社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

森博美「『統計法』の法体系とその特質」『統計法規と統計体系』法政大学出版局,1991年

2016-10-08 21:56:27 | 11.日本の統計・統計学
森博美「『統計法』の法体系とその特質」『統計法規と統計体系』法政大学出版局,1991年

 2007年(平成19年),戦後すぐに公布された「統計法」(1947年[昭和22年])が全部改訂された。本稿はその旧統計法がまだ生きていた頃に書かれ,この法律の特質を戦前の統計三法(「国勢調査ニ関スル法律」「統計資料実地調査ニ関スル法律」「資源調査法」)との対比で浮き彫りにしたもの。

 最初に「統計法」が公布されるまでの経緯が書かれ,次に「統計法」を戦前の統計三法と条文比較を行って,継承された部分と新たに規定された部分とを明確にし,最後にこの「統計法」の二面性が論じられている。

 「統計法」公布までの経緯の説明では,統計制度改善に関する委員会(大内委員会)の「改善案」と統計法案要綱の立案作業のプロセスの紹介があり,要綱案の変遷が「改善案」の交替とみるか(大屋見解),現実的な選択と評価するか(森田見解)で見解が分かれているとの紹介があり,筆者はその指摘だけにとどめ,議論への深入りを避け,本題に入っている。本題は日本の統計行政の中に「統計法」を位置づけ,統計行政法規という視角から同法の特徴を明らかにすることである。

 「統計法」は附則第21条で,統計三法の廃止を規定した。筆者は「統計法」と統計三法の条文を対比すると,条文ないしその内容が継承された部分(両方に共通する条文)と,あらたに規定された部分(「統計法」に固有の条文)とがあるとして,条文ごとの比較検討を行っている。その結果明らかになったことは,「統計法」の条文のうち実査を中心とした統計の作成過程に関する諸規定,すなわち申告義務や立入調査権限さらには秘密取得と関連した調査票の目的外使用禁止や調査従事者の守秘義務はそれぞれに対応する罰則規定とともに,「統計資料実地調査ニ関スル法律」「資源調査法」の中に存在していた。このタイプの条文は,「統計法」の「統計三法」との継承関係が明瞭である。(p.64)

 それでは「統計法」に固有の条文とは何だったのだろうか。筆者が列挙しているのは,次のとおりである。それらはまず「統計法」の目的規定であり,他にも指定統計の定義,指定統計の調整に関する条文としての制度化,統計調整機能の明文化,統計作成の担い手の権限や資格要件の規定,統計の公表規定がある。以上の諸点から,筆者は「統計法」の特徴として,その適用対象が基本的に指定統計調査に限定されていること,指定統計という限定内であるが,実査を中心とした統計作成過程と関連した申告義務や立入調査権,目的外使用禁止,守秘義務といった秘密保護規定を「統計三法」から継承していること,そして「統計三法」に全く存在しなかった統計調整に関わる権限,義務,さらに統計機構に関する諸規定が,目的規定とともに条文に加えられたことをあげている。

 筆者は「統計法」をこのように特徴づけ,次にその二面性を論じている。二面性とは「統計行政の基本法規」という側面と「指定統計の根拠法規」という側面である。前者は戦前の統計三法が個別調査法規であったのに対し,その枠を超えた普遍性をもった統計基本法規という性格である。しかし,「統計法」の条文の大部分は指定統計調査に限定した形で(結果的に厳選された一部の重要統計に限定された調査),一連の統計作成過程,調査の実施組織,統計官等の調査従事者の資格並びに権限,さらには統計調整機関としての統計委員会の権限を規定していたことも事実である。筆者はこの事情を(1)調査企画,(2)調査実施,(3)公表のそれぞれの次元で,条文がどのように対応しているかを要約している。

 筆者のまとめを引用する,「このように,わが国唯一の統計基本法規として制定された「統計法」は,その適用が事実上指定統計に限定され,現実には「指定統計法」としての性格を色濃く持つものであった。同法のこのような法体系の性格から,それが統計基本法規として実質的に機能しうるためには,まず指定統計がわが国の統計体系の中でも名実とともに支配的地位を確立しうることが何よりも前提であった。それがもし一国の統計体系の単なる一分肢の地位に甘んずる場合,「統計法」は,信頼できる統計獲得の根拠法規としても,また実効ある統計調整の根拠法規としても所期の役割を果たすことが困難となる。これらは,現実の統計に対してはその無秩序状態の再現の危険性をはらむものであると同時に,統計調整行政の実行組織としての統計委員会に対してはその存在根拠そのものを脅かしかねないものである。事実,統計委員会は「統計法」の施行に引き続き,同法の枠外で新たにそれへの対応を迫られることになる。」(p.77)
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