スペインサラマンカ・あるばの日々

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アバニコ。スペイン扇子のすすめ

2017-07-01 21:16:57 | スペインがお題のコラム

今年の猛暑はいきなり6月から始まった。

連日40度近くをウロウロする街の温度計。

息をするのも苦しいような熱風に吹き付けられ、
焼きつけるような石畳からの照り返しで、視界は真っ白。
昼過ぎからずっと街に人気なし。

やっと暑さも緩みはじめた7時過ぎ頃、テラスや公園の木陰などで扇子を使う女性を見かける。

 
スペインのイメージといえば、「サッカー、闘牛、そしてフラメンコ」。
その中のフラメンコのイメージといえば、↓こんな感じでフラメンコダンサーが派手扇子を掲げて
艶美に微笑む…なんてのが固定されているためか、
(確かうちの実家にも似たのがあるはずだ…)

「あぁ…やっぱフラメンコの国だからみんな扇子持ってるんだ…」
といわれて、いやちょっと!て言うか、全然ちがうのぉおお~!と口を動かさないで言ってしまう自分だ。
(…わからない方は、“フラメンコ”の所に“芸者”と入れてみなされ)

●上流婦人の間で大流行の贅沢オサレポイントだった

そもそも扇子の原型自体、その発祥は日本だった!という説が有力。

ウチワは古くから、世界の至る所で生まれていた。
中国では南北朝時代あたりから、豪華、贅を尽くした芸術品ウチワが多産。
これが日本に持ち込まれるや、“折畳み式ウチワ”が発明され、中国に逆輸入の形で渡って広まったとのこと。

“折畳んでみる”という発想がいかにも日本っぽいんだけど、
中国では意外と(?)うけなくて、せいぜい妓女の小道具位に使われる程度で、普及に時間がかかる。
これが後にヨーロッパに伝わるのは、ポルトガル商人らが中国との交易をもつ15世紀頃。

その後17世紀になると、ヨーロッパ各国の社交界において爆発的流行がくる。
スペインでも数々の扇職人が生まれ、またその絵付に著名な画家が筆を揮った。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/82/La_dama_del_abanico%2C_por_Diego_Vel%C3%A1zquez.jpg/300px-La_dama_del_abanico%2C_por_Diego_Vel%C3%A1zquez.jpg(「扇子を持つ婦人」ディエゴ・ベラスケス 1635年)
フランスやイタリアに大きく遅れをとり、スペインの扇子産業が大きく動き始めたのは18世紀後半。
その頃にはバレンシアに王立扇子製造所も造られ、マドリッドの中心には多くの製造所が軒を並べたという。

何世紀にも渡り、ヨーロッパの貴婦人に愛された扇子。
その素材にもいくらでも凝れる。(骨部分は象牙、香木等、扇面は絹や刺繍等)
また小さなキャンパスとして、著名画家に絵を描かせたり…ご婦人らが「密かに自分アイデンティティ表現」
できる、格好の小道具だったと思われ。

「密かな自分表現」といえば、扇子の動きでそっと自分の気持ちを殿方に伝えるという、
「お扇子言葉」も大流行した。
←全部一通りやってみたけど(笑)めんどくさい…
これが、特にスペインにおいて大流行となり、「お扇子言葉辞典」まで出ていたとは…

その後この扇子が庶民に広がったのは19世紀頃、フラメンコの踊りに取り入れられる
ようになったのもこの頃では…と思われる。

著名画家によって描かれた、扇子を小道具にした婦人画は実に多い。

どっちもピカソね。

一つ「扇子と婦人画コレクション」の動画を見つけたので貼っときます↓
よくこんだけ集めたな~!と感心。



●現代のお扇子
 
他国に遅れをとって始まった扇子産業が、最終的には現代まで引き継がれることになったこと、
この国の、特に南部の暑さをしのぐ実用品であったこと、
フラメンコでの扇子使いがスペインのイメージとして定着したこと、
…いろんな理由から、アバニコ-スペイン扇子は国を代表するグッズの1つとなっている。

アバニコ各種を売る老舗専門店もある。
http://blog.hotelmurillo.com/wp-content/uploads/2013/07/abanicos-sevillanos.jpg

お値段は安いのは国産で2ユーロ位から、上は天井知らず。今まで見た最高価格は800ユーロ。
*ネットショップでチェックしてみてね→伝統衣装専門店ホアン・フォロンダ

種類はサイズ様々。一番大ぶりの「ペリコン」と呼ばれる扇子は主にダンス用。
https://www.flamencista.com/images/flamenco-fans-accessories-8c737.jpg

花嫁必携のの白レース刺繍のアバニコは、贅を尽くしたい一品。
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/originals/46/a9/99/46a9991bff078d076ee819c646080177.jpg
それ以外に…最近スペインのハイソなご婦人方の間で密かに流行ってるらしい
リッチな感じの「アバニコ・ペンダント」。
王室御用達…

有名デザイナーによるアバニコ頒布会シリーズみたいなのもあったな~

あと…ほんとまったく関係ないんですが…こっちの食肉界で、主に豚肉の「アバニコ」というと、
外バラ、アバラ肉の一部をいいます。サシが入ってて美味しい人気部類です…


●お上から来たアバニコのすすめ

こんな感じで庶民生活の実用品として、また装飾品、ダンス用品として馴染んでるアバニコ。

それが今年初夏、全国ニュースで大いに注目されることとなった。
前出の通り、6月に入っていきなりの熱波到来。
全国的に猛暑注意報が出され、40度近い気温が何日も続く。

特に首都マドリッドの被害は大きく、病院の緊急外来は熱中症の症状を訴える
人々で混乱を極めたとの事。その多くは子供とお年寄り。

冷房設備の無い公立小中学校、高等学校において、不調を訴える生徒が続出。
この国での労働環境保護法では、室内労働における最高気温が27度と決められているものの、
これらの学校の教室ではなんと35度を超える。そりゃ具合悪くなるはずだ…

もちろん地元保護者団体からの自治州への抗議が続く中、
マドリッドの厚生局理事長のラファエル・S・マルトス氏が、

「冷房入れればいいってもんじゃない。生徒にアバニコを持たせればいいじゃん?
という由の発言をしてしまい、その日の猛暑で全国民、疲れてたのも手伝って、正に炎上。

“冷房は目にもよくない”、“昔ながらの手作りアバニコを教えるのも、教育”などと付け加えるものの、
-とある小学校では、あまりの猛暑から生徒らを避難させようと、近所の葬儀所に皆駆け込んだ…
などと皮肉な笑話のようなニュースが出る中、正に焚火にガソリン、的な発言だったらしい。

ちなみに彼がいう、昔からのアバニコの作り方はこれとのこと↓
ほんと「おまえがやれよ」的なもんだが…こういう付け焼刃的な政策とかって、日本のお家芸じゃなかったのねw



●私のアバニコのすすめ


これだけアバニコのことを話しておきながら、何なんですが…
自分で使うこともなく、長年ちょっと苦手だったってのがある。

日本人的には大ぶり過ぎて、“周囲の空気を強欲に掻き集める”印象。
色も柄も派手過ぎ。
木製が多く、開くときに「じゃらあああっ!」、振り出すと「しゃかしゃかしゃかあああっ!」 
と、“あんたなんでソロバン持ってんの?”的派手音を放つ。

つまり主張が強すぎるんだ。(日本へのおみやげにしようとして、何度断念したか)

…そうだったのだけれど…

この国に居座ること何十年。
毎年繰り返される暑い夏。
夕涼みのテラスで、またこんな感じの↓即席ご近所おばあちゃん集会にて。

村や郊外にて、おばはんらの夏の夕涼み光景。ノスタルジック…

何度とこのシャカシャカ音を聞き長らえたことか、わからない。

遅い時間にやっと日が沈み、ゆるゆると生暖かい風が出始め、
街の喧騒も落ち着き、お互いの顔が見づらくなるまで、
このシャカシャカ音をバックに、延々と続く噂話や昔話…

やがて、「蚊取り線香の匂い→日本の夏」、みたいな感じで、どうやら
「アバニコのシャカシャカ音→スペインの夏」と自分の肌に刷り込まれてしまったらしい。
音と香りは、記憶をつなぎ止める良きアイテムだな。

あれほど派手だ、うるさいと感じていたアバニコが、自分にしっくり馴染むまで
随分の時間が経ってしまったわけで。

 

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