komaの こまごまひとりごと

文章を書くのが好きな主婦の私空間。マイペースで更新しています。









80年代前後の少女マンガで育った主婦が、今頃書いたファンタジー

2017年05月17日 | 小説

                                     第1回
        出会いの窓は南の塔に(最終回)

 

 光は汚泥を吹き飛ばし、青灰色の闇を、濁流を吹き飛ばした。
 すさまじいまでの強さですべてを断ち切り満ちあふれ、広がった。

 混然一体のかたまりとなった汚泥と闇が、白銀の輝きとぶつかりあい、虹色の火花を散らして混じりあいながら流れ去る。
 濁流に取り込まれていたあまたの命が、叫びが、思いが過去が魂が、光の中で砕け崩れて流されていく。
 そして──。

 立ち現われた浄化の炎のそのかたちが、渦を巻きながら視界にあふれこぼれる中で、魔物の夢と人の夢とが分離した。 
 魔物の身体と人の身体とが分離した。

 深い深い夢の底に引きずり込まれていた心に、その身体に、熱が宿った。
 体温が生まれ血がかよい、目覚めたいと願う意志の力が満ちていく。
 力は力を呼び寄せ、外の世界を引き寄せる。

 わたしはラキスを抱きしめているし、ラキスはわたしを抱きしめている。
 まぎれもない手応え。現実の重み。
 そのいっぽうで、砕けていく夢の重みが、ふたりの身体を押しつぶそうとのしかかってくる。
 息さえできない。わずかでも手を緩めればもぎ離される。

 けれどそんな圧力の中ですら、目と目が合った。ほほえみあった。
 そばにいたい、いっしょにいたい、もっと、もっと、もっと。
 思いあい、抱きあいながらふたりで落ちた。
 汚泥や闇を破壊した力は、魂だけでなく肉体の世界でも同じように働き、魔物の巨大な身体を内側から粉砕したのだ。

 吹き飛ばされた肉体が、白く輝きながら大気に乱れ散っていく。
 それは同時に、魔物から解き放たれたわたしたちの肉体が、空中に投げ出されることでもあった。

 視界の中で、浄化の炎が乱れ狂う雪の白さに変わる。
 雪が燃え散り、白銀がしだいにうすれ、そしてふいに、金色の日差しにとってかわる。

 全身に風があたる。わたしたちは抱きあっている。
 これが二度目の抱擁で、もう離すつもりはない。

 太陽の光の中を、わたしたちは風にまかれながら、ふたりで落下していった。

              
             ☆   

 ティノは必死で岩につかまり、崖の上によじ登った。
 這うようにして崖淵から離れ、息を切らしながら振り返ったその直後、目の前で起きたことのすべてを目撃した。

 巨大な顎からあふれ出てきた大量の触手が、なだれ落ちる泥の滝のように姫君を呑みこみ、逆流して再び顎の奥へと引き込まれていく。
 姫君の華奢な姿も、それと同時に消え失せる。

 だが、その居場所を明らかにするように、魔物の巨体が膨張しながら拍動する。
 全身で激しい脈動をくりかえす。

 その後に訪れた、突然の静寂。
 巨体を崖ぎわにおいたまま、魔物はなぜか凍てついた彫像のように動かない。
 ティノの衝撃と恐怖をよそに、信じられないほど静かな時間が経過する。

 そして──またも訪れた、突然の変化。

 彫像の内側が透けるように輝き、内部で発光していると思ったとたん、ひとすじの眩しい亀裂が走る。
 喉元の下に走った亀裂はまたたくまに網目となり、頭部に腹部に、尻尾に向けてひろがっていく。
 全身を覆ったその網目から、ふいに何本もの光の柱が突き抜け、外に飛び出してくる。

 閃光。爆風。
 竜巻のごとく巻き上がり、はじけ崩れる魔物の巨体。
 燃えちぎれていく破片の渦。青空の中に吹き荒れる猛吹雪──。

 ティノは風圧で吹き飛ばされそうになり、尻もちをついて後ろに転がった。
 なんとかこらえて動きを止め、木の幹を支えにすわりこむ。

 砂利と枯れ葉、土ぼこり。形の定まらない泡のような、白銀のかけら。
 思わず腕を上げると、ティノは飛んでくる多量のものから目をかばった。
 けれど、かばった腕の隙間から、たしかに見た。

 白銀の吹雪の中から、抱きあったままの姫君と剣士が投げ出され、上空へと高く吹き上げられていくのを。
 吹き上げられたふたりが、風にまかれながら落下していくのを。
 そして落下するふたりの身体を、真っ白な天馬が、空中で受け止めるのを。

 天馬は白い翼を力強くはばたかせると、ティノの上で一度大きく旋回した。
 それからさらに上にあがり、青い空の中を、都の方角に向けて飛び去っていったのだった。


              ☆


 まだ若者が、王国レントリアと何の契約もかわしていなかったころに──。

 彼は天馬とともに、朝陽がさしそめる明け方の空を飛んでいた。

 本格的な寒さがやってくる前に、別の国まで行くつもりだった。
 自分のような者でも、もっと暮らしやすい国があるかもしれない。
 少なくとも、もうこの国に戻ることはないだろう。

 王城の上を飛んだのは、見納めでもしておこうかと思ったからだ。
 ところが近づくにつれて、濃厚な魔物の気配がただよってくることに気がついた。
 だが、接近してみた王城から悲鳴などは聞こえない。
 朝の澄みきった大気の中で、しんと静まりかえっている。

「やけに静かだよな」
 と、彼はいつものように天馬に話しかけた。

「もうみんな死んじまったかな? どうする、挨拶がわりに寄ってみるか?」

 特に反対意見が出なかったため、彼は南側にある塔に向けて、気軽な気持ちで近づいていった。
 上に窓があったので、のぞいてみようと思ったのだ。

 そのとき。
 目の前にある窓がいきなり開き、ひとりの娘が身を乗り出してきた。
 朝陽が娘の顔にあたり、長い髪が風になびく。
 娘は息を呑んで彼をみつめ、言葉が出ないようだった。

 そして、彼もまた。

                   
   出会いの窓は 南の塔に
   結びし約束 天馬の上に
   熱き腕(かいな)は 姫の背中に
   姫の心は 剣士の瞳に

   青き流れの ほとりに立ちて
   剣士の御名(みな)を 姫は唱えり
   光と闇の 間(あわい)にありて
   応えしものは 彼(か)の声 彼(か)の手

   
 やがて・・・。

 レントリアの都のすみで、ひとつのバラッドがひそやかに歌われはじめる。

 その歌は、以前から人気の高い英雄譚のバラッドと、部分的にとても似ている。
 けれど歌詞を追い、その旋律を追っていくうちに、同じ歌ではありえないことがよくわかるだろう。

 ひとりの娘が若者と出会い、ひとりの若者が娘と出会い、離れてまた出会い、ともに生きるようになるまでの歌。
 歌はいつしか都の人々の間に広まり、歌い継がれていくことになるのだが──。


 それはもっと、ずっとあとになってからの話である。



               終

 

 

(次回、あとがきです)


 

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2 コメント

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Unknown (serohiki)
2017-05-18 07:31:56
おはようございます。
毎日楽しみに読ませていただきました。
”色のない世界で生きていくの”という言葉、
グッ!ときました。
最終回の一つ前の回では涙がこぼれて。。。
素敵なお話を書き上げたkomaさん凄いです!
次回作も楽しみにしています。
serohikiさんへ (koma)
2017-05-18 11:49:37
どうもありがとうございます!
村上春樹さんとは全然ちがうジャンルでしたが
大丈夫だったでしょうか。
しかも次回作などという嬉しいお言葉をいただけて
ほんとに光栄です。
実はあとがきでも触れますが、前日譚の短編があって
それを載せる予定です。
よかったら、どうぞよろしくお願いします。

serohikiさんのブログも楽しんでますよ。
母の日の、趣味が良くて素晴らしいプレゼントには
うっとりしました。

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