社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

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薮内武司「統計学史-日本-」『統計学』第30号,1976年3月

2016-10-08 21:39:23 | 11.日本の統計・統計学
薮内武司「統計学史-日本-」『統計学(社会科学としての統計学-日本における成果と展望-)』(経済統計研究会)第30号,1976年3月,(「日本統計学史概観(序章)」『日本統計発達史研究』法律文化社, 1995年) 

本稿は『統計学』第30号(1976年3月)に, 「統計学史-日本-」というタイトルで書かれたものであるが, 本書『日本統計発達史研究』の「序章」として掲載されている。
 筆者は統計学史の研究課題が「統計学の史的発展を追跡することに依り, 統計学の学問的性質並にその問題の所在を明らかにする」ことにあるという蜷川虎三の説をひき, それと同時にその発展過程は, その時どきの社会経済的課題との関連で追及されなければならないとしている。本稿は明治維新期以降から第二次世界大戦にいたる日本の統計学の発展を概観した論文であるが, 発展の時期区分を大橋隆憲にしたがって, 「原始的蓄積期の統計学」「産業資本確立期の統計学」「独占資本確立期の統計学」「帝国主義戦争期の統計学」としている。以下に本稿の要点をまとめる。

 日本の統計学は, 19世紀後半の幕末維新期に, 翻訳学問として移植された。この時期が第一期である。課題は, statistics に如何なる翻訳語をあてるかであり, 「政表」「表記」などさまざまであったが, 箕作麟祥が「統計学」という訳語を編みだし, それが定着した。統計学の日本への移植, ドイツ社会統計学の導入, 日本で最初の人口調査の実施などには, 杉亭二が果たした役割は特筆されなければならない。彼はまた共立統計学校を設立し, 統計分野での後継者の育成に貢献した。杉亭二とともに, 日本の産業統計機構の創設, 整備には呉文聰が, 大きな足跡を残した。忘れてならないのは, 1889年, エステルレン『医学統計論』に寄せた森鴎外の提言に端を発して, 今井武夫との間に, statisticsの訳語, 統計学の学問的性格をめぐって大きな論争があったことである。

 続いて統計学発展の第二期。産業革命の勃興期にあたるこの時期の日本の統計学は, 翻訳統計学から脱皮するにいたった。この時期の代表的統計学者は高野岩三郎で, 理論と実践の両面で, また統計教育の分野で, 科学的統計学の創始者としての評価が与えられるべき人物である。また, 財津静治も統計学を理論的, 体系的に大成した第一人者であった。

 統計学発展の第三期は, マルクス主義の影響を強く受けた。その担い手は, 蜷川虎三, 有澤広巳であり, 山田盛太郎, 小倉金之助が統計を利用した実証分析で成果を出した。このなかでは, 蜷川の統計学は, 統計利用者のサイドにたった統計学を提唱し, 統計学の対象(社会的集団), 統計方法(大量観察法)を含めて体系的社会統計学の基礎をつくった。一方, オーストリア・ローザンヌ学派の影響のもとに藤本幸太郎の門弟であった中山伊知郎, 森田優三が普遍科学方法論の立場から,統計学を牽引した。

 統計学発展の第四期は, 統計学が超国家的新体制のもとで, 科学的な統計学, 実証的研究は弾圧を受け, 一部の数理統計学者は時局に便乗して軍部に協力し, 戦争遂行に一役買った。統計教育史上の出来事としては, 「統計科学研究会」が結成され(1941年), さらに文部省に「統計数理研究所」が設立された(1944年6月)。他に近藤康男の指導のもとで「農林統計調査」の大改正が実施されたこと, 大原社会問題研究所の高野岩三郎を監修者に『統計学古典選集』が翻訳刊行されたこと, 一地方の統計職員・小島勝治が独創的な仕事をしたこと(中世から近世にかけての民衆の生活と生活意識を基盤とする日本の統計思想の成立, 発展という分野での研究)が, 紹介されている。

 筆者は最後に, 戦後の数理統計学一辺倒の傾向が強まる中で, 1957年7月に開催された経済統計研究会第一回総会での「日本の現段階における統計学の基本問題」の結論として, 松川七郎がおこなった要約(①統計学の学問的性格を明らかにし,統計方法論の問題を深めること, ②日本の実務の統計の現状の研究を進めること, ③歴史的な研究と反省を深めること)を想起している。
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