komaの こまごまひとりごと

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80年代前後の少女マンガで育った主婦が、今頃書いたファンタジー

2017年03月29日 | 小説

                                     第1回
       出会いの窓は南の塔に(第12回)

 

 そう言った。
 いかにもつまらなそうな口調で。軽蔑の響きさえ感じとれる声で。

「化け物になるくらいなら死んだほうがましだって? まあ、死にたいなら別に止めやしないけどね」
「・・・誰かは知らぬが、おさがりなさい」

 膝元に落ちていた懐剣を拾い直しながら、姉姫が我に返って言葉を投げた。

「名乗りもせずに無礼でしょう。しかも窓から」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思うが」

 そのとおり、またも扉が激しく揺れた。
 揺れはおさまらず、大きなもののぶつかる音が断続的に聞こえてくる。
 わたしは室内を振り向き、無礼な若者のほうに再び視線を返しながら叫んだ。

「死にたいわけじゃないわ。生きていたい。でもどうしようもないじゃないの。ほかにどんな手だてがあって?」
「生きたいの?」

 問い返してくる若者の瞳の中に、小さな輝きが宿った。
 彼は天馬を窓ぎわまで近づけると、いとも気軽な動作で窓辺に飛び移り、わたしの横に降り立ってきた。 それから、窓辺にしつらえたベンチの上に、背中にしょっている背嚢を投げおろしながら、やはり気軽な態度のまま言った。

「じゃあ、開けな」
「え?」

 荷物のことをさしたのかと思ったが、彼の目は、不気味に軋み続ける扉のほうを向いていた。

「扉を開けなよ。そのほうが手っ取り早い」

 まさか・・・あの扉だけが唯一の支えだというのに。
 わたしは信じられない思いで、目の前の若者をみつめた。

 風に乱された前髪が落ちかかる下の顔立ちは、意外なくらい繊細なつくりをしていた。
 だが、はしばみ色のその瞳に、動揺や恐怖はみじんも見当たらない。
 きわめて細身の体つきだったが、敏捷な野生の獣のような力強さを感じさせる。

「早く」

 短い言葉で彼がうながした。わたしは心を決めた。
 この部屋でただひとり、冷静そのものの人物の指示だ。従うしかない、遅かれ早かれ扉は壊れてしまうのだから。

 いくつもの制止の声があがる中、わたしは小走りに扉に近づき、鉄の閂をはずした。
 それから取っ手に手をかけようとしたが、その必要がない勢いで扉が開いたため、圧力で思い切り壁に身体を打ちつけた。

 直立した化け物が入ってくることを覚悟したが、押し入ってきた魔物の姿勢は四つん這いだった。
 盛り上がった大きな背中が、うねるようにぶよぶよと波立つ。もはや人の輪郭はどこにもなく、魔物にふさわしい奇声を発しながら、四つ足で部屋の中央に突進していく。

 わたしは凍りついた。真正面に若者が立っていたからだ。
 直撃される!

 そう思った瞬間に、彼が大きく一歩踏み出した。
 と同時に、目もくらむほどの輝きが、彼の腰のあたりからほとばしった。

 剣だった。
 抜いた勢いのまま横に薙ぎ払うと、白光が爆発的にふくれあがって魔物の全身を包みこみ、わたしたちの視界を覆いつくした。

 何が起きたのかをすぐに理解できた者は、誰もいなかっただろう。
 長くつらい闇の時間を過ごしたわたしたちの目に、光はあまりにも眩しすぎたのだ。
 ひとつの知識がようやく浮かび上がってきたのは、視力が戻り、魔物の姿が跡かたもなく消えているのを確認し、さらにしばらくたってからのことだ。

 炎にして光。光にして炎。
 剣の先からほとばしり出て、穢れた空間を祓い清めながら燃えさかる、熱をもたない聖なる魔法。

 魔法炎という簡単きわまりない呼び名を与えられているのは、それ以外なんとも呼びようがなかったからなのだ。
 目の当たりにしてはじめて、それがわかった。

 想像をはるかに超えたその光景を、どう表現すればいいだろう。
 刀身からあふれ出てきた光の帯。白銀のきらめき。
 そして塔の中でそれを放った、ひとりの剣士。


 

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