komaの こまごまひとりごと

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80年代前後の少女マンガで育った主婦が、今頃書いたファンタジー

2017年04月20日 | 小説

                                     第1回

         出会いの窓は南の塔に(第34回)

 

 けれど──。

 ふたりで過ごす時間が、いつもこんなふうにおだやかで楽しいものだったかといえば、残念ながらそうではない。
 さわると怪我をしかねないような危うさを、彼から感じとったことが、一度ならずあったからだ。

 それを感じたのはたいてい会話の最中で、話題を変えたほうがいいとわたしが判断することもあれば、彼自身が合図を出してくることもあった。

 もっとも、それで会話がとぎれてしまったことはほとんどない。
 もともとがたわいないおしゃべりだったし、話の内容よりも、ふたりで会話するということ自体がわたしにとって重要だった。

 完全にとぎれてしまったのは、一度だけだ。
 冬の寒さがもっともきびしかった時期。中庭に降りつもった雪を、ふたり並んで回廊から眺めていたときに。

 前日までの悪天候がすっかりおさまり、顔をのぞかせた太陽がきらきらと光をふりそそいで、雪景色をさらなる銀世界へと変えている。

 日なたの銀と日かげの銀。
 灌木はそろってふかふかの雪ぼうし、ベンチには雪のふとん、小道はどこかにいってしまった。

 雪の中に踏み出す気にはなれないわたしたちとはちがい、天馬は自由だった。
 花壇のまんなかと思われる場所に堂々と立ち、雪に足をうずめている。

 まるで雪野原から掘り起こされた彫刻のようだったが、彫刻ではない証拠に、翼がときおり大きくはためいた。
 日なたと日かげの銀色は、一対の翼の上にもあるのだった。

 わたしが言葉をつくしてリドの美しさをほめたたえたのも、無理ないことだったと思う。
 こんなにすばらしい情景を見ることができるなんて、昨年までの冬なら思いつきもしなかった。

 ラキスは、最初のうちは黙って、わたしの賛辞を聞いていた。
 だが賛辞が長くなりすぎたらしく、途中でふいに話をさえぎると、ぶっきらぼうな調子で言った。

「天馬だって一種の魔物だけどね」

 わたしは驚いた。
「聖獣のことを魔物だなんて。どうしてそんなひどいことを言うの?」

「聖獣と魔物と、どこがどうちがうんだ。見た目? きれいだから良い存在だってことか?」
「リドに聞こえるわ。声を落として」
「聞こえたっていいさ。こいつは人間の評価なんか知っちゃいないんだから」
「そんなものなの?」
「そんなものだよ。そろそろ中に入ろうか。寒いだろ?」

 天馬や一角獣・・・たしかに聖獣と奉られているものも、魔物の一部なのかもしれない。
 人間が勝手に線引きしているだけかもしれない。
 けれどそういう言葉が、ほかならぬ天馬にまたがり魔物を狩る立場の剣士の口から出たことが、とても意外なものに思えた。

「・・・ラキスは魔物が嫌いではないの?」

 わたしは入ろうという言葉には答えず、かわりに別の質問をしてみた。
 この質問は、以前から一度たずねてみたいと思っていたことではあった。
 
 それにふさわしい機会がこのときだと思ったわけではない・・・ただ、ほかの話題がすぐに思い浮かばなかったのだ。
 もう少しだけここにいて、ふたりで銀世界を眺め続けるために必要な話題が。
 だが、やはり適切ではなかったらしく、彼は不本意そうに顔をしかめた。

「嫌いに決まってる。失礼なこと言うなよ」
「ごめんなさい、もちろんそうよね。でも・・・」
「でも?」
「討伐から帰ってきても、ほかの人たちのように喜んではいない気がして。変な意味じゃないのよ。つまりその・・・魔物が嫌で討伐しているのではなくて、わたしたちが困っているから・・・討伐することを求めているから、人助けをしているんじゃないかと・・・」

 

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