komaの こまごまひとりごと

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80年代前後の少女マンガで育った主婦が、今頃書いたファンタジー

2017年03月20日 | 小説

                                     第1回

      出会いの窓は南の塔に(第3回)

 

 ティノが聞いたというその話を、わたしはレントリアの都にある王城で、旅回りの商人の世間話から偶然聞き出した。

 都の北西部を滔々と流れるレントール川、その崖ふちで起きた闘いの果て。
 魔物と相討ちになった剣士は、バラッドにある歌詞のとおり、天馬とともに川に転落していった。
 その後もちろん捜索はおこなわれたが、剣士も、そして彼の愛馬もついにみつかることはなかった。 

 かなりの手傷を負った状態で落ちたうえ、冬の終わりの水流は凍りつくような冷たさだ。
 たとえ無傷であったとしても、助かる見込みはないだろう。

 都の人々の間で、失望があきらめに変わるのは早かった。
 あきらめが武勇伝になり、やがて伝説になるべき出来事として歌になるのも早かった。

 けれど、レントール川が流れ下っていくその先で、商人が村人たちから拾った話は少しちがう。
 闘いがあった翌日、褐色の髪の若者が、支流の岸辺にぼろぼろの姿で打ち上げられたというのだ。

 はるかに遠い山脈から発した川は、合流と分岐をくりかえしながらレントリアをめぐり、都の境界線を形づくり、あらたな流れを生み出しつつ進んでいく。
 若者が流れついた川は支流のひとつにあたっていて、低地に至る前の丘陵地帯を通り抜ける川筋だった。

 川で溺れる若者も助け出される若者も珍しい話ではなかったが、季節が季節なだけに、救出に向かう村人たちの足取りは重かった。
 ところが驚いたことに、倒れている若者には息があった。
 しかも、あわてて皆で助け起こそうとすると、その手を拒んで自力で動こうとする体力すら残っていた。

 その次に起きたことは、村人たちを今度こそ本当に驚かせた。
 どこからか舞い降りてきた天馬が、若者の腕をくわえて引きずり起こしたのだ。

  天馬の翼も若者に負けないくらいぼろぼろで、もとは白かったであろう毛並みは、くすんでずぶぬれだった。
 ぽかんと口を開いて見守る村人たちの目の前で、天馬は翼を下方にのばし、若者がその翼をよじ登るようにして背中に這い上がり、人馬一体ふたたび空に舞い上がり・・・。

 そして丘陵の裾野の森を横切るかと思われたところで、ふと速度を落とした。
 休息をとろうとするかのように、人馬はゆっくりと丘の斜面に舞い降りていった。

 この重大な出来事について、村では緊急会議が開かれた。
 そこで出されたのは、あの若者は少し前に都で騒がれていた勇者であるにちがいないという、村にとっては栄誉ともいえる結論だった。

 聖獣が人里におりること自体たいへん珍しいというのに、その聖獣に助けられ、しかも運んでもらえる人物が並みの人間であるはずがない。
 それだけでも、若者が誉れ高い勇者であることを示す、十分な証拠になるというものだ。
 凍てつく川に流されながら心臓が止まらなかったのも、天馬の守護がついていたからこそだろう。

 では急ぎ助けに向かわなければ。当然そういう意見が出たが、別の意見もまた村人たちには魅力的なものだった。
 というのも、ちょうど彼らがおりていった斜面の途中は、魔物の群れが巣食っていると噂の場所だったからだ。

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