社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

浦田昌計「アッヘンワルの統計学の課題と内容」(Ⅰ)」『法経学会雑誌』34号, 1960年9月

2016-10-16 21:48:50 | 4-2.統計学史(大陸派)
浦田昌計「アッヘンワルの統計学の課題と内容」(Ⅰ)」『法経学会雑誌』(岡山大学)34号, 1960年9月(『初期社会統計思想研究(第3章)』御茶の水書房, 1987年)

 アッヘンワル(1719-72)は, コンリングをその創始者とするドイツ国状学の系譜上にある統計学者である。数理統計学が主流になっている現代の統計学では, ほとんど顧みられることがない。しかし, 統計学史のなかでアッヘンワルの統計学は, 政治的観点からの統計利用, 統計学の本来の姿を示すものの一つとして, その意義を確認しておく必要がある。筆者はこうした観点からこの論文で, アッヘンワルの国状学=統計学の構想を支えていた思想を明らかにし, 同時にその政治的立場と政治経済思想が後の統計学の内容をどのように規定したかを批判的に考察しようとしている。

 この論文にそくして, アッヘンワルの統計学がどのようなものであったのかを整理すると, 次のとおりである。すなわち, その統計学は, コンリング以来の国家記述を継承し, それに個別国家の「国家基本制度」=「国家顕著事項」という対象規定を与えた歴史的国状学である。統計学の最終目的は, 国家の福祉が基準である。その内容は, 広義の政治家・官吏の国家担当が知らなければならない現実の国家の基本的知識の体系である。この体系の具体的構成が論文の末尾に一覧されている。

Ⅰ 先行部分・国家の変革, Ⅱ 統計学そのもの(1.土地:本国, 異国, 2.住民(一般に:住民数, 住民の性質;特に:市民として)A.基本制度と国法(a.国家原則, b.法的結合:君主の権利, 諸身分の権利), B.政治制度(a.国家の威儀:称号, 紋章, 宮廷と儀式, 騎士制度;b.統治 一般に:最高機関, 特に:教会制度, 学術教育, 司法制度, マニュファクチュアと商業, 財政, 歳入, 徴税, 歳出, 軍事制度, 陸軍, 海軍), Ⅲ 結論部分:国家利益(国内的利益, 対外的利益)

 付言しなければならないのは, 筆者が, アッヘンワルの統計学の特徴を単なる国家顕著事項の観察結果や記録だけでなく, それらの原因究明を課題としていたこと, また国家をその全体像においてとらえようと意図していたこと, さらに当時の時代背景から領邦絶対主義国家の政治理念=政策的観点を基調としていたこと, を主張していることである。これらは筆者が力点をおいている諸点なので, 強調しておきたい。

 アッヘンワルの統計学の中身をこのように紹介してくると, その内容が「政治学」と酷似しているとの印象が残る。その「政治学」の構成を参考までに, 以下に掲げる。
結論(A.国家治略の科学について, B.国家の発生と成長;ヨーロッパ諸国の国家改革)/第一部 国家の基本制度(A.国家および最高権力)統治形態(1.総論, 2.君主制;民主制;貴族制;混合統治形態)/第二部(A.概説, B.国内統治に属す諸制度[Ⅰ個々の市民の福祉のための制度 1.直接の福祉のための制度a.司法制度, b.生業制度;2.間接の福祉のための制度 a.教育および学校制度概論][Ⅱ 国家全体のための制度 1.軍事制度, 2.人口, 3.財政 a.概論, b.歳入, c.歳出])/第三部 対外的国務

 筆者も当然, この点を意識し, 次のように整理している, 「統計学は, 政治学の一般的政策論のうえにたって, 具体的・歴史的条件もとでの現実的・実践的な政策的判断を下すための, 国家の現状の分析として構想されている。そしてこの究極的意図からすれば, 経験と歴史的事実のみを対象とするアッヘンワル統計学は, ただ単に従来の国家記述に形式的組織性をあたえるというだけのものではなく, また, それは, 特定の直接的な行政目的のための当該対象の調査・記録(たとえば徴兵や徴税のための人口調査や土地台帳)につきるものでもなく, より高次の政治的判断のための, 全面的な国家の観察と分析を志向していたということができるであろう」(pp.46-47)と。巻末にアッヘンワルの著述目録がある。
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