東京・ウサギSATELLITES

兎についてきた人だけが迷い込む不思議な衛星

踏み込んでます10-大人時間・漫画追記部屋-

2016-12-21 | 漫画・ドラマ・アニメ・ゲーム


※BLについて綴っております。ネタバレも含みますので、ご注意をば。

※できれば踏み込んでます1を読んでいただけると...ありがたいです。





お次は表紙もの…の前にファンタジー作品を挙げておこうと思います。


文善やよひさんの『鴆-ジェン-』



これぞまさにファンタジーの醍醐味、人の想像力の素晴らしさを存分に感じさせてくれる、素敵なお話しでした。

毒を喰らい、その毒素が反映される体を持つ鳥人間の鴆(ジェン)ツァイホンと、将軍で元鴆飼(ジェンスー)フェイのお話し。

まず表紙を見て頂くと分かると思うのですけれど、極彩色の羽根を持つ主人公の姿がそれはそれは美しく描かれております。その色の配分が絶妙で、カラーで絵を描くことの素晴らしさが詰まっているように思いました。更に中もモノクロのペン画の魅力に溢れていて(デジタルやもしれぬが)羽根の表現が秀逸でした。

この鳥人間という特殊設定の主人公の容姿について説明しておくと(鳥って骨が軽くて筋肉隆々なイメージだけどそうではなかった)、顔と胴体は人間、頭は鶏冠つき、肩から先は翼(肩甲骨から生えているタイプではない)、尾っぽもあって(フワフワのポンポンが連なっていて可愛い)。と、全体のバランスは人間に近くいのですが足だけは異様に大きくて不気味。

そして~ここが重要なのですけれども~全身毒持ちで象をも倒す力があります。なので本来は人に懐かず周囲も恐る恐る関わっているという感じなのですが、、、そんな中で良いなと思ったのは、人の言葉による会話で意志疎通ができること。なのでその辺のすれ違いは起きません(夜なきはするけれども←可愛い)。

一方お相手のフェイは将軍なだけあって寡黙で精悍。美しいジェンと将軍という組み合わせもまた良かったです。


全体的には中華の雰囲気を取り入れているようで、服の模様や建物の様式美が独特で楽しめましたし、これらを凝縮させたような扉絵が一話一話の区切りで載っているのですけれども、しばし見惚れてから読み進めるといった具合でした。

...絵ばかり讃えているようですが、ストーリーもこれまた良く出来ています。

主人公のツァイホンはジェンの中でも右に出るものはいないと言われる名鳥。この国ではそんなジェンを飼うことがステータスの一つとなっていて、彼もフェイの上司である大尉の元へ行くことが決まっています。とはいえ、育て上げたのはフェイではなく兄のラン。

実はこの兄弟、かつて可愛がっていたジェンを客に殺されてしまうという悲しい過去がありました。そこにはとある理由があるのですが、、、この出来事がきっかけとなり兄弟は別々の道を歩むことになります。兄のランは最上に美しいジェンを育て上げると誓い、一方のフェイは武人となり二度とジェンは育てないと。

ところが、兄はツァイホンによって殺されてしまうんですね。…この辺りは読んでいて非常にショックだったといいますか、なんて凶暴で恐ろしい生き物だろうと思いました。でも使用人によると親子の様に仲が良かったとのことで、深まる謎…(急に野生に目覚めるアライグマのようなものか?と単純な私は考えたりもしたのですが、ここにも深い理由があったことが後々分かります)。

大尉のもとへ行くこともあって報復できないフェイ。とはいえ、何をすれば苦しみを伴うか知っている彼はお仕置き的な行為を与えます。部屋に行く度襲おうとするツァイホンをサラリと交わしなされるそれは性的なもの。ファンタジーで、しかも人間同士ではないので絡み的なシーンがあるとすればどう組み込んでくるのかと思ったのですけど、こうきたか上手いな~と思いました。この作者の方はそういった場面もしっかり書かれるし、官能的でもあったのですけど、嫌な卑猥さは感じませんでしたね。

その後、大尉のもとで飼われることになったツァイホンですが、餌が合わなかったようで体調を崩します。そのため元ジェンスーのフェイが面倒をみることになるのですが…周囲の心配をよそに距離を詰める姿に読んでるこちらもハラハラしました。

で、ちょっと意外だったのが、ここいら辺りからちょこちょこ垣間見えてきたツァイホンの可愛らしさ。

猫のように提灯にじゃれついたり、あむあむとご飯を食べたり、これがもう震えがくるくらい可愛くてですね(もう可愛いいしかいえない)彼の本当の姿が徐々に露わになるうちに、こんなに可愛い生き物を見た(読んだ)ことがない…と、母性本能を刺激されまくった私がおりました。

推測するに作者の方も可愛らしい方だと思うのですよね(性格なり見た目なり)それが自然とキャラに反映されているのかな~と思いました。


そして、使用人から兄とツァイホンのかつての様子を聞いたり、武人の勘から確証を得たのか、試すように丸腰で飼育部屋に乗り込むフェイ。全てはツァイホンに委ねられているという結構な状況。そこから大きな足での挑発が始まり、牙のある口の中に指を含んだりして、どうなるの!?と思っていたらツァイホンの可愛らしさが発現しました。。。フェイをいたぶるどころか途中でもじもじ盛りがついてしまった可愛らしい鳥人間さんがそこにいました。


そんな時、急な戦が始まります。そこへ向かう去り際、フェイはかつての悲しい出来事(色出しが下手な自分によって育てられた子が、毒素が弱いことで人との距離を詰められたこと、でも価値がないと判断され客に殺されてしまったこと)を告白します。これを聞いてショックを受けるツァイホン。同じように食べ物を絶ち、色褪せ、それが原因で山に捨てられてしまいました。

...この辺りは本当に悲しい展開で、その華やかな姿が丁寧に描かれていたからこそ、色あせつつある姿が痛々しかったです。でも、フェイは見捨てませんでしたね。探し出して介抱する彼に真実を語るツァイホン。家族になりたいという自分の望みを叶え、側にいることで毒素に蝕まれたランを苦しみから解放してやるためにあえて牙にかけたと…。。

「幸せだった」という表情からも分かる通り、描かれているかつての日々が本当に幸せそうで、なのに自身の毒が父のような大切な存在を傷つけていた事実。。。そして何よりこのことを1人抱えて誰も寄せ付けないようにしていたとか、なんて可哀想なのだろうと胸が詰まったのですけれども、先に書いたようにフェイが色々気づいていてくれたことに救われました。

そして、愛情が湧いていたのでしょう。番にならないか?と打診され、とまどいつつも受け入れるツァイホン。その時の「私」という言葉遣いも大きな足で引き寄せる姿もやっぱり可愛らしくて、良かったね~と幸せな気持ちになりました。

とはいえ、そう簡単には結ばれない2人(主に身体的に)。ツァイホンの肉体にはまだ毒素が残っていて…毒抜きを選択し続けます(苦痛を伴う)。結果、その毒が抜けたであろうことが分かる、ラストの真っっ白な姿に、おもわずむせび泣きました。

愛する人を傷つけないために、側にいるために、あれほど美しい羽根を捨てる決意をして成し遂げたツァイホン。フェイも将軍を辞めて寄り添うことに決めたようで…この2人には幸せになってほしいな…と思わずにはいられませんでした。

ありがたいことに、本の終盤には2人のその後が書き下ろしで描かれておりまして、、、ツァイホンがまだ怖がっているのですね。なので先に進めていません。そんな彼をフェイは辛抱強く待ち、ある夜ようやく結ばれます。でも心配でその後も眠らず様子を見続けるツァイホンの様子に本当になんて優しい子なのだろうと、ここでもまた泣けました。

2人が移住したところは辺鄙で、暮らしてゆくには大変そうに見えますけれども、好奇な眼で見られることもないでしょうし、なにより2人が幸せだと実感しているようなので本当に良かったです。過去が過去なだけに、改めてずっと幸せでいてほしいと思いました。

あと、このお話しは基本2人を中心に話しが進んでいくのですけれども、危険な人物が出張ってきたり、どちらかが誰かに酷い目にあうとかではなく、現在進行形的に悲劇が起きないというのは安心できますね。その後何度も再読できました。



と、感想を考えていたら2巻…ではなく、2人のことが載った新刊『極夜』が出るとのことで手に入れて読んでみることに。


3分の2は表題作を描いた別のファンタジーで、後半に2人の姿が短編集として載っていました。

内容は幸せそうなものばかりで、 撫でられてズキューンと目がハートになったりウトウトしていたり、ツァイホンの可愛らしさが無限に広がっておりましたよ…。まあ、卵を産む夢の話しではフェイがどうかしていましたが(本人がそう言っている←でも彼の優しさも増し増しておりました)。子供達も可愛らしくて、なんとか実現(漫画だけど)してほしいものです。

好物である毒の実の種を拒否する話しは、それを食べれば体に反映してフェイを傷つけることになってしまいますからね、愛を感じられる良いシーンで、言葉で語るのもいいですけど(そういえばこの2人は語っていなかったような…)こうした行動で表現されているのは逆に萌えに繋がるような気がします。短編でもいいので、今後もこうして2人を見てゆけたら幸せなのですけれども。


一方の極夜。こちらは昔書いた作品の完全版として出たようなのですが(元のタイトルは「満月の王」いい響きなのになんで変えたのかしら?)

…そうですね、こちらもファンタジーなのですが幼なじみ同士の切ない恋を描いておりまして、相手を想うからこそ自分を犠牲にし、それでも寄り添えている姿に救われはしたのですけれども、結局最後まで真実が明かされず記憶が失われてゆく…という設定が悲しくて苦手でした。

でもいつか(人間界に戻った時の為の手紙があるので)全てが明らかになる時が来るのではないかと望みを抱きつつ、その時離ればなれになっているのではなく、寄り添いあえていたなら…と願うばかり。


というわけで、長々と書いてしまいましたが、色々とツボを刺激されるとても素敵な作品でした。




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