茨城県で鬼怒川の堤防が決壊した際、濁流に流されずに残った白い家が何度もテレビに映された。あの家が旭化成のヘーベルハウスだと報じられたとき、社員一同、大いに喜んだだろう。社のブランドイメージもぐっと上がったはずだ。それから1カ月。天国から地獄とはこのことか──。

「旭化成の製品を愛用していただいている皆様に誠に申し訳ない」

 旭化成の浅野敏雄社長は10月20日、約200人の報道陣を前にかすれた声で絞り出すように言った。ハンカチで涙をぬぐうと、カメラマンたちが一斉にフラッシュをたいた。

 同社の関係者が言う。

「浅野社長は医薬品部門の出身で、本当に人のいい、いわば『薬屋のおやじ』です。それは社内でも知られています。涙は心から出たものだと思います」

 三井住友建設が施工した横浜のマンションが傾斜していた問題で、旭化成は14日、子会社の旭化成建材が杭工事をしていたことを発表。この日917.7円だった株価は、翌日に792.7円に急落し、今も700円台で低迷している(23日現在)。

 今回の株価の動きについて、市場関係者は言う。

「不祥事があった場合、これぐらいは下がるでしょうね。コーポレートガバナンスやCSRを基準に投資先を選ぶファンドは、こういうニュースが出たら機械的に売りますから」 同社の2015年3月期の売上高は1兆9864億円、純利益は1056億円。いずれも2期連続で過去最高を記録している。住宅・建材、ケミカル・繊維、エレクトロニクス、ヘルスケアなど事業を多角化する中、住宅・建材は売り上げの3割を占める主力事業だ。

 多角化が功を奏し、同社の業績も株価も安定していた。旭化成株はいわゆる「安定株」として、一定の評価を得てきた。不祥事の影響で今、その「安定」が失われている。

 だが、株に詳しいラジオNIKKEIの和島英樹記者はこう話す。

「株価は徐々に落ち着きを取り戻すのではないか」

 旭化成建材の売り上げの割合は旭化成全体の中では多くない。高収益を出してきたヘーベルハウスの問題が発覚したわけでもない。当該マンションの補償費用などは決算に影響するほどではないという。

 そうならば、株価はいずれ上昇に転じるかもしれない。そのタイミングはいつか。野村証券の岡崎茂樹アナリストは言う。

「当該マンションや3千件の調査案件を含め、補償額や損失額がある程度確定し、業績や資本の悪化リスクが後退すれば上がりやすいでしょう。当然、逆の場合はマイナスです」

 被害が拡大すれば、行政処分の可能性やヘーベルハウス受注への影響も懸念され、株価が一段と下がるかもしれない。

週刊朝日 2015年11月6日号