社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

吉田忠「統計学と機械的唯物論[Ⅱ]-ケトレーの「社会物理学」-(第4章)」『統計学-思想史的接近による序説-』同文館, 1974年

2016-10-16 22:24:34 | 4-2.統計学史(大陸派)
吉田忠「統計学と機械的唯物論[Ⅱ]-ケトレーの「社会物理学」-(第4章)」『統計学-思想史的接近による序説-』同文館, 1974年

 この論稿では, 機械的唯物論を背後の思想としてもつケトレーの「社会物理学」についての考察がメインテーマである。本題に入る前に, 筆者は, イギリスの政治算術のその後の流れを追跡している。ラプラスの古典的確率論の俗流化がそこに見られ, ケトレーの統計学はその影響も受けていたからである。

 結論から言うと, ペティの政治算術は, ハリーによって「人口統計」へ, またキングによって「経済統計」へと分化した。ハリーは年齢別死亡率(生命表)を作成し, それは生命保険業の基礎資料となった。また, キングは, 国民所得とその構成をとらえようとした(萌芽的なものにすぎなかったが)ペティを継承した。両者とも, 形式的な数量的規則性に大きな関心があった。政治算術はその後, その舞台を母国イギリスからヨーロッパに移したが, その際に中心にあった考え方は数量的観察と推論の形式に関する評価であった。代表者にジュースミルヒがいる。彼は『神の秩序』(「その出生, 死亡及び繁殖により証明させられたる人間種族の諸変動における神の秩序」)で, 人口現象にみられる数量的規則性を定式化した。もっとも, 著作の表題にあるように, ジュースミルヒはそれを「神の秩序」とみなしたのであるが。

 筆者によれば, ジュースミルヒが混沌とした人口現象に「秩序」をもとめたのは, ライプニッツ=ヴィルフ流の啓蒙的合理主義の影響下にあったからであり, それを「神の秩序」としたのはルター派プロテスタント教会の体制的確立に反対し, 信仰の根拠を神秘的な内面の啓示に求めようとしたピエティスムス(敬虔主義派)の影響を受けたからである(pp.130-31)。
近代的統計学の確立者と目されるケトレーは, 社会現象への統計的方法の適用によってしばしば評価される。これは, 筆者によれば, ジュースミルヒの延長上での評価であるが, あわせて統計調査の実践とのかかわりで評価されなければならないとも言う。

 ケトレーの統計調査と統計制度に関する貢献は, 3点あるそうである。中央統計委員会をつくり(1841年), 終身その委員長を勤めたこと, ベルギーの国勢調査企画と実施に関わったこと(1846年), ブリュッセルで国際統計会議を主催したこと(1853年)である。時代は, 統計万能時代であった。そして, ケトレーと言えば, 社会物理学の基礎概念である「平均人」という考え方がただちに想起される。「平均人」は物体における重心と同じように, 社会の中心に位置するものであり, その特徴は外見上の肉体的特徴のような量的なものに関しては全人口の平均を, また出生・結婚・死亡のように行為の結果としてとらえうる質的なものに関しては総人口に対するその発生率とした。ケトレーは, 人間の自由意思を肯定しながら, 外的

要因に機械論的決定論に規定される「平均人」を基軸に社会物理学を構想したのである。

筆者は続いて, ケトレーがこの「平均人」を正規分布とそれをもたらす原因構造によって基礎づけようとしたことを紹介している。ケトレーは, 平均概念(本来の平均と「算術平均」)を二種に分けて理解し, 本来の平均における測定値が誤差法則すなわち正規分布にしたがってあらわれることを確認し, 独立な根元誤差を仮定する誤差理論にもとづいて正規分布を説明する。また, ケトレーは, アプリオリに擬制される原因構造を前提に, 多数事例の観察誤差に対する算術平均や比率の計算が大数法則によって因果関係を明らかにするとし, この方法で自然的・社会的要因を捉えようとした。

 筆者は, ケトレーを「非歴史的自然決定論」(山本正)においてとらえるだけでは不十分であること, 平均人を観念的に「美と善の絶対的は型」とみなしながらも, 時と場所によって変化, 発展することを認めていたこと, その変化を起動するものが人間の知的能力ととらえていたことが, 大事であるとしている。ケトレーは, この考え方を基礎に, 理性に導かれた政治の変更の可能性を予定していた。「機械的唯物論の世界観に, 主知主義にもとづく人類進歩の確信を共存させている点で, フランス啓蒙主義者たちと共通していた」(p.144)ケトレーの世界観のこの側面の理解は非常に重要である。
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