消費者物価指数が公表されるようになった。連鎖物価指数は,イギリスの経済学者マーシャルによって注目されていた。19世紀末葉のことである。
消費者物価指数としては,通常,固定基準方式のラスパイレス方式によるものがよく知られている。この論稿が書かれた頃,連鎖基準方式による物価指数が脚光を浴び,統計審議会の会長だった森田優三がこれを推奨した。連鎖基準方式による指数は,固定基準方式のそれにとって代わるものなのだろうか。本稿は,連鎖基準方式推奨論の問題点の検討である。その結論は,連鎖基準方式による指数の長所と短所は,固定基準方式のそれらと,相互に補う関係にあり,とくに前者が際立って良好な指数なわけではない。両者の併用が望ましいということである。

 連鎖方式推奨論者が主張したこの方式によって算定された指数の長所は,「比率の基準時の変更が容易」「ウェイトの基準時の変更が容易」「任意の二時点の比較が可能」というものであった。筆者は推奨論者の主張を順にとりあげ,次のようにまとめている(本稿で検討されているのはラスパイレス型の連鎖基準物価指数)。

 連鎖方式推奨論者は,固定基準方式の欠陥は基準時点が古くなるほど,価格指数の分散が大きくなり,平均指数の平均の代表性の意味が曖昧になるのに対し,連鎖基準方式による指数算式では比率の基準時の変更が容易で,基準次が直近となるので価格指数の分散が小さく,平均の意味が明確という。また,固定基準方式による指数算式は経済情勢や消費構造の変化に即応できず,品目銘柄の変化や品質の変化に対する措置を講じにくいのに対し,連鎖基準方式による指数算式ではそれらへの対応が可能である。さらに固定基準方式による指数算式は,一定時点を共通の標準としてみた物価水準の変動を示すものであるから,任意の2時点の物価水準がこの基準点を通して間接的にのみ比較し得るが,連鎖基準方式による指数算式ではこれを直接に比較することができる。

 以上の推奨論者の主張に対し,筆者は固定基準方式の物価指数が5年ごとに基準時が改訂されるので,連鎖基準方式による指数との相違は,基準時が1年ごとか,5年後とかにすぎず,相対的な問題にすぎない。また連鎖基準方式による指数では任意の2時点の比較が可能と言っても,それが出来るのは隣接する2時点の場合のことであって,離れた時点間の場合には指数の意味の解釈が複雑となり必ずしも固定基準方式の指数算式より優れているわけではない,と述べている。

 それでは連鎖基準方式による指数の欠陥は,どこにあるのだろうか。筆者はそれを4点あげている。(1)算式の意味が複雑で理解が困難である,(2)固定基準指数から乖離していく(ドリフトの問題),(3)途中で一旦偏りあるいは誤差が生じると以後の指数はそれによって乱される,(4)毎年ウェイトを計算しなければならないので早期公表や費用の面で不利である。
算式の意味が不明というのは,連鎖基準方式による指数は,隣接する2時点の比較の意味は明瞭であるが,隔たった任意の2時点になると比較される品目ウェイトの内容が変わってしまうので,全体に一貫した指数比較ができなくなる,というものである。固定基準方式による指数算式では,基準時のマーケットバスケットを固定し,それに要する費用だけを比較するので,比較の意味がはっきりしている。

 ドリフトの問題に関しては,フリッシュ(R.Frisch),ソーアベック(Sauerbeck),ザーノヴィッツ(V.Zarnowitz),アレン(R.G.D.Allen),日本の大藪和雄の見解を検討している。フリッシュはドリフトの存在を理論的に説明し,ソーアベックは単純算術平均算式を使う場合におけるドリフトの存在に肯定的で,ラスパイレス式では上方ドリフトの傾向があり,パーシェ式では下方ドリフトがあると説明した。日本の研究者の間では逆にフリッシュの言うドリフトに関しては,実証的側面からも理論的側面からも否定的である。

 「誤差の累積の問題」と「早期公表や費用」の点での不利は,算式のもつ構造上の性格のゆえに,連鎖基準方式による指数は避けることができない。ラスパイレス型の固定基準方式は,比較時点の指数を基準時点のウェイトによるので,誤差の累積を免れる。かつ基準時の改訂は5年ごとなので,一度ウェイトが決まれば暫く変更の必要がないので速報性や費用の軽減で有利である。

 筆者は次のように要約する。「・・・連鎖基準方式の物価指数の長所と短所を固定基準方式の物価指数と対比(すると),連鎖基準方式の物価指数の長所と固定基準方式の短所,連鎖基準方式の物価指数の短所と固定基準方式の物価指数の長所とがそれぞれほとんど対応関係にあるということがわかった。さらに,長所・短所と分けても,ほとんどの場合,条件や視点によって変化するという相対的な関係にあるということもわかった」と(p.60)。したがって,利用者の基準からすると,どちらの指数算式が有利であるとか,優れているとかを一概に決定することはできない。
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