嵐の波に揺れる月

大宮+櫻葉の腐った妄想話です。未成年、ご理解のない方は入らないでください。

注意

嵐の腐った話です。ご理解がない方、未成年の方は回れ右でお帰りください。 コメ欄は開いてますが、お返事は致しません。 でも、月魚もなみも拝見してます。 では、ここから始まる二人のコラボ、お楽しみくださいね。

紅蓮の国 第24巻

2018-02-24 00:00:00 | 忍びの国/続編
*蘭丸

気がつくと、目の前に大きな扉があった。
枠は朱で塗られ、幾重にも色を重ねた美しい鳳凰の描かれた その扉を見上げると、早くこの向こうに行かなければと言う使命感が沸き起こり、俺は それを力一杯押して開け放った。
強い光が射し込み視界が真っ白になる。それでも必死に目を凝らすと、
「なんだ、蘭丸か。そなたも来てしもうたのか」
聞きたかった声が響いた。
「上様!」
その姿は正しく織田信長。彼は甲冑を着こんだ凛々しい姿で俺を見下ろし、ちょっと困った顔をして髭を撫でた。
「生きろ、と言ったであろうが」
「この蘭丸、いかなる時も上様のお側にお仕えいたします」
「現世での忠義など、持ち込まずともよいのだ。それに あの無門と言う忍びから聞いておらんのか」
「無門から? なにを、」
「儂は先に天上界に行くが、そなたは この世を生きて楽しめと、」
「そんな、上様のいない世界に私の居場所などありません。どこまでも主君に付き従うのが家臣でございます」
「....そなたは自由になるのが怖いのであろう、蘭丸よ」
上様は呟くように言って目を細め、俺を慈愛に満ちた瞳で見つめた。けれどすぐにそれを引っ込め、
「うつけよの、蘭丸。分からぬのか? 儂には もうそなたなど必要ないと申しておるのだ」
眉間にシワを寄せ、険しい表情を作って言った。
「上様....」
なんで....
彼の言葉に、胸の奥が痛くなる。
自分が一番 寵愛を受けていると、勝手に思い上がっていたのだ。
「それでも私は、上様と共に参ります」
その足下に ひざまづき、深く頭を下げると、
「分からん奴よ....
こっちには別嬪が わんさかおってな、お主のように この信長が愛撫しても ちっとも悦ばん者を相手にする暇がないのだ」
上様はそう言ってカラカラと笑った。

「....ご存じだったのですか」
「儂を誰だと思っている」
恥じ入る俺に、上様はさらに高く笑った。
「私の身体が未熟だったのです.... ですが上様、」
「ならば成熟するまでは、儂の元に来てはならん」
俺の言葉を遮って上様は言い、口の端をつり上げた。
「そんな....」
「死んでしもうたら、成長せぬからな」
「ですが、」
「そなたを満足させる者が、現世にもおるであろう」
「そのような者は、上様をおいて現れませぬ」
「そうか? あの忍びは どうだ? あの炎の中から そなたを救ったのだぞ?」
「....無門は....」
そんなじゃない、そう言おうとして、言葉が途切れた。

無門....
ずっと忘れていた気がする
いや、考えないようにしていた
だって俺は上様のモノだから....


「儂の目は節穴ではないぞ」
「もちろんです!」
「ならば もう行け」
「それでも嫌です!」
「ああもう、この 駄々っ子が!」
そう言と、上様は えいっと俺の肩を蹴っ飛ばした。
「上様....ッ」
俺の身体は後ろ向きに倒れ、そのまま地面に着くことなく、雲の間を落ちて行く。

「嫌だ....嫌だ嫌だ嫌だ! 上様ッ」

どうして
どうして俺だけ生かすのか
弟たちも きっともう討ち取られている
それなのに
それなのに



「蘭丸!」
大声で呼ばれ、肩をゆすられて俺は目を開けた。心臓がバクバク言って、呼吸も整わない。でも視界に入って来たのは、泣きたくなるほど懐かしい顔だった。
「....無門....ネズミ」
「気がついたか、蘭丸」
「良かった.... すごくうなされてたから心配で」
二人が両方から俺の手を取って安堵のため息をついた。その目は真っ赤になっている。

「上様に....蹴っ飛ばされた」
渇いた口で呟と、無門とネズミが同時に「え?」って聞き返した。
「俺の事なんて もう必要ないから こっちに来るなって、蹴り落とされたんだ....」
だから、こうして生きて戻った。
戻りたくなんてなかったのに。
なのに無門は俺の頬を何度も撫でて、
「そうか....良かった。本当に良かった」
俯いて鼻を啜った。
「無門....」
「上様は蘭丸に生きて幸せになれって、俺に言い残したんだ。....潔い最期だった」
「そうか....」
「蘭丸のことを頼むって、俺に。蘭丸のこと、気にかけてたよ....最期まで」
「そうか....
あの炎から、俺を抱えてよく逃げられたな....」
「約束したからな」
「そうか....」
「起きたばっかりで そんなに喋ったら疲れるよ」
ネズミが俺と無門の会話に割って入り、
「水飲む?」
俺に向かって訊いた。俺は首を振って、
「もう少し、寝かせてくれ」
そう言って目を閉じた。

熱があるのか身体が熱い。
あちこち痛むし、気怠くて、酷い虚無感で、俺はすぐに意識を手放した。
もう一度あの扉の前に立って、今度こそ向こう側へ行くんだ。
そうしないと、俺はもう空っぽだから、生きている気力がない。

なのに扉は俺の前に現れなかった。


次に目を覚ました時には部屋の中に昼間の明るさはなく、西陽が射し込んで今日の終わりを告げていた。
「起きた? 蘭丸」
ネズミが俺の顔を見てホッとした顔で笑い、
「無門! 蘭丸が起きたぞ!」
戸の外にいるらしい無門を呼んだ。
「ネズミ、ずっとついててくれたのか」
尋ねると、
「うん。蘭丸が怖い夢を見ないように」
少年は祈るように俺の手を握った。

「起きたか、蘭丸」
無門が薪を抱えて入って来て、
「ちょっとだけ起き上がれるか? 薬飲んで、包帯を替えよう」
それを土間の隅に置くと桶の水で手を洗った。
「手伝うよ」
ネズミ言って俺の背中に腕を回す。まだまだ幼い子供だと思っていたのに、その手は力強く俺の半身を起こした。
「痛....てて」
脇腹の辺りに痛みが走って思わず顔をしかめると、
「そっと起こさねぇとダメだろ」
無門がネズミに向かって怒った顔を作った。
「そっとしたよ。大ケガだもん、痛くて当たり前だよ。生きてる証拠だ」
「開き直るな」
「それより薬! あと包帯だ」
ネズミが大きな声で言って立ち上がり、バタバタと準備を始める。その間に無門が俺の着ている薄衣の帯をほどく。ゆっくり肩から袖を抜くと、露になった自分の傷だらけの肌に驚いた。ぐるぐるに巻かれた腹の包帯には血が滲んでいる。

「痛むか?」
その包帯をほどきながら無門が俺に尋ねた。
「いや....」
「腹の傷は深くて、治るのに時間がかかりそうだけど、他は大したことないよ。せっかくの肌が台無しだけど」
無門がおどけて言うけど、俺は黙って首を振った。

どんなに傷だらけで痕が残ろうとも、治るんだよな、生きているから。
でももう、この肌を見せる相手はいない。

なんで生きているんだ俺は....
こんな深手を負ったのに
なんで死ねない?
上様だけを逝かせて....

「ほら無門、いやらしい顔で蘭丸の裸を見るなよ」
薬を持って来たネズミが無門を小突いて言った。
「ばっ、誰がいやらしい顔なんて、」
「脱がす手つきも いやらしかったぞ」
「マセたこと抜かすんじゃねぇよ!」
「蘭丸も そう思ったよね」
ネズミが無邪気な顔で俺を覗き込む。でも、俺の心はもう空っぽで、一つのことしか考えられない。

「蘭丸? 痛むのか?」
「ネズミ、少しの間、無門と二人にしてくれないか」
子供らしい表情で心配するネズミに俺は静かな口調で言った。
「え、でも」
少年は戸惑って、無門と俺を交互に見つめる。
「蘭丸は俺に話があるってさ。ほら、ちょっと外に出てろ」
無門が察してネズミの背中を押す。
「すまない。すぐに終わるから」
「....分かった。でも 無門が変なことしようとしたらすぐ呼んでよ?」
「分かった。すぐに呼ぶ」
「変なことってなんだよ? しねぇわ!」
そう言って無門がネズミを小突こうとしたけれど、その前にネズミは外に飛び出した。

がたんと戸が閉まり、部屋は急に静かになった。俺は一度深く息を吸い込んで、
「....無門、」
隣に座って、賢しげな瞳で俺を見つめる無門を呼んだ。
「ああ」
短く応える彼に、
「殺してくれないか。俺を、お前の手で」
冷たく響く声で言った。
「....どうしても、上様の側に行きたいのか」
問い返す無門に俺は深く頷く。
「おめおめと生き残ってしまった自分が情けないのだ.... あの方の側以外、俺の居場所など、」
どこにもない....そう思うと ますます空しく、何も考えられなくなって行く。

「....分かった。でもオマエの頼みをきく前に、俺の頼みを聞いてくれ。今までも蘭丸の頼みをきいて来たんだから、今度は俺の....」
「ちょっ、無門! 分かったってなんだよ! 蘭丸を殺すって言うのか?! そんな事、俺が許さねぇ!!」

無門が言い終わらない内にネズミが飛び込んで来て、無門の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「こら、ネズミ、離せ、人の話は最後まで、」
「蘭丸も蘭丸だ! 居場所がないだって? ここにいればいいじゃないか!」
苦しそうに喘ぐ無門を無視して、ネズミが今度は俺に向かって怒鳴り散らした。彼は部屋の隅から紙の束を持って来て俺に差し出し、
「見てよ! 蘭丸に言われた通り、毎日毎日練習してるんだ。今じゃ、ちゃんと寺子屋に通ってる商家の子より俺の方が上手くなってんだ。だから みんな俺の先生に習いたいって。寺子屋の先生より、蘭丸の手本の方が ずっとずっと綺麗だからって」
早口にそう言って、手で目をこすった。
「ネズミ....」
それは一枚一枚の紙に何度も何度も同じ字を練習してあって、染み込んだ墨であちこち破れてしまっていた。それでもその上達ぶりは よく分かる。ネズミの熱心さも、痛いほど伝わってくる。
「俺はもっともっと蘭丸から色んなことを教わりたい。教えてくれよ。ずっとここに居てよ」
鼻声でそう言って、ネズミはまた両手で顔をこすった。
「ったく、まだ俺が喋ってんのに」
そんな彼の肩を抱き、無門が笑った。

「でも....俺は....」
言葉が見つからない俺に、無門が顔を近づけ、
「今まで散々頼みを聞いてやったんだから、今度は俺の頼みをきけ」
強い口調で言った。
「....分かった....そしたら、俺を殺してくれるんだな?」
俺が言うと無門は腕組みをして大きく頷いた。
それならそれもいい。
最後に無門の役に立てるなら。
「無門! 何言ってんだよ!」
「ネズミはちょっと黙ってろ」
わめくネズミを無門がぽいっと後ろへ放った。

「なら、その頼みをきくよ。何でも言ってくれ」
俺は頷いて、真っ直ぐに無門を見つめた。
「絶対だそ。約束だからな。最後までやり通せよ?」
「二言はない。早く言えよ」
「じゃあ言うよ」
無門は大きく息を吸い込み、
「俺が死ぬまで、俺の側に居てくれ」
よく響く声でそう言った。

「....は....?」
意味が分からず、俺は瞬きを繰り返す。
「生きて、側にいて欲しい。それが俺の頼みだ」
「そんな.... じゃあ俺の頼みはいつきくんだよ」
「俺が死ぬ時、オマエがまだそれを望むなら、一緒に連れてってやる」
「なんだよそれ.... いつになるんだよ」
「さぁなぁ.... 俺はしぶといから」
「そうだよ、無門は殺したって死なない」
「だなー」
アハハッってよく似た親子の二人が笑った。

アハハってなんだよ....
じゃあ俺も死ねないじゃん....

あの炎をものともせず、ここにいるんだもんな

無門ならきっと、俺を置いて行かない

「は....はははっ」
気づいたら、俺は笑いながら泣いていた。
無門がそんな俺の髪を撫でて、
「今は泣けばいいよ。何も考えられないなら、考えなくていい。まだ上様の弔いも済んでないからな。傷が癒えたら、一緒に行こう」
ふわりと笑って、俺の額に口づけた。ネズミが「あっ」って言ったけど、それは置いておいて、

「行くってどこへ」
尋ねると、
「安土城へ」
無門は口の端をつり上げた。





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