komaの こまごまひとりごと

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80年代前後の少女マンガで育った主婦が、今頃書いたファンタジー

2017年04月11日 | 小説

                                     第1回
        出会いの窓は南の塔に(第25回)

 

「剣士さま」
 呼びかけると、彼は明らかに迷惑そうな顔をした。

「さまはやめてくれよ。名前だけでいい。敬語って苦手なんだ」

 荒っぽい感じに雰囲気が切り替わってしまったため、少しひるむ。 
 けれど呼び方が嫌だっただけで、わたしと話すことが嫌なわけではなさそうだ。

「ラキスさま」
「さまはやめろって」
「では、あの・・・ラキス、どうもありがとう。メイナを助け出してくれて」

 それからわたしは居住まいをただし、侍女の命を救ってくれたことに対する感謝を正式に伝えた。
 無視されてもしかたのない願いだったのに、聞き届けてくれた恩人だ。
 それにふさわしい感謝と賛辞の言葉を、最大限の心をこめて送ったが、恩人の返事はそっけなかった。

「たいしたことはしてないよ」 
「でも、塔の中にわざわざ入って探すなんて余計な仕事を」
「中を探したわけじゃない」
「え・・・じゃあどこを?」
「塔のそばの穀物倉庫」

 封鎖された塔に女の子が忍び込むなんてできっこないし、できるようなら封鎖とは言わない。
 けれどもし近くまで来たとしたら、たぶん倉庫あたりにかくれているだろうと見当をつけた。
 ラキスはそんなことを、淡々とした声で説明した。
 それから「あの子、どうなる?」とたずね返した。

「メイナなら今は部屋にいるわ。でも明日には里に返すつもりよ。絶対に口外しないという誓いをたててから」
「そう。それならいい」

 なんらかの処罰をされるのかと思ったようだが、そんなことできるはずはなかった。
 そこのところを説明しようとしたが、ラキスはわたしから視線をはずして、ふっと中庭のほうに顔を向けた。
 先ほどから聞こえていたリュートの調べが曲調を変え、そちらに気をとられたようだった。

 中庭をはさんだ向こう側の回廊には楽師たちが集い、人々の心をいやす音楽を静かに奏で続けていた。

 回廊に接した大広間は兵士や下働きの者たちに解放されて、大きな暖炉に火がはいり、温かい食べものと飲みものが用意されている。
 女王陛下の心づくしだ。もちろん厨房の働き手たちの負担にならないように、ごく最低限の用意ではあったのだが。

 おそらく一階のどこかで繭を破ったインキュバスは、同じ階で休む召使いたちの大部屋を最初に襲撃したのだった。
 王族や廷臣たちのいる上階にあがる前にまず何人かを取り込み、何人かを僕に変え、衛兵たちを巻き込みながら進撃していったらしい。

 取り込まれたり人間に戻れなかったりした犠牲者は、すべてが終わってみれば数人だった。
 たとえば南の塔で浄化された者──。

 ただ、もとに戻れたたくさんの仲間たちとの再会が大きな喜びだったため、大広間の雰囲気は暗くはないようだった。
 薄絹の雨のとばりの向こうから、リュートの音色とともに深い安堵感が伝わってくる。

 

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