狭間に揺れて

どうか英雄とならぬように。英雄の志を起さぬように力のないわたしをお守りくださいまし。‪‬‬‬‪‬(芥川龍之介)

恐怖を忠誠心に転化する(朝日新聞 2017年7月28日)

2017-07-28 | 虚しきもの(時事・国内)
「将来うちのトップになる同期を紹介するよ」。人材紹介事業を手がけるヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス社長の渡部昭彦さん(61)は、20代のころ、財閥系大手企業で働く大学の同級生から飲み会に誘われた。

どんなにすごい人なのか。会って話してみると、東大卒の控えめで普通の人だった。

それから30年余り。その人物は本当にトップに就任した。渡部さんはほかにも、若いころから社長や役員になると目された人が、予想通りに出世する例を見てきた。共通点は「社風」を体現するような人物だったということだ。

「組織の三菱、人の三井」などという。石橋をたたいても渡らない、野武士、お公家さん……。企業を取材していると、確かにその会社特有の空気を感じることはある。

社風とは何か。銀行や流通大手、ネット企業の人事関連部門で20年近く働いてきた渡部さんは「会社の成功を導いてきた考え方や行動パターンの蓄積」と定義する。

成功の経験則が時間をかけて抽出され、社風を形成する。社風にあう人が採用され、昇進し、遺伝子が引き継がれていく。あわない人間が左遷されるのは、一定の合理性があるのかもしれない。

社風が純化されると、行きつく先は同質的な「会社ムラ」だろう。居心地がよく、帰属意識や忠誠心を保つのにも役だって、製造業を中心に戦後の繁栄をもたらした。

しかし、カネボウや日本航空などの再生を手がけた経営共創基盤CEOの冨山和彦さん(57)は、日本企業にありがちな共同体意識は「弱点になりつつある」と話す。

グローバル化が進み、時代が目まぐるしく変化する中で会社が存続するには、多様性や異端の発想が必要だ。しかし、冨山さんによれば、「とんがった人たち」は会社の免疫力のようなものが作用して、飛ばされてしまう。リーダーには社員の大多数が安心できる「人柄が良く、同調圧力に弱い人」が選出される。

大企業で働くサラリーマンの多くは、出世の階段を上ることを目標にする。「会社ムラ」で長く生きていると、左遷は「人生の二流化」という強い恐怖感を抱く。会社はその恐れを忠誠心に転化して、うまく利用してきたという。「日本型経営の暗黒面です」。

私たちは人事の話が好きだ。左遷された人に同情するそぶりを見せつつ、内心では突き放す。そうすることで、「左遷されなかった私たち」は、自分の居場所を確認しあっているのではないか。組織のまとまりを維持するために、ときに左遷がゆがんだ役割を担うことがある。

ある程度の規模の企業なら、左遷されても明日の生活に困るわけではないだろう。若いころから「自分なりの幸せや成功の尺度は何かを考え、鍛え上げる」ことの重要性を冨山さんは指摘する。

確かにその通りだと思う。ただ、「会社ムラ」の一員になってしまうと、左遷によって「仲間外れ」にされた感覚を乗り越えるのは、そう簡単ではない。実際に飛ばされた人たちは、どうしてきたのだろうか。
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