安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

弥次郎

2006年01月21日 | 落語
弥次郎

*うそも方便と言いますが、うそがあるから、うまくいくなんてェことは、よくあることで、みんな本当のことばっかり、ガンガン言い合っていたら、仕舞いには、ものに角がたって、つかみあいのケンカんなったりする。そこにウソが混じると潤滑油んなって、まァるくおさまる。
とにかく、学校行くと先生が、”ウソをついちゃァ、いけませんよ。正直な人間になんなさい。正直は一生の宝です” なんてことを言う。で、うちィ帰るとおとっつぁんが、”ウソをつくんじゃないぞ。ウソをつくヤツは泥棒だ” なんて小言を言われて・・・・、
大人んなって社会に出てみると、なかなかそうはいかないもんで・・・
それが証拠に、婚礼の仲人さんのご挨拶がありますが、あのくらいウソの塊りもありませんで”新郎はどこそこの大学を優秀な成績でご卒業なさいまして・・・” 平気でしゃべってる。
で、聞いてる方でも、”フーン、たいしたもんだね” ウソとわかって感心したりして・・・ですから、はなっからウソとわかる話なんかは、かえって罪がなくて、いいもんで・・・・

旦那: おまえなんだねェ、しばらく鼻の頭ァ見せなかったね
弥次: えェ、ちょっとあの、旅ィ出てまして・・・
旦那: オー、旅。けっこうだねェ。旅は憂いもの辛いもの、なんてェことを言うが、辛い事もあるが、なかなか
楽しい・・
弥次: え、楽しいですね。旦那のめぇですがね、今度っくらい旅が楽しいと思った事はありません。
旦那: ほー、そりゃァよかったな。アー、どこへ行ったんだい?
弥次: 北海道へ行きまして・・・
旦那: 北海道。フーン、えらい遠くへ出かけたね。北海道なんてとこは、おいそれとやたら行かれる所じゃァないよ。うわさに聞くとあすこは、だいぶ寒いそうだね
弥次: 寒いなんてもんじゃァありません。驚きました、行って、あの寒いのには・・・。なんでも凍っちまうんですからね。
旦那: そーかい?
弥次: えェ、だから向こうじゃね、雨が降ってもなんでも、みんな凍っちゃいますからね、油断もなにもありませんよ。おもしろいのはね、朝、人に会うでしょ、『おはよう』ってェとパッと凍っちまう・・・・。
これ位のかたまりンなっちまう・・・・。”おはよう玉”。丸いのが道端へゴロゴロころがっている。それ、けとばしながら、歩いたりなんかしまして・・また、年寄りがその、まァるいのを、拾ってカゴへ入れて歩いてる
旦那: どうするんだい?
弥次: 目覚ましにつかうんですよ。
旦那: 目覚まし?
弥次: え、夜なべの仕事なんかしていて眠くなるでしょ、たら、そのおはよう玉五つ六つ鍋へ入れて、火の上へ、こう乗せるんです。と、これが溶けてきますからね、『オハヨウ』『オハヨウ』『オハヨウ』『オハヨウ』『オハヨウ』っていっぺんに目がさめる。それに、驚いたのがね、雨が凍るんです。
旦那: 雨が凍ると雪ンなるよ
弥次: ところが、あんまり寒いから雪ンなってる間がない。氷の棒んなって降ってくる・・。アメンボウってましてね・・・。ピューッ、ピューッ
旦那: あぶないねェ
弥次: えェ、だから紙の傘や布(キレ)の傘ァさしちゃァ歩けません。破かれちゃいますから。みんな金張りの傘ァさして歩いてますがねェ。ご大家の奥様なんてェと、贅沢なもんですねー。
キン張りの傘、銀張り真鍮、あかがねの傘、貧乏人はブリキの傘、トタンの傘。だから雨の日はおもては賑やかですよ。
キンヒャララ、ギンヒャララ、ピンヒャララ、チンヒャララ・・・・まるで、チンドン屋の行列があるいてるようで・・・。それが、雨がおとなしく上から、まっつぐ降ってるときはいいんで、風が出ましょう、横降りってのが恐ろしいですよ。ウッカリしてると横から、アメンボウがピューッて飛んでくる。
足なんかブスッと刺さる
旦那: 痛いね
弥次: ええ、だから、来たなって思ったら、傘ァ横向けてガヤーンて避けたりなんかします。だから北海道ってとこはね、剣術の心得がないと行かれません
旦那: ほんとかい
弥次: それにおもしろいのは、ションベンが凍る
旦那: ・・・そりゃァこっちだって凍るよ
弥次: いやッ、こっちは、したあとが凍るってんでしょ。向こうはやってる途中で凍っちまうン。
旦那: 途中で?
弥次: シャ~~、ってェと、パリパリ~~・・・・つながっちまう
旦那: じゃ、あとが出ない
弥次: でません、つかえて。でも、よくしたもんでね、道端のうちの軒下にね、これくらいの小槌がぶらさがってるン。『どうぞ、ご自由にお使いください』・・・だから、これェ借りましてね、カチン、と割ってシャー、カチンと割っちゃシャー、カチンシャー、カチンシャー、カチンシャー。夢中でやって、急所ォぶって目ェまわした
旦那: バカなことをいっちゃァ
弥次: 驚きました。それに、火事が凍るのにはビックリしましたよ
旦那: なんだ、その、火事ってェのは?
弥次: うちが、こう、ダーって燃えるン
旦那: あんな、熱・・
弥次 凍るんですよ。さぶいところへもってきて、ほら、つべたい水ゥ掛けるでしょ。だから、火事が凍って固まっちまうン。
旦那: あんなもんが?
弥次: えェ、あっしはもう、三度のメシより火事がすきですから、宿屋でねてた、夜中時分でしたよ。ジャ、ジャ、ジャジャジャジャ・・・・・・・
旦那: 水かなんか漏ったのかい?
弥次: いえ、半鐘の音なんで
旦那: 半鐘はおまえ、ジャ~~ン
弥次: これ、さぶいからジャーンの”ン~”が凍っちまうだね。ジャ、ジャ、ジャジャジャ。
で、火事だーって駆け出してったら、三階建てのうちがボーーて燃え上がって、火の粉はバラバラ、バラバラ降ってくるねー、『あー、きょうはこの風の具合じゃ大きくなりますよ』 そのうち、『水ゥぶっかけろー』
ワーーーー<水をかける>と火事の炎がカチカチカチ・・・・・・カチッ!
旦那: ・・・・凍ったのかい?
弥次: そうなんで、つっ立っちゃたんですよ。えーェ、あの、火事の凍ったのなんて見たの生まれて初めてですからねェ、サー、宿へ帰ったって、気がたかぶって、モー寝付かれやしない。
で、朝ンなるのを待ってね、かけだして行ってみたんですがね、あの、朝見る火事ってェのは、そりゃァきれいなもんですよ。明け方チョイと前に粉雪かなんか降ったんだね。赤いとこへ、ポーーと白くかかってましてね、えー、大きなサンゴみてェな眺め。で、人声がするんで回ってったら、大勢、男の人が集まってね、ギーコギーコ、ギーコギーコ、火事をね、切ってね、束にしたりなんかしてン。
『あのー、何してんですかァ?』
『えェ、海ィ持ってって、うちゃっちゃうんですよ』 
あれ珍しいもんですからねェ、江戸へ持ってったら、いい土産になると思いましてね、あれを細かに割って、紙の袋かなんかに入れて、”火種の素”なんってったら、喜ばれやしねェかと思って、
『少し頂けませんか?』 『よかったらいくらでも持ってらっしゃい』 ですから、五把ばかりもらいましてね、牛ィ引っぱってきて、背中に乗っけて、けえって来たんですが、だんだん、こっちィ近づくにつれてね、陽気が暑くなってきた。牛の背中で火事が溶けはじめやがった。ボーボー燃え出した。
牛は熱いからあばれだす。水ゥかけてもだめなんですねェ。
”焼けウシに水”ってまして・・・・牛が『モー、やだ』っつった。
旦那: ばかばかしいよ、おまえ。もっと、マシなことはないのかい?
弥次: それから、間をおきましてね、奥州へ旅ィしたんですがね、南部の恐山てェ山ァ登ったんですが、あの山の険しいのには驚きました。
旦那: あー、うわさには聞いてるよ。たいへんに高い山で、雲へ首ィ突っ込んでるって、あの山だろ?
弥次: そうなんで、ったら茶店のおやぢさんがね、
『旅のかた?そろそろ日が暮れてきましたんで、これから山へお入りんなるのは、およしんなった方がいいですよ。この山には、山賊だとか悪いけものがいて、ケガでもなすったら、たいへんだから、きょうは村へ宿をとって、あした早発ちィなすったらいかが』
『冗談いっちゃァいけない。こちとらァ、江戸っ子だい。そんな悪い野郎がいたら、オレが退治してやるから心配するな』
って表ェ出まして、ツァッ、ツァッ、ツァッ、ツァッ。だんだん、だんだん山ァ高くなりましてね、
旦那: 当たり前だよ。低くナりゃなくなっちゃう
弥次: ふと、向こうを見たら、チロチロ、チロチロ灯りが見えてン。
『アッ、ありがてぇ。今夜はあすこのうちに泊めてもらおう』 
ふっと上がったら、一面の平ら地ンなってまして
旦那: んー、高い山てェのはよくそういう所があるそうだ
弥次: 向こう見て驚いた。これがうちじゃねぇんですよ。焚き火だった
旦那: たきび!
弥次: 十五六人アラクレ男が車座んなってね、プカーリ、プカーリやってたがる。『ン、こういつァいけねェ』
逃げようと思ったら、いきなり、あっしの前へ、六尺以上ある色の黒い裏表のわからねえ大男が立ちはだかって、『お若ぇの、お待ちなせえ』 『待てとおとどめなされしは、みどもがことでございや・・』
旦那: そんなとこで、気取ったってしょうがない
弥次: 『人がいると思やァ、テメエか。ここは一丁目があって二丁目のねえところだ。身包み脱いで置いていきやがれ』 てえから、
『さては、なんじらはこの山に住まいをなす、一人二人の履物よな』ってた
旦那: なんだい?一人二人の履物って
弥次: あわせて、サンゾク。
『やることは、ならねえ』って怒りやがってね、
『そんなら、腕ずくでも取ってみせようか』 
『取れるもんなら取ってみろー』って、これから始まったね。チャーンチャン、チャチャーン、チャチャチャチャ、チャカチャカ、チャカチャンチャン、ちゃんばら、チャンバラ。
向こうも大勢、こっちは一人。チャカチャン、チャカチャン。旦那に見せたかったねェ。右ィ左、左に右。鉄扇で相手の利き腕をピシッ、刀をガタッと落とす。ひょいと見たら、六尺を越す大きな岩がありましたから、
♪この岩を小脇に抱えこんで・・・
旦那: 六尺もある岩を、小脇に抱え込めるか
弥次: 真ん中んところがくびれていて、ひょうたんのように・・・♪この岩を千切っては投げ、千切っては投げ
旦那: 岩が千切れるかよ!
弥次: できたてで、やわらかい・・・・ さすがの山賊もチリジリになって・・・
安心して歩いてたら後ろの方で、『ヴォー』うなり声がする。
『この山はぜんそく持ちかな』って振り向いたら驚いた、六尺はあろうという
ライオンが・・・
旦那: おまえのは、みんな六尺だナ
弥次: たてがみを風になびかせて、百獣の王。
旦那: お前が登ったのは、南部の恐山だろ?あんなとこにライオンがいたのかい?
弥次: 歯磨きしてた・・・
旦那: なァにを・・・
弥次: よくよく見たら、いのししが角ォ立てて、とんできやがった
旦那: おまえね、あれは、いのししってェのは、おまえ、牙だろ?牙あるものには角はないてぇじゃないか
弥次: それが、ズーッと伸びて、角みてえに見えた。
『あれで突っつかれたらおしまいだ。どっか逃げよう』
ふっと見たら松の木がはえてましたんで、これへよじ登って・・・・マヅ心・・・
旦那: なんだい
弥次: いのししは利口だ。木のまわりをグルグル、グルグル回り始めた。  どっしーん。ぶつかって来た。
ゆすり落として、食っちまおうてんで。木がグラグラ、グラグラ揺れるから、気が気じゃァありません。
だんだん上へ登って、穂先ィ行って気が付いた。旦那のめえですが、これ、松の木じゃなかったんですよ
旦那: なんだい?
弥次: 竹だったんですよ。
旦那: おまえェ、いくら慌ててからって、松と竹とじゃァえらい違いダ
弥次: ところが、あの辺行くと、何百年、こを経た古い竹がいくらでも生えてる。うろこやなんか付いてるから松の木みてェに見えた。木じゃねェ、竹でしょ。穂先のほう行ったら、フ~~~~ン。しなってきた。
落っこっちゃァてえへんだ。下ァいのししが歩き回ってる。しがみついて、『南無阿弥陀』・・いのししがドシーンッ、ぶつかった。途端ですよ。パーン。パーン。なんて、竹の節が割れてね、大きな音がしたンそうしたら、そそっかしいいのししで、鉄砲で撃たれたと思ったらしくて、コロッ・・・・倒れちゃった
旦那: ばかやろう
弥次: 助かった。そば行ってのぞいてみたら、まだ死んじゃァいないんですからね、当人は鉄砲で撃たれたと思い込んでるんですから、まぶたがオチオチ、オチオチ動いてる。皮ァはいで仕留めてやろうと思いまして、パーンと跳び下りて、シシ乗りんなりまして・・・
旦那: 馬乗りだろ?
弥次: いやー、あれは馬へ乗るから馬乗りなんで、あっしはししにのってるからシシ乗り。ところが、こっちの身体の重みで野郎、生きてるのォ気が付いて、暴れ出した。さァ、どっかつかまろうと思ったけど、あわててまたがったんで、うしろまえに乗っちゃった。尻んところへボンボリ、こんな短いものが、ぴくぴく、ぴくぴく動いてる。こんなものつかんでも、しょうがないから、股から手ェいれら、ぐにゃァ・・・<パン、パン手を叩き>ぐにゃァ、股ぐら・・・ぐにゃ・・・何だこりゃ・・旦那これ・・・何だと思います?
旦那: わからない
弥次: これ、ししのキンですよ。いのししってのは、不精ですよ。ふんどししてない
旦那: 当たり前だよ。
弥次: 人間でも、畜生でも、急所にかわりはねぇと思うから、このキンをウェーーッ。キン絞りってやつなのこんだ、バタンキュー。ほんとに死んじゃった。それから、皮ァはいで帰ろうとおもってね、刀で腹をツーーって裂いた。ビコビコビコビコ子どもが飛び出しまして・・・・
旦那: ししの子がかい?
弥次: えー、十六匹出ました
旦那: あー、・・・・・ししの十六かい?
弥次: アッ、旦那、知ってましたか?
旦那: 知ってるよ。よく、寄席で聞いてるから
弥次: そうですか。でも、さすがはねェ、野生だね、人間の子どもとは違いますよ。いま生まれたと思ったら、もうポロッって起き上がってね、ヒョコヒョコ、ヒョコヒョコ歩き始めた。みるみる、あっしの周りを十六匹のししの子どもが取り巻いて、棒ッきれなんぞを持って、
『父ちゃんの敵、父ちゃんの敵、父ちゃんの敵』
って言われたときは、驚きましたね。
旦那: こっちが、驚いたよ。お前はどこをしめて殺した?
弥次: キンですよ
旦那: じゃ、あまえ、オスだろう?
弥次: ハ、ハーァ。そりゃオスですよォ。メスにキンはありませんからねェ。
旦那: オスの腹から子がでるかい
弥次: オスの腹。・・・そこが畜生のあさましさ・・・・     

ばかばかしいお笑いで・・・・・
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 金明竹(用語解説) | トップ | お世辞 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

落語」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事