安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

出来心(間抜け泥棒)

2007年08月17日 | 落語
泥棒: えぇ、親分、こんちわ・・・こんちわ・・・
親分: ン? 誰でェ・・・おゥ、おめェか・・・まァ、こっち入んねェ。ちかごろ、ツラァ見せねェが、どうしてるんだィ? ・・・おめェ、どうも仲間内で評判がよくねェなァ、あれじゃァ将来、まるっきり見込みがねェ、って・・・.いったい、おめェは何のためにおれの子分になったんだ?
泥棒: へぇ・・・.えぇっと・・・しょ、将来は、親分のようなりっぱな大泥棒ンなろうかなと心がけまして...
親分: なんだよ、そのなろう「かな」ってェのは、えゝ? なろうかななんて思ってる野郎になれたヤツがいたためしがねェや。ま、なんにしても、おめェはドジだから、今のうちに堅気ンなったほうがおめェのためなんじゃないか?
泥棒: エッ? あ、あたくし、破門ですか? あの、せ、せっかくご縁があって親分子分の杯を頂いたんですから、もうちょっとおいといてください。あたしも心を入れ替えて、一生懸命悪事に励みますから、どうか今までどおり、幾久しくお側において可愛がって・・・
親分: 気持ちの悪リィことを云うなよ・・・いや、おめェが真人間に立ち返ってだよ、額に汗して稼業に励むってんなら、置いてやらねェこともねェが、ちょっとはおめェだって仲間内で自慢できるような仕事をしてみろィ
泥棒: えぇ、ですから、あたし、こないだ土蔵破り、やりました!
親分: お、おめェがか? へえー、そりゃァずいぶんと大きな仕事をやったなァ。うまくいったのか?
泥棒: ちょうどからだの入るような穴を空けまして、そこから潜り込んだ・・・
親分: ふんふん
泥棒: すると、中は草ぼうぼう
親分: 蔵の中がか?
泥棒: 石ころがごろごろ
親分: おかしいじゃねェか
泥棒: 上を見るとお月見ができる
親分: なんだよ、そりゃァ
泥棒: あたしも 「ちょっと変だ」 と思いまして・・・
親分: たいそう変だよ!
泥棒: よくよく見ましたら、親分の前ですが、これが、あァた、大笑いで
親分: なんだ?
泥棒: 土蔵じゃなくて、お寺の練塀を破って、お墓に入り込んでた
親分: ばか野郎・・・土蔵だか寺だかわからねェのか?
泥棒: それがどうも、辺りが暗くて・・・
親分: おめェは身分不相応な土蔵破りなんて仕事をするんじゃないよ。ちょいと庭でもある、こぎれいな家に入ってみな
泥棒: えェ、ですから、こないだ、庭のあるうちに入りました
親分: そうか。へへ、ちゃんと心得てるじゃァねェか
泥棒: 柵を乗り越えて入っていきますと、池にゃ噴水があって、鯉が泳いでて、花壇があって...
親分: そいつァ、りっぱな庭だなァ
泥棒: もうちょっと行きますてェと、ぶらんこがあって、滑り台があって、芝生があって、ベンチがあって、若い男女が植え込みの陰でなんかやってて・・・
親分: いったいなんだよ、それは・・・
泥棒: それが親分の前ですが、これが大笑いで・・・
親分: また大笑いか、いったいなんなんだよ、そこは
泥棒: 日比谷公園に入っちまってたんで・・・
親分: バカだね、どうも・・・公園なら噴水や芝生があって当然じゃねぇか
泥棒: いやぁ、あたしも立派すぎる庭だと思いました
親分: 思ったら、よく考げェろ! だからだなァ、そんな大きいところをねらわずに、こぎれいに片付いてて、電話の一本も引いてあるような家を狙ってみろ
泥棒: えぇ、あたしもそう思いまして、こぎれいに片付いてて、電話が引いてある家へ入りました。ちょうど手ごろな物件が四つ角にあったんで・・・
親分: 物件・・・て、不動産あつらえてんじゃないよ。しかし、そんなうちがよく近所にあったなァ。いってェなに商売だ?
泥棒: それが、親分の前ですが、これが大笑いで・・・
・・・・・それが交番で
親分: ばか野郎! てめェ、泥棒が交番に忍び込んでどうするんでェ!
泥棒: だって、親分、こぎれいに片付いてるし、ちゃんと電話も引いてあるんですぜ
親分: だめだ、だめだ。おめェみてェなやろうはとても満足な仕事はできゃしねェ。おめェの柄に合ってんのはせいぜいが、空き巣だ
泥棒: あきす、ってなんです?
親分: おめェ、泥棒のくせに、空き巣を知らねェか?
泥棒: へぇ、まだ頂いたことはありません
親分: 食いもんじゃねェ! 空き巣ってェのはな、たとえば、亭主は仕事に出ていて、女房は買い物に出ていて、うちン中は留守にしているてェうちに入ることだ
泥棒: 親分、そいつァ、たちがよくねェ
親分: たちのいい泥棒がいてたまるか! いいか、おれがやり方を教えてやる。よく聞いてろ。いいか、まず、この家は留守らしい、と思ったら、まず、言葉をかけてみろ
泥棒: お宅は留守ですか? ・・・って?
親分: そんなことを聞くやつがあるかよ。まずは「ごめんください」というんだ。それで「はい」と返事があれば、人がいるんだからだめだけれど、返事がなけりゃァ、中へはいって仕事をするんだ。もっともなかにゃァ、返事をしねェで、いきなりはばかりからにゅーっと現れるようなヤツもいるから、気をつけなきゃいけねェ
泥棒: そんなときはどうしたらいいんで?
親分: こりゃもう、現場を押さえられちゃ、どうにもならねェ。こんなときゃ謝っちまうに限るな。泣き落としてェやつだ。盗んだものを全部差し出して、『まことに申し訳ございません。長い間、職にあぶれておりまして、うちに帰りますと七つをかしらに五人の子供がございまして、六十五になる年寄りは長の患い・・・医者にかけることもできません。貧の末の出来心でございます』 と涙のひとつもこぼせば、「ああ、出来心じゃしかたがねェ」ってんで、許してくれるだろうし、うまくいけば、銭の少しもくれる奴がいるかもしれねェ
泥棒: くれねェときは、親分がたてかえる
親分: 図々しいことを言うんじゃないよ。しかし、今、言って聞かせたこと、ちゃんと分かったんだろうな?
泥棒: えェ、つまりですね・・・ごめんください、と言葉をかけて・・・返事がなかったら留守だから仕事をする、返事があったら、いるんだから、どうもすいません、貧の末の出来心で・・・
親分: おいおい、何もしねぇうちから白状しちまってどうするんだよ! もし返事があったら、しらばっくれてものを尋ねるんだ
泥棒: 安部内閣ををどのように・・・
親分: だから、柄にねェことをするなって言ってんだろ! 人の家でも訪ねてるふりをするんだよ。いいか、こんなぐあいにするんだ。『何丁目何番地はどの辺になりましょうか?』 『このご近所に、ナニ屋ナニ兵衛さんてかたはいらっしゃいましょうか?』 てな調子だ。相手が知ってても知らなくてもいいから、何か行ったら、ありがとうございます、と頭を下げて出てくりゃあいいんだ
泥棒: あァ、そうすれば正体が知れねェってェわけだ。ではさっそく出かけますから、風呂敷きを貸してください
親分: そんなもの、どうするんだよ
泥棒: 盗んだ品物を包んで...
親分: どうせ盗みに行くんだから、そのうちの風呂敷きィつかやぁいいだろう
泥棒: でも、返しに行くのが面倒だから...
親分: ばか野郎! 返さなくていいんだ!
泥棒: それでは義理が・・・
親分: 何を言ってやがんだ! このうすら! とっとと行け!!
泥棒: へい・・・
では親分! 空き巣に行ってきます!!
親分: 大声を出すんじゃねェ。そっと出かけろ
泥棒: では、行ってきます・・・・・えぇ、少々、ものを伺います
親分: おーい、隣でやるんじゃねェ! 町内を出ろ、町内を・・・・・
泥棒: あはは、親分も気が小さいや。隣に遠慮してる。町内を離れろって言ってたなァ・・・離れたかなァ・・・いいかなァ、こんなもんかなァ・・・では、この辺で・・・
えー、御免ください、御免ください・・・
A: おーい
泥棒: へい?
A: そこ、空き家だよ
泥棒: 空き家ですか...あぁ、貸し家札が出てらあ
A: 貸し家探しか?
泥棒: いいえ、留守探しで
A: 留守探し? なんだよ、そりゃァ...へんな野郎だなァ・・・
泥棒: 分かりますか?
A: 怪しい野郎だ
泥棒: ごもっともで・・・
A: なんだと、この野郎!
泥棒: さようなら・・・空き家はいけませんよ、空き家は。人が住んでなきゃ盗みようがねェや・・・この家はどうかな? えー、御免ください
B: はい
泥棒: さようなら
B: なんだよ。おーい、ご近所、気をつけなよ! 怪しいのがうろついてるよ。下駄でもなくならないかい?
泥棒: やれやれ、人を下駄泥棒みたいに言うじゃないよ。慌てたから、いけなかったんだ。えぇ、ごめんください、に、『はい』と来たら・・・えぇ、っと・・・何か聞くんだったな。よし、このうちでやってみよう
ご免くださーい
C: はい、なんのご用で?
泥棒: おや、そこにおいでンなりましたか
C: えぇ、さっきからこに座っておりましたよ
泥棒: それは、それは、あいにくさまで。いつごろお留守になりますか?
C: 留守にゃしませんよ
泥棒: それは用心のよろしいことで。ではまた、お留守のときに...
C: なんだよ、あいつァ...
泥棒: いけねァ、いけねァ・・・いきなり目の前に座ってたたァ、気がつかなかった。なかなかうまくいかねェもんだ・・・えー、ご免下さーい
D: あいよ!
泥棒: あれ、このうちもいるんじゃねェか・・・たまにゃ留守のうちくらいあったっていいじゃねェか
D: なんだい、ひとりでぐじぐじ言って。何の用だ?
泥棒: えー、ちょいと、ものを伺いますが...
D: なんだ
泥棒: えぇ、何丁目何番地というのはどのへんでございましょうか
D: なんだとォ?
泥棒: いえ...その...ナニ屋ナニ兵衛さんのお宅はこの辺で?
D: なんだと、この野郎、訳ンわからねぇことばっかり言いやがって...何しに来やがった!
泥棒: いえ、よろしいんです...もうわかりました...
D: 何が分かったってんでェ! おぅ? 何丁目何番地のナニ屋ナニ兵衛だなんて、いってェ何がわかったってェんでェ! まごまごしてっと張り倒すぞ! いってェ何を聞きに来やがった!!
泥棒: いえ...あの...この辺に、さいご兵衛という方はいらっしゃいませんか?
D: さいご兵衛だぁ? そんな間抜けなやろうは知らねぇ
泥棒: へぃ、あたしも知らない
D: なんだと!
泥棒: ごめんなさい!
はぁ、はぁ、驚いた・・・あぶなく張り倒されるところだった。しかし、とっさの場合とは云いながら、さいご兵衛とはよく出たもんだなぁ・・・これからはみんなこれで行こう・・・
おっ、このうちは玄関がすこしあいてるじゃねぇか・・・ご免くださーい、少々ものを伺いまーす・・・お留守でしょうか? ・・・泥棒が入りかかってますよ・・・.ぶっそうですよ・・・戸締まりはしっかりしなくちゃいけませんよ・・・.はばかりから出てきて、『バア』 なんてのは無しですよ・・・しめ、しめ・・・いないんだ。こうなりゃァこっちのもんだ。あがっちまおう。
へへっ、こりゃァいい長火鉢だ。けやきだな。いい品モンだよ、うん。湯が沸いてるね。いい鉄瓶だよ。南部かな・・・そうだ。ここでグッと落ち着かなきゃならねぇ。お茶でも入れるかな・・・うーん、いいお茶だ。口がおごってるな・・・なんだい、この器に入ってるのは・・・羊羹・・・うーん、いい羊羹だよ。羊羹はいいけど・・・ずいぶんと薄く切りやがったねェ・・・しみったれてやがんねェ・・・これで数を余計に見せようてェ魂胆だ。しかし、こっちゃァその上をいくね。敵の計略の裏をかいて、三切れいっぺんに食うという荒業で・・・あー、こりゃァうめェや・・・うめェ
E: おーい、下に誰かいるのか?
泥棒: ぐぐぉッ・・・ぐほっ、げほっ・・・す、すいません・・・よ、羊羹が喉に・・・ちょっと背中を叩いてもらえませんか・・・く、苦しい
E: えェ、こ、こうか? (ドン、ドン)どうだ?
泥棒: あぁ、な、なおりました。どうもご親切に、ありがとうございました
E: いや、どういたしまして・・・って、そうじゃねェ! おめェ、いったい誰だ!?
泥棒: いえ、二階にいらっしゃったとはちっとも気がつきませんで
E: そんなことを聞いてるんじゃないよ。いったい何なんだ? おめェは...
泥棒: ・・・・・しょーしょーモノをうかがいます
E: ふざけんなよ。ものを聞く人間が、人ん家に上がり込んで、羊羹食って、かってに茶まで入れて飲んでるなんてェ話しがどこにあるんだ!
泥棒: はぁ、ちょぃと不思議でござんすねェ
E: ちょぃとじゃねェ! いってェ何を聞きてェんだ?
泥棒: この辺に、おいでになりますかなぁ
E: 誰が?
泥棒: えぇ、あの...そのぅ...へへっ、そんな方、いるはずがございませんよね
E: だから、誰だよ
泥棒: えぇっと、あの...さいご兵衛さん
E: そうかい、そうならそうと、早く云えやい。さいご兵衛はおれだ
泥棒: ええっ? あなたが? あなた、そんな間抜けな名前なんで?
E: 間抜けたぁなんでぇ! さいご兵衛はおれだ
泥棒: いゃ、あなたじゃないさいご兵衛さんで・・・いい男の方
E: なにを!
泥棒: よろしく申しておりました
E: 誰が?
泥棒: あたしが
E: 何だ? このやろう、ふざけやがって。張り倒してやる!
泥棒: さよなら!
いゃァ、驚いたねェ・・・世の中にゃ間抜けな野郎がいるもんだ。さいご兵衛だなんて・・・ま、いいや。羊羹くっだけあたしの勝ちだ・・・・・・
    あっ、いけねぇ! 買ったばかりの下駄、置いて逃げて来ちゃった・・・羊羹食ったくらいじゃもとが取れない・・・どこで損するか分かりゃしねェや・・・
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