あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

精神科のカウンセリングpart2

2018-01-22 07:56:40 | 物語(小説)
誰か、俺のこの、右の手を止めてくれ。
この、右の手が、わたしを跪づかせるのである。
わたしのこの右の手を、罪と呼ぼう。
わたしの罪は、伸びてゆく。
伸びて、伸びて、酒瓶の蓋を開け、罪が、グラスに酒を注ぎ、わたしはそれをあおるように飲む。
すると罪は、これを何べんも何べんも繰返し、わたしの脳を萎縮させ、脳髄に顧客を招き入れ、麻薬物質を密売し俺の血は、それを買いに来て、毎度、おおきに、と言っては全身の血流へと流れ込んで腐食し、俺の体内はどろどろになって羽化を待ち、待てども待てどもどろどろの我が胎内で我を消化して、我は自身と、自身の右の手を憎む。
だ、か、ら、わたしの、右の手を、誰か切断してください。
全身をゲヘナへ投げ込まれるよりか、わたしにとって益となるからです。
そうしてわたしは、この罪を、切断された。
右の手を喪った我は、こんだ、左の手で、酒を飲み、これを幾度も幾度も繰り返した。
だ、か、ら、わ、た、し、の、この罪を、切断してください。
全身を地獄の焼却炉へ投げ込まれるよりか、わたしにとっては良いからです。
そうしてわたしは、左の手も、切断された。
左の手も喪った我は、こんだ、右の足で未来少年コナンのように器用に酒瓶の蓋を開け、これを口に突っ込んで酔い潰れた。
だ、か、ら、わ、た、し、の、お、こ、の、罪、を、お、切断してください。
そうしてわたしは、この罪を、切断された。
右の足も喪った我は、こんだ、左の足だけで、酒をグラスに注ぎ、これを飲んで愉楽に溺れた。
瞬間、わたしの左の足は、切断された。
四肢のすべてを喪った我は、こんだ、口だけで酒をべろべろと舐めて飲み、へべろけとなって天井を睨んだ。
わたしの唇は、二度と開かないように縫い付けられた。
達磨のわたしは、ごろごろごろごろ転がりながら、耳の穴や鼻の穴や、目から、酒を飲めるかを遣ってみたが、これが、何度遣っても痛くて不快なばかりで一向に快楽には辿り着けなかった。
わたしは滔々と涙を流しながら到頭諦め、ごろごろごろごろ、ごろごろごろごろと転がりながら、精神科の地獄の門を頭で突いた。
すると中へ連れてかれ、椅子に座らされてじっと待っていると、名前を呼ばれたので床に転がり落ちて幼虫のように這っていき、診察室の白いドアをわたしは頭でknockした。
するとわたしの担当となったエドワード・スノーデン似の白人の先生が、ドアを開け、わたしを見下ろしてぎょっとした顔をした。
先生は静かにわたしを中へ入れ、抱っこして椅子に座らせた。
向かいの椅子に先生が座り、わたしの変わり果てた姿を打ち眺め渡し、溜め息交りに蔑みの同情の表情でわたしに言った。
「一体、なんですか。その姿は。」
と呆れた声で言ったあと、「ああそうか。それじゃ答えられませんね。」と言って、デスクの引き出しからカッターナイフを取り出してわたしの脣に縫い付けられた糸を切ってくれた。
そして縫い付けていた糸を抜くため先生は思い切り引っ張ったのでわたしの脣は、血が噴き出した。
わたしは吃驚して、「卯っ卯ぷ部府ぷ部部部ぷ部府ぅっっっ」と言ったが、先生は罪悪心の、欠片もないといったような冷血な目でわたしを見詰め、わたしを目で咎めた。
血が、たらたらと脣から落ちて止まらず、先生はそれを汚れたものを見るような目で見て、白いハンカチで嫌々するように血を拭い、血で真っ赤に染まったハンカチを見て、「いつか弁償してください。このハンカチは高かったのです。」と言って、目を細め、それを屑箱へと投げ入れた。
わたしは脣の血を、舌嘗めずりしながら、「さ、酒を、下さい。先生。さ、酒……」と言った。
先生は冷めた表情でモニターを見てマウスを動かしながら答えた。
「あなたに飲ませるような酒はありません。あなたを真に救うのは、酒ではありません。」
わたしは先生がそう言い終わる前に、「じゃあ、なんなんですかっ。」と涙交りに言った。
先生は大きく息を吐いたあとに、わたしを正面から見詰めて言った。
「だから前に言ったじゃありませんか。わたしとの長期間の真剣なカウンセリングを、あなたが心から受け容れる想いがないのなら、あなたを救えるものなどこの世には存在しないと。」
わたしは洟を啜りながら、涙をぽたっ、ぽたっ、と白く冷たそうな床に落としながら言った。
「此れから、真面目に通いたいと想っております。でも……」
「でも、何ですか。」
「でも、わたしは最早、生きて行く価値はあるのでしょうか?」
先生は、わたしが言い終わる前に即答した。
「あなたに生きて行く価値は、どこにもありません。前にも言いました。しかし、それでもあなたは生きて行かなければならないのです。」
先生は、透き通っているように濁っている翡翠のような碧蒼の目で、わたしに続けて言った。
「あなたは、永遠に地獄でうねりながら生き続けなくてはならない運命の霊魂です。あなたの本当の苦しみは、此れからです。わたしから御訊きします。一体、何故、人も動物も、拷問に堪えられるような身体として創られているのか?」
わたしは喘ぎ歯軋りしながら答えた。
「わたしはそれを知らないのです。」
先生は優しい目でわたしを見詰めて言った。
「わかりませんか。ではあなたに、わかるだけの拷問を、受ける必要があるのではないでしょうか。それとも、あなたはわかりたくもない、わからなくとも良いと想っているのですか。」
わたしは逃げ場のないこの診察室の、奥に小さな窓があって、そこから斜に光線が差し込み、その光線によって動いている影と影の隙間の空間の存在たちを、今知った。
見えない存在たちが待ち望んでいるものと、見える存在たちが恐れているものが、同等となる。
わたしは、見えないこの足で立ち上がり、見えないこの腕で、先生を抱き締めた。































最新の画像もっと見る