Con Gas, Sin Hielo

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「ヘイトフルエイト」

2016年05月01日 03時21分14秒 | 映画(2016)
丁寧な仕事、贅沢な時間。


上映時間が長い。このように書くと批判的に聞こえるが、そうではない。

ただ、表現として必要なものを残して削り取っても3時間近くになるほど、中身がぱんぱんに詰まった映画というわけでもない。

冒頭のワンカット。一見不可解な構図からゆっくりゆっくりとカメラが引いていくと、それは猛吹雪が近付く山間の街道沿いにある看板のアップであったと分かる。

遥か遠くに見えた点が駅馬車となって看板の横を通り過ぎるまで何分あっただろう。この場面にこれだけの尺が必要かと言われれば必ずしもそうではない。しかし、単純な長回しにもかかわらず冗長とはまったく無縁で、E.モリコーネの音楽とともに緊張感と期待感が盛り上がっていく。

作りはミステリー仕立て。曲者8人が揃った中で起きる殺人事件と宣伝では言っていたが、実は事件が発生するまでも結構時間がかかる。

中心舞台であるミニーの店、そこへ至るまでの駅馬車の中。主要人物同士による一触即発の会話がそれぞれのキャラクターの紹介となっており、観ている側は、これから何が(殺人事件と分かってはいるが)どのような形で起きるのか、はらはらしながら引っ張られる。

南北戦争からそう時間が経過していない時代。本作で最も強烈に描かれるのは黒人への差別だ。ただ一人の黒人マーキス・ウォーレンにとっては四面楚歌。しかも話していくうちに、ミニーの店に会したうちの数人がバリバリの南軍派だということが判明する。

そして映画の最大のカギである女犯罪者デイジー・ドメルグ。大きな町で処刑されるために引っ張られているだけの存在だが、容赦なく殴られても不気味に笑いながら悪態をつくのを止めない。

キャラクターの作り込みやエピソードの内容がしっかりしていて、それを時にはじっくり、時には鋭くと、緩急をつけて表現される。この辺りは監督8作めの経験が成せる技なのだろうか。

事件の場面には当然グロっぽい画は出てくるが、本作がR-18指定となったのはどうやらそれだけではないようで、途中でまさかの全裸男登場。これも画にしなければ映画が成り立たないというわけではないところがおもしろい。

最大の事件が発生してからは、本格的な犯人探しのミステリーへ移行する。なぜこの8人が集まったのか、何がシナリオ通りで何が想定外だったのか、この舞台を操っていた最強の敵は誰なのか。ひとつひとつが解けていく様が爽快だ。

怪しい黒人役といえば追随を許さないS.L.ジャクソンや怪演でアカデミー助演女優賞候補になったJ.ジェイソン・リーをはじめとした俳優陣も多彩な演技で楽しませる。やっぱり映画はおもしろいと再認識する作品だと思う。

(85点)
コメント
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