社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

長屋政勝「統計的因果研究-チチェクの所説を中心に-(第4章)」『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年

2016-10-17 14:57:33 | 4-2.統計学史(大陸派)
長屋政勝「統計的因果研究-チチェクの所説を中心に-(第4章)」『ドイツ社会統計方法論史研究』梓出版社, 1992年

 本稿の目的は, 筆者によれば, 統計的因果研究(統計と統計方法を用いて事象や過程をひきおこす要因間の原因結果関係, 相互依存関係や相関関係, そこに現れる規則性や合法則性を追求する方法)をめぐる議論が1920-40年代のドイツ社会統計学, とりわけフランクフルト学派のなかでどのように展開されたのかを示すことにある。フランクフルト学派に属する統計学者で, 統計的因果研究の方法手続きに関心をよせ, 理論的に整理されたものを残したのは, チチェクである。本稿では, チチェクの『統計学綱要』(1921年), 『統計的代表値論』(1908年)がテキストとして, とりあげられている。

 統計的因果研究は上記のように, 統計的集団からどのような因果関係(原因と結果の関係)をひきだすのか, その手続きに関する研究である。

 チチェクによれば, まず, 原因というものが非常に多義的である。統計的集団には, 因果的関係が明晰なものもあれば, その関係が複合的なものもある。否, 対象が社会集団である場合には, 後者がむしろ常態である。社会統計学は主として, 一般的原因集合(一般的, 本質的, 全体的原因の複合)をもった部分集団からの混成である集団混合と関わる。社会的集団では原因複合に含まれる要因は多数あり, それらを悉く調べ上げるのは不可能である。このような非統一的な原因複合をもった集団を前にして, 統計家にできることは, 統計数量を原因複合の代表とみなし, 個別研究家と努力して原因複合に含まれる要因のリスト作成ぐらいしかない。

 統計的因果研究は, 全体を部分に分解=差別化することから始まる。ここでは標識が数量差を生みだす契機である。標識ごとのグループ分けによって, 部分相互の間に偶然と異なる実質的な差を見出すことが, ここでの課題である。因果要因には, すでに立証済みのもの, 立証されてはいないが影響力が推量されるもの, 全く未知のものがある。個別専門家はこれらの要因リストを準備し, 統計家はこれを受けて当該事象に関わる要因を選びだし, 標識化し, 調査とグループ分けを行い, いままで知られなかった差の発見に努める。

 統計的帰結をそのまま一般的原因複合の表現として因果的に立証することの可能性は限られている。これに対し, 部分集合の比較を通じ, 因果要因の実証可能性は高い。この意味における因果要因の立証には, 原因複合から特定要因の「孤立化」が前提となる。「孤立化」とは, 集団のさまざまな標識のなかで, 特定の標識に関する違いをもち, 他はすべて同質な部分集団をとりだすことである。しかし, 完全な孤立はありえないので, 代替的な方法として構造的な同質性の確保が追求されなければならない。

 チチェクは統計方法の最終局面に因果研究を設定し, それにむけた統計作成とその利用の行程を構想した。このなかで編みだされた統計的差違法は, 起因面から同質的な部分集団への細分→当該要因を除去して, その他はすべて同質なグループの確保→比較→数量差の検出→差をもたらす原因の究明という行程をとる。

 チチェクの統計的差違法は, 社会統計的認識のあるべき形態の一つに数えられる。この統計的差違法について, 筆者は次のような限定を付している。第一に, 統計的差違法がそれ自体として自立した因果研究方法とはなりえない。第二に, 統計的差違法では標識の相違に原因の違いをくみとることはできるが, 標識そのものは原因ではない。したがって, 第三に, 統計的差違法は標識という経験レベルで具体化される指標にあらわれる限りで, 因果的関連の所在を確認することができる。以上の意味で, 統計的差違法は本来の因果研究にとり補助的方法としての役割を果たすのである。筆者は, 結論として, 統計的差違法は方法的には, ひろく比較と呼ばれる手続きの特殊な形態といえる, と指摘している。

なお, チチェクの同質的部分集団にはストカスティークな解釈可能な数量の場が認められていることも付言しておかなければならない。そこにはストカスティークと社会統計の統合が意図されている。

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