山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

水音、なやましい女がをります

2011-01-31 13:57:38 | 文化・芸術
Dc09122625

―四方のたより―

<日暦詩句>-14
せめて死の時には、
あの女が私の上に胸を披いてくれるでせうか。
  その時は白粉をつけてゐてはいや、
  その時は白粉をつけてゐてはいや。

ただ静かにその胸を披いて、
私の眼に副射してゐて下さい。
  何にも考へてくれてはいや、
  たとへ私のために考へてくれるのでもいや。
   ―中原中也「盲目の秋」より-昭和5年―

―今月の購入本―
・亀井孝/他「日本語の歴史3―言語芸術の花ひらく」平凡社ライブラリー
・亀井孝/他「日本語の歴史4―移りゆく古代語」平凡社ライブラリー
・柳田聖山/梅原猛「無の探求<中国禅>―仏教の思想7」角川文庫
・塚本善隆/梅原猛「不安と欣求<中国浄土>―仏教の思想8」角川文庫
・紀野一義/梅原猛「永遠のいのち<日蓮>―仏教の思想12」角川文庫
・安西冬衛/他「言語空間の探検 全集現代文学の発見-13」新装版、学芸書林
・茨木のり子「倚りかからず」ちくま文庫
・後藤正治「清冽―詩人茨木のり子の肖像」中央公論新社

―12月の購入本―
・G.ドゥルーズ/F.ガタリ「千のプラトー-上-資本主義と分裂症」河出文庫
・G.ドゥルーズ/F.ガタリ「千のプラトー-中-資本主義と分裂症」河出文庫
・G.ドゥルーズ/F.ガタリ「千のプラトー-下-資本主義と分裂症」河出文庫
・梶山雄一/上山春平「空の論理<中観>―仏教の思想3」角川文庫
・鎌田茂雄/上山春平「無限の世界<華厳>―仏教の思想6」角川文庫
・白川静「孔子伝」中公文庫
・小島寛之「世界を読み解く数学入門」角川文庫
・小島寛之「無限を読み解く数学入門」角川文庫
・草刈民代「BALLERINE」幻冬舎
・草刈民代「草刈メソツド」DVD&Book-マガジンハウス

―図書館からの借本―
・吉田伸之「成熟する江戸―日本の歴史17」

―山頭火の一句― 行乞記再び -146
6月3日、同前

雨、まるで梅雨のやうだ、歩いたり、考へたり、照会したり、交渉したり‥、ただ雨露を凌ぐだけの庵を結ぶのもなかなかである。
早朝、雷雨に起きて焼香し読経する。
温泉饅頭を坊ちやんに、心経講話をパパに送つてあげる-伊東君にあてて-。

夕方、一風呂浴びて一本傾けて、そしてぶらぶら歩く、ここにも温泉情調はある、カフヱーと自称するもの二軒、百貨店と自称するもの一軒、食堂二三軒、そこかしこに三味線の音がする、‥いやまて、ビリヤード二軒、射的場も一軒ある。‥

妙青寺拝登、長老さんにお目にかかつて土地の事、草庵の事を相談する-義庵老慈師の恩寵を感じる-、K館主人にも頼む、すぐ俳句の話になる、彼氏も一風かわつた男だ、彼は何だか虫の好かない男だ、とにかく成行に任せる、さうする外ない私の現在である。

山はうつくしい、茶臼山から鬼ケ城山へかけての新緑はとてもうつくしい、希くはそれをまともに眺められるところに庵居したいものだ。

-略- 今夜もまた睡れさうにないから、寝酒を二三杯ひつかけたが、にがい酒だつた、今夜の私としては。――
 アルコールよりもカルチモン
   ちよつと一服盛りましよか

※表題句の外、3句を記す

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Photo/妙青寺山門

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Photo/妙青寺境内にある雪舟の庭


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旅のつかれの夕月がほつかり

2011-01-29 23:53:18 | 文化・芸術
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―四方のたより―

一昨日の午後、「SOULFUL DAYS」の一次発送を近くの郵便局に持ち込んだ。
昨日から、受領したとのメールやハガキなどいくつか寄せられている。
突然不躾にも重いものを送られてきた知友あるいは未知の人-生前のRYOUKOの友人など-、その何人かのひとたちが、いま現に手に取りつつ読んでいるかも知れないのだ、と思うとじっとしても居られず、先程まで数時間かけて、自身またまた再読してみた。
それもほぼ終えかけるころ、電話が鳴った。古い神沢の弟子、昔の仲間だった。

<日暦詩句>-13
赤い林檎の頬をして
眠っている 奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた
   ―吉野弘「奈々子に」より-昭和34年―


―山頭火の一句― 行乞記再び -145
6月2日、同前。

雨、そして関門地方通有の風がまた吹きだした、終日、散歩-土地を探して-と思案-草庵について-とで暮らした。
午後、小串へ出かけて、必要欠くべからざるものを少々ばかり買ふ。
山ほとゝぎす、野の花さまざま。

老慈師から、伊東君から、その他から、ありがたいたよりがあつた。隣室の奥さん-彼女はお気の毒にもだいぶヒステリツクである-からご馳走していただいた。
自己を忘ず―そこまで徹しなければならない。

ここはうれしい、しづかにしてさびしくない。
だんだん酒から解放される、といふよりもアルコールを超越しつつある、至祷至祝。
緑平老から貰つた薬を、いつのまにやら、みんな飲んでしまつた、私としては薬を飲みすぎる、身心がおとろへたからだらうが、とにかく薬を多く飲むほど酒を少く飲むやうになつたわい。
昨夜はよく寝られたのに、今夜はどうしても睡れない、暁近くまで読書した。

※表題句の外、3句を記す

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Photo/下関市小串の駅舎

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Photo/同じく小串の海


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ほうたるこいほうたるこいふるさとにきた

2011-01-24 23:53:52 | 文化・芸術
Santouka081130067

―四方のたより―

「SOULFUL DAYS」の印刷製本がやっとUP。
すぐさま引取りに走り、夕刻から半日、読み返していた。
昔からよく知った印刷屋のこととて、ずいぶんと安くしてくれている。
いや、ほんとうのところ、
印刷に出す段まですっかり失念していたのだが、
RYOUKOが二十歳頃だったか、おそらく半年くらいの期間だったろうが、
この会社にアルバイトとして勤めていた、という縁もあったのだ。
社長が高校の一期下という親しさもあって、私から頼んでの就職だった。
Yという顔馴染みの古い社員が、RYOUKOのことをよく覚えてくれていた。
おそらくそんな事情もあって、格安に、と便宜を計ってくれたのだろう。

<日暦詩句>-12
どこから世界を覗こうと
見るとはかすかに愛することであり
病患とは美しい肉体のより肉体的な劇であり
絶望とは生活のしっぽであってあたまではない
きみの絶望が希望と手をつないで戻ってくることを
きみの記憶と地球の円周を決定的にえらぶことを
夜の眠りのまえにきみはまだ知らない
   ―清岡卓行「氷った焔」より-昭和34年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -144
6月1日、川棚、中村屋
曇、だんだん晴れて一きれの雲もない青空となつた、照りすぎる、あんまり明るいとさへ感じた、7時出立、黒井行乞、3里歩いて川棚温泉へ戻り着いたのは2時頃だつたらうか、木下旅館へ行つたら、息子さんの婚礼で混雑してゐるので、此宿に泊る、屋号は中村屋-先日、行乞の時に覚えた-安宿であることに間違はないが、私には良すぎるとさへ思ふ。

すべてが夏だ、山の青葉の吐息を見よ、巡査さんも白服になつた、昨日は不如帰を聴き今日は早松茸を見た、百合の花が強い香を放ちながら売られてゐる。
笠の蜘蛛! ああお前も旅をつづけてゐるのか!
新しい日、新しい心、新しい生活、――更始一新して堅固な行持、清浄な信念を欣求する。
樹明君からの通信は私をして涙ぐましめた、何といふ温情だらう、合掌。
此宿はよい、ていねいでしんせつだ、温泉宿は、殊に安宿はかういふ風でなければならない、ありがたいありがたい。

※表題句のみ記す

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Photo/昨年10月、全国山頭火フオーラムが川棚温泉で開催されている

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Photo/その主会場となったモダンな川棚の杜こと川棚温泉交流センターは建築家隈研吾の設計


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ふたゝび渡る関門は雨

2011-01-22 23:49:35 | 文化・芸術
Dc09122636

―四方のたより―

<日暦詩句>-11
ひげが生える
ひげが生える男のあごに男の唇のまわりにひげが生え
る夜明けと共にひげが生える見知らぬ植物の芽のよう
にひげが生える女の柔い頬のためにひげが生えるサル
バドルダリと共にひげが生えるいつしようけんめいひ
げが生える耐用に向つてひげが生える男たち
   ―谷川俊太郎「今日のアドリブ」より-昭和37年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -143
5月31日、曇が雨となり風となつた、小倉まで3里、下関から風雨の4里を吉見まで歩いた、関門通有のシケで、全身びしよぬれになつて、やつと宿についた、石風呂があるので石風呂屋といふ、子供が多いので騒がしいけれど、おかみさんもおばあさんもしんせつなので居心地がよい。

昨夜の宿は予想したほどよくなかった-水だけは、筧から流れてくる水だけはよかつた-、しかし、期待したやうに山ほととぎすを聴くことが出来たのはうれしかつた。
石風呂は防長特有のものではあるまいか、その野人趣味を興ふかく思ふ。
ノミ、シラミ、アメ、カゼに責められて、なかなか寝つかれなかつた、落ちついて澄んでゆく自分を見詰めつづけた。
長かつた夜が白みかかつてきた、あかつきの声が心の中から響く、生活一新の風が吹きだした。
とにもかくにも、昨日までの自分を捨ててしまへ、ただ放下着!

※表題句の外、改作・再録併せて15句を記す

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Photo/下関市吉見の海岸に浮かぶ岩島-加茂島-

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Photo/龍王山の麓に建つ龍王神社の楼門


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山の家のラヂオこんがらがつたまゝ

2011-01-21 15:36:13 | 文化・芸術
Dc09092699

―四方のたより―

<日暦詩句>-10
ベルが鳴るいつでもベルが
星のない熱い肉のひだに

柔らかな瞬きから生まれた一人の男が
遠くから咽喉がつらぬきにきた一挺のかんざしに
つらぬかれたまま続けている会話の間中
ベルが鳴るいつでもベルが
   ―天澤退二郎「星生れの男」より-昭和41年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -142
5月30日、晴、行程5里、高津尾といふ山村、祝出屋

早く起きて別れる、そして川棚へ急ぐ、疲れて途中で泊る、この宿はほんたうにしづかだ、山の宿の空気を満喫する。
例の後援会の成績はあまり良くないけれど、それでも草庵だけは結べさうなので、いよいよ川棚温泉に落ちつくことになつた、緑平老の諒解を得たから、一日も早く土地を借りてバラツクを建てなければならない、フレイ、フレイ、サントウカ、バンザアイ!

近来とかく身心不調、酒も苦くなつた、―覚醒せずにはゐられない今が来たのである。
しつかり生きなければならない、嘘の多い、悔の断えない生き方にはもう堪へられなくなつた。
酒をつつしまなければならない、酒を飲むことから酒を味ふ方へ向はなければならない、ほんたうにうまい酒ありがたい酒をいただかなければならないのである。

伊東君に手紙を出して、私の衷情を吐露しつつ、お互に真実をつかまうと誓約した。
少し飲んでよく寝た。

※表題句の外、再録1句を記す

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Photo/高津尾は、現在の小倉南IC付近一帯

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Photo/その里に古くからある西大野八幡神社の参道

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