現代医学的鍼灸治療

針灸師および鍼灸ファンの医師向けに、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の概要を説明する。

神経根症の痛みの針灸治療 Ver.1.1

2016-11-19 | 腰下肢症状

1.神経根症時にみる上・下肢痛は、筋々膜症由来である。
 
知覚神経は上行性で運動神経は下行性である。ゆえに腰殿部における神経の圧迫は、下肢に知覚神経症状を生ずることはないが、運動神経症状を生ずる。すなわち腰椎椎間板ヘルニアなどによる神経根症では、神経圧迫されたからといっても、下肢に痛みは生じることはないが運動神経症状が生ずる。

ただしこの運動神経症状は脳血管障害にみるような、下肢が動かないといった重度なものではなく、下肢の攣縮や筋力がやや低下する程度となる。
 
現実に腰椎椎間板ヘルニアでは、腰殿部の痛みのほかに、下肢痛を生ずることは非常に多いが、これは神経根が圧迫や刺激された症状ではなく、腰殿部筋々膜の興奮による放散痛によるものである。たとえば殿部の坐骨神経ブロック点に刺針すると、下肢に電撃様針響が得られるのは、坐骨神経の知覚神経線維ではなく、運動神経線維刺激による下肢筋の痙縮である(加茂淳医師)。



2.神経根症に対する針治療の考え方

いわゆる神経根症に対して、ペインクリニックでは神経根ブロックが行われてきて、一定の症状緩和を得てきた。ただし完治に至る方法ではなかった。

今から14年前の報告になるが、井上基治らは、この神経根ブロックの方法にならって4症例にX線透刺下で神経根部に刺針+通電刺激したところ、どれも著効が得られたという報告がある。この作用機序としては、神経を鍼で刺激→神経血流の増大→神経損傷の修復と考察している。(井上基浩 他「根性坐骨神経痛に対する神経根鍼通電療法の開発と有効性」明治鍼灸医学 第30号:1-8  (2002)

ブロック注射による薬液浸潤拡散により神経根部を刺激することは可能だとしても鍼灸での針では神経根部に届くというのは無理があって、実際には神経根周囲刺針であって、これも神経根周囲の筋緊張を緩めた効果が大きいだろう。要するに筋膜膜症というであれば、鍼灸が得意とする筋々膜性腰痛と同じように施術できる筈である。



3.神経根症の鍼灸治療点

たとえば神経根性坐骨神経痛の場合、障害ある神経根周囲を刺激することは技術的に難しいので、仙骨神経叢部あたりの筋々膜を針刺激したり、殿部ほぼ中央にある坐骨神経ブロック点(≒殿圧穴)に刺針して下肢症状部に響きを与えたり、神経根性腕神経叢神経痛の場合も前・中斜角筋を針刺激したりして上肢症状部部位に響きを与えると、症状が軽減することもあるが、本質に迫った治療とはいえないので、次回来院時には症状が元に戻ったと聴いてがっかりすることが多いのであった。

腰椎椎間板ヘルニアによる下肢症状が、筋膜性のものだとして、具体的にどの部分が問題なのだろうか。

筋膜性疼痛症(MPS)研究会代表の木村裕明医師は、根症状の発痛源の多くは、ギザギザ底部のfasciaの重積のようだという見解を記していた。「L5の根症状がある場合は、大抵L5/sfacetの上か下のギザギザの底部にfasciaの重積が見られる。そこに圧痛が出る。上下の椎間関節を結ぶ、ギザギザの底部のfasciaに針をもっていき、リリースすると下肢に関連痛が出る。出ない場合は、ちょっと針先を外側にずらすとよい。そこに造影剤を入れると、大抵神経根に沿って広がる」

 

 

 木村のfasciaの重積がみられる点というのは、これまでも私が行っていた椎間関節刺針部位(すなわち棘突起の外方1寸)と良く似ている。とくに症状部に放散痛を与えようとする場合、さらに外方に刺針点を求めるという点も、そっくりであった。ただし私の場合は、椎間関節症に対して椎間関節刺針を行っていた。神経根症の場合のことは、考えの範疇に入っていなかった。今後、神経根症の治療に際して、その上下肢関連する知覚神経症状に対して、椎間関節刺針を行う方向性が示された。

4.フェリクス・マン(Felix Mann)の見解

フェリックス・マン(1931.4.10~ 2014.10.2)はドイツ生まれで,幼少の頃からイギリスに在住した。科学的な見方をした鍼灸師だった。1977年に「鍼の科学」をイギリスで出版した。本著は1982年にわが国では西条一止、佐藤優子、笠原典之により翻訳され医歯藥出版社から発行された。

本書には、次のような興味深い記述がみられる。「頸椎椎間板症候群やそれに関連ある病気の患者では、第6頸椎の横突起を刺激するほうが、腕神経叢を形成している数本の神経を鍼で刺すよりも効果的である」

これがどのような病態を示すものは必ずしも明瞭でない。私は、この記載を追試しようと、最近上肢痛を訴える患者に対して、側頸部から第6頸椎横突起を刺激してみると、上肢症状部に放散痛を得ることができた。上肢痛または下肢痛を訴える神経根症を疑わせる症例に使えるのではないかと思った。

 

 


 

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