現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

鍼による気胸事故の事例-その対応と費用 

2012-03-17 | 雑件

はじめに
知人のA針灸師が気胸事故を起こした。A針灸師はこの事故の終始を記録に残していたが、私はそれを一読し、貴重な記録であることを知った。当人から、人名・地名を隠すのであればブログの題材として使ってよいという承諾を得られたので紹介する。彼は医療事故用の保険に加入していなかった点はマイナスとしても、誠意をもって患者との対応にあたっているので評価できよう。

1.気胸事故の発端
平成22年3月7日に後頸部痛を主訴として晶子様(仮名)来院。以降4回施術。3月22日午前10時、施術5回目。耳鳴りと後頸痛治療を実施。同日午後4時来院。後頸部と上背部の痛みがつらいと執拗に訴えるので再度治療(2回目の施術費は無料とした)。この時、胸椎1行への深刺(交感神経節に影響を与える目的)を実施したが、これが気胸を生じた原因だったようだ。
同日午後5時に当院に電話あり。右前胸部第3肋骨周囲が痛み、呼吸苦もあるという内容だったので、さらにもう一度当院に来院するよう指示。

2.医師の診療とご主人との話合い
その患者は3月22日午後5時30分、自転車に10分ほど乗って来院。診察して気胸を疑い、当院では処置できないと判断。午後6時30分、A針灸師が患者に付添い、タクシーにて近隣病院救急外来受診。なおタクシー代890円はA針灸師が負担。
診察・検査の結果、右気胸と診断。3日程度の入院が必要とされ即時入院が決定した。
患者はその旨を、会社にいる夫に連絡した。なお加害者である針灸師に非があるとすれば保険適応にならず、医療費の全額を支払うことになるが、現時点では決定できず翌日以降、院内の会議で決定するとのことだった。
当日夜9時頃、晶子様のご主人が病院に到着。状況説明と謝罪をし、とりあえず医療費の全額をA針灸師が支払うことと、慰謝料の額は後日相談することで合意した。夫は当然怒っていたが、直ちに病院に連れて行ってくれたことは評価してもらえた。 

3.病状経過
入院期間は4日間で、3月25日午後、患者軽快退院となった。毎日、A針灸師もしくはA針灸師の奥様のいずれかが見舞いに出向いたとのこと。なお医療費総額は保険適用と認められ、患者3割負担分として、53,342円だった。この費用は、A針灸師が病院に支払った。
3月31日の外来診療を予約し、タクシーで患者を自宅まで送り届けた(タクシー代1250円はA針灸師支払)。

4.弁護士との相談
慰謝料について、どのようになるのかを、○○東京三弁護士会、○○法律相談センターのK弁護士に相談。つぎのような回答を得た。なお相談料は30分5250円だった。なおA針灸師は医療事故を起こしたのは始めてであり、弁護士に相談することも初めての経験だった。さすがに弁護士ということだけあって、状況を的確に把握し、また具体的な慰謝料をスラスラと提示してくれたとのこと。相談時間は30分で必要十分だったとのこと。
①慰謝料の計算は、本来は患者が治癒した時点で計算するもので、現時点では計算できないが、法的には次のことがいえる。
②入院期間の慰謝料
 生命に別状ない負傷のケースでは、入院1ヶ月で35万円。これを日割計算する。
 今回のケースでは、入院4日間なので、35×4/30=4.67 となるので、46,700円が妥当。
③外来時の慰謝料
 1ヶ月連続通院すると、その総額では19万円となり、1日あたり6,333円。
  (2ヶ月連続通院では36万円、3ヶ月では53万円で、日割計算)
 1週間に2回以上の通院では、非通院日でも連続通院したと解釈される。
 一方1週間1回以下では通院日を単独で計算し、1回5千円の計算となる。
  今回のケースでは3月25日退院、次回外来予定日は、3月31日ということで1週間未満であり、6日間の連続通院という解釈。すなわち19×6/30=3.8で、38,000円となる。
④慰謝料の合計金額
 仮に3月31日時点で、医師から治癒したと認められれば、慰謝料合計は、上記②と③の合計である、84700円という金額になる。
  また仮に、4月以降も1週間に1回で計4回通院し、4月末に治癒となれば、1回5,000円の計算で、5,000×4=20,000、すなわち20,000円が加算され、総計104,700円となる。
⑤この金額で、合意に達しない場合には、「調停」を申し込むとよい。


5.ご主人との話し合い
A針灸師とご主人が面談することになるが、第一回目ということで、第3者を交えない両者会談とした。A針灸師は、改めてお詫びした後、慰謝料の金額は弁護士の話では84700円となるらしいこと、これで合意できない場合、「調停」という手続きが必要となる旨を話した。
晶子様のご主人は、これで納得し、A針灸師が作成した示談契約書にサインした。A針灸師の精神的ダメージは計り知れないが、金銭的出費総額は、雑費を含て15万円程度だった。

6.示談契約書
上記当事者間において以下の通り示談が成立したので、本契約書を作成した。

第一条  本件事件の発生日時、状況は以下の通りである。(以後略)

第二条  乙は甲に対して与えた損害に対する責任を認め、気胸治療に要した医療費(通院のための交通費含む)の本人支払分の全額の支払、および慰謝料の支払いを約束し、平成22年3月末までの分として金八万四千七百円を、平成22年3月31日に支
払った。

第三条 乙は甲に対して、担当医師より気胸の治癒認定を受けるまで、平成22年4月以 降の医療費(通院のための交通費含む)の本人支払分の全額の支払、および4月以降の、法的基準に準拠した慰謝料の支払いを約束した。 


第四条  本示談以外に甲乙間においては何らの債権債務のない事を確認し、今後、上記以外の一切の請求をしない。

以上の通り示談が成立したので本書二通を作成し甲乙各一通を所有する。

 平成22年 3月 31日
                 患者(甲)               印
                 鍼灸施術者(乙)           印


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