社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

戸塚茂雄「クニース『現在の発展段階における統計学』について」『専修経済学論集』第31巻第3号,1997年3月(『社会統計学研究序説』青森大学附属産業研究所,2004年)

2016-10-17 15:08:57 | 4-2.統計学史(大陸派)
戸塚茂雄「クニース『現在の発展段階における統計学』について」『専修経済学論集』第31巻第3号,1997年3月(『社会統計学研究序説』青森大学附属産業研究所,2004年)

 カール・クニース(1821-1898)の統計学を紹介,考察した論稿。クニースは経済学も統計学も自らの学問の魂のうちにもっていた人物であるが,筆者はそのうちの統計学者の部分に照準をあて,前半でその著『独立の学問としての統計学­この学問の理論及び実際における混乱の解決のために。同時にアッヘンワル以後の統計学の批判史への一寄与­』を,後半では論文「現在の発展段階における統計学」を検討材料としている。 

 前段は,日本のクニース研究の紹介である。戦前と戦後にわかれている。戦前には,小野弥一訳「フィセリング」にクニースに対する言及がある(1866年)。日本で最初のものではないか,という。翌1867年に,呉文聰が『統計学(上)』で統計学の語義解釈の紹介のなかでクニースに触れている。その内容は,クニースが『独立の学問としての統計学』で,スタティスティク=「国のあり様」を批判している,というものである。20世紀になると,高野岩三郎による『独立の学問としての統計学』を対象とした研究が登場した(1904年)。内容はアッヘンワル以後の統計学史を批判し,統計学の新しい方向を示唆したというものである。筆者は,この高野の研究が,戦前における最高の業績である,と言っている。また財部静治は「統計学の独立の存在について」(1909年)で,統計学をめぐる論争について本格的に論じ,クニース統計学の系譜とその学問としての独立性を正当に評価している。この他,郡菊之助が『統計学講義』(1926年)でクニースを取り上げている。高野の翻訳『独立の学問としての統計学』が出版されたのは,1942年である。

 戦後になると,岡崎文規,有澤宏巳の研究が世にでるが,内容は戦前期のクニースの取り上げ方を出るものではなかった。続いて,松川七郎は「統計学史研究における五つの時期」でクニースをとりあげ,クニースを当時の歴史的事情との関連で,またその統計学の特質をケトレー,イギリス政治算術との関連で,とりあげた。視野の広いクニース論である。クニース研究を一歩進めたのは足利末男である。足利は大著『社会統計学史』でクニースと従来のクニース理解の問題性を明らかにしている。すなわち,足利によればクニースを国状論と政治算術ないしケトレー派の統計学と二者択一的問題の設定でとらえるだけではクニース統計学の意義は見えない,クニースが統計学の対象,役割,方法という社会科学の性格規定を提示し,それらを判断基準として統計学についての理論的検討を加えたことこそ重要である,という。しかし,クニースのおけるこの三者の関係は,明確でなかったようである。筆者は足利のクニース論が最高峰にあるとして,詳しくその内容に踏み込んで紹介している。

 後段は,クニースの論文「現在の発展段階における統計学」(1852年)の考察である。日本ではかつて顧みられていなかった論文である。その構成は,以下のとおり。
(1)統計理論の歴史的発展
(2)最近の実際統計の視点
(3)昔の実際統計
(4)統計のための国家組織・統計官庁
(5)全ドイツを包括する統計の試み
(6)統計の私的団体
(7)統計の効用

筆者はこの忘れられた論文のなかで,意味のある言説を取り出し,簡単なコメントを与えている。筆者による本稿の表題はこの論文のタイトルになっているほどなので,各節の紹介が詳しい。クニースのこの論文では,『独立の学問としての統計学』にはみられなかった論点や主張が含まれ,クニース統計学理解には不可欠な文献である。それらは例えば政治算術が実際的な要請から生まれ,形成されたという指摘,統計の効用についての絶大な信念,統計調査と権力の問題や統計の正確性についての議論などである。

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