狭間に揺れて

どうか英雄とならぬように。英雄の志を起さぬように力のないわたしをお守りくださいまし。‪‬‬‬‪‬(芥川龍之介)

国連の辛口採点 日本に何がー(毎日新聞 2017年6月12日 東京夕刊)

2017-06-12 | 虚しきもの(時事)
(以下、タイトルの記事を全文掲載)

「国連VS日本」の様相を呈している。国連人権理事会に任命され、各国の人権状況を調べる特別報告者が立て続けに、報道の自由とプライバシー権をめぐる日本の現状に「レッドカード」を突きつけているからだ。国連の「辛口採点」はこれにとどまらず、自由度などを評価する「幸福度」調査は主要7カ国(G7)中、最下位。評価は不当? それとも妥当?



政権の暴走の表れ メディアは萎縮

やり玉に挙がったのは、安倍晋三政権下で成立した特定秘密保護法や国会審議中の「共謀罪」法案。首相は同法案がなければ「五輪は開けない」と豪語する。

「丁寧な説明を尽くしたが、わが国の立場を十分に反映していない報告書になったことは極めて遺憾だ」。5月31日、官邸。菅義偉官房長官は定例記者会見で、表現の自由に関する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏がまとめた「対日調査報告書」を一蹴した。

ケイ氏は昨年4月、政府の招待で来日。政府高官、報道関係者らと面談し日本の現状を調査し、今年5月末に「メディアの独立性に懸念がある」との報告書を公表した。「多くが伝聞や推測に基づく」とかみつく政府に、ケイ氏は記者会見で「事実に立脚している」と応酬した。

「国連がまたも殴り込んできた」。政府関係者が苦々しげに「またも」と話すのは、国連のプライバシー権に関する特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏が「共謀罪」法案を懸念する書簡を首相に送ったことを指す。「『計画』や『実行準備行為』の定義があいまいで、恣意(しい)的な運用の危険がある」などと指摘する内容だ。首相は参院本会議で「著しくバランスを欠き、客観的であるべき専門家の振る舞いとは言い難い」と色をなして反論。菅長官も会見で「個人の資格で活動し、国連の総意を反映するものではない」と突っぱねた。

人権問題に詳しい佐賀大の吉岡剛彦教授(法哲学)と、「共謀罪」法案などに懸念を表明してきた作家の中村文則さんに聞くと、政府側の分が悪そうだ。

吉岡さんはこう見る。「政府とすれば、痛いところを突かれたのだろう。国連の権威を畏れるからこそ、政府もあえて正面から批判に応えず、『個人の資格』を強調して、指摘の正当性をおとしめようとした印象だ。特別報告者は、国連人権理事会が任命する専門家で、確かに『個人の資格』で問題を提起するが、調査の独立性を保つためだ」。

中村さんも手厳しい。「おかしいことを隠し、黒を白に見せようとしている。『首相のご意向』文書を告発した前川喜平・前文部科学次官への個人攻撃とまったく同じ発想に見える。やっていることが無理筋であればあるほど、反論は当然稚拙になる」

中村さんは、特別報告者の懸念は、森友・加計両学園をめぐる首相答弁や、数の力に任せた特定秘密保護法採決など、一連の政府対応にも既に表れている、とみる。「現政権はさすがに暴走し過ぎです。国民は手放しで政権運営を任せてはいない。かつての自民党なら自浄作用が働いていたはず」と同党の「変質」も嘆く。「特別報告者にムキになって反論する姿は、日本が国際連盟を脱退し、戦争に向かった当時の状況と重なってしまう。だからこそ、メディアにはここで踏ん張ってもらいたい。この時代、日本が変わった『転換期』として後々検証されますから」。

実際、国際NGO「国境なき記者団」(本部パリ)が4月に発表した各国の報道の自由度に関する調査結果で、日本は180カ国中72位。前年タイで過去最低のまま、G7最下位に。2010年の11位以降、11年の東日本大震災と福島第1原発事故をめぐる情報開示が問題視され、下降。安倍政権下では、特定秘密保護法の影響などで「メディアが自己検閲の状態」と指摘されている。

吉岡さんは「テレビからは萎縮ムードを感じる。当たり障りのない内容にしようとする『枠』が透けて見える。昨年の高市早苗総務相の『電波停止』発言などにみられる『政治の圧力』に加え、テレビの側があえて無難な素材や表現で『気遣う』場面も目につく」。中村さんも「メディアの一部にあからさまな『そんたく』がある。まるで『安倍首相応援団』のような新聞まであるが、保守の立場からの政権批判もあるべきだ。強大な力を持つはずのメディアがなぜ萎縮しているのか。少なくともNHKはスポンサーには左右されないのだから堂々と権力を批判して一度、電波を止められてみたら? 世界はそんな日本をどう思うでしょうか。世界も国民も味方だから頑張ってほしい」。

国連の「辛口採点」は、表現の自由とプライバシー権にとどまらない。3月に発表した「世界幸福度報告書」によると、日本は155カ国中51位。前年より順位を二つ上げたが、G7で最下位なのは変わらない。1人あたりの国内総生産(GDP)や自由度を数値化したランクだが、ノルウェーを筆頭に、社会福祉や自由度に高評価の北欧4カ国が上位につけた。吉岡さんは「日本政府は『働き方改革』『女性が輝く社会』を掲げているが、現実としては人件費を抑えたい企業論理があり、雇用の質は劣化している。有効求人倍率は良くなったが、誰もが希望の職に就けるわけではなく、非正規は約4割に増えた。『女性の活躍』をうたおうが、主に女性が家事や育児を担う性別分業は相変わらずで、女性の負担だけが増えてしまう」。中村さんも「景気が良くなったと実感できる人は少ない。株価の恩恵が受けられるのも一部で、格差は広がるばかりです。人の幸せにストレスを感じ、鬱憤晴らしにネットで隣国の悪口を書く。悪循環ですよ。『強い自分』を感じたいために、格差を広げる側の政権に『同化』する人も出てきている」と語る。

中村さんが、宗教やテロなど現代日本の抱える問題を描いた小説「教団X」に、こんな一節がある。登場人物の「教祖」が語る日本への懸念は、そのまま中村さんが抱く思いを吐露したのだという。

<今、日本の中に気持ちよくなろうとしている勢力があります。第二次世界大戦の時、日本は気持ちよさを求めた。個人より全体、国家を崇(あが)めよ。(中略)今日本の一部は、あの熱狂を再現しようとしている>。

もの言えぬ空気がこの国に広がる中、「世界から見た日本」の評価に、謙虚に耳を傾けるべきではないか。
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