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仙境異聞 天狗少年寅吉物語3

2017年04月06日 | 不思議
(寅吉が)未だ起こりもしないことを知っているのが不思議でならなかったので、後で寅吉に、どうやってそれらを知り得るのかと尋ねてみた。

すると彼は、「広小路が焼けた際は、その前日に家の柱のてっぺんから見ていたのだが、翌日焼失することになる場所のあたりに炎が出現し、起ち昇りはじめた様に見えたものですから、そのとおりを語ったまでです。
父が怪我をするに違いないと事前に確信した事や、盗人が入るのを前もって知っていた事などにつきましては、何がどうなったのか、(聞こえるはずが無いのに)耳の辺りでざわざわと囁かれている様な気がして、そのうち、どこからともなく『明日は、父親が怪我をするであろう。』『今夜は家に盗人が入るであろう』と云っているのが聞き取れたと思うや、その直後、私が知る由も無いそれらの言葉どおりに、口をついて出てきたのです。」と、語ってくれたのである。

そうして寅吉は、私の顔をしみじみと見つめ、にっこりと微笑みながらその場に居たが、心の思いをきっぱりと振り払うかのごとき表情となり、「あなたは、まさに神様です。」と幾度か語ったものだが、私は、彼が話す際の表情をどこか不思議に感じたので、返答もせずにいたのであった。

(寅吉が)「あなたは、神の道を信じ、学ばれているようですね。」と云ったとき、美成が傍らより、「この方は、○○先生といって古学の神道をご教授されている御方なのであるぞ。」と伝えると、寅吉は笑って「まったく、それ相当の立派な方に違いないと思っておりました。」と返答した。

私はまず、まさにこの状況に驚かされたのであって、「それは、どのようにして知りえたのか、神の道を学ぶのは善い事であるか、悪い事であるか。」と尋ねてみれば、
「(予知するのは)特にどうということもなく、神をお信じになる御方であられると心に浮かんだがゆえに、そのように申し上げたのです。神の道ほど尊き道は無いのですから、これをお信じになるのは、たいそう素晴らしい事でありまする。」と答えたのだった。

このとき、今度は屋代翁が、「私に対しては、どのように見ておられるのか。」と問うたので、寅吉は、しばし黙考したのち、「あなたも神の道をお信じなさるが、更にいろいろと広範囲に渡る学問を行っておられますね。」と語った。

思えば、この時であろう、私自身が、後に寅吉という童子に驚愕させられる事になった最初の出来事は。

そこで、まず手始めに、神界の探訪に誘われるきっかけを尋ねてみたのであるが、なんでも(寅吉が)、文化九年に七歳を迎えたとき、池之端芽町という境稲荷神社の前に、貞意と名乗る占い師とおぼしき者が居って、その社殿の前に陣取り、占いを行っていた。(寅吉は)その出店に毎日のように立ち寄り、運勢を見てもらったり、判断を聞いたりなどしていたのだが、(以下、寅吉の言)

「乾の卦が出ましたね。」「坤の卦が出ましたね。」などと判定を申し渡されるにつけ、この卜筮占いというものは、様々な獣の毛を集め安置して占なう方法であり、それらの毛を探って拾い出し、熊の毛を探り当てればどうであろうとか、鹿の毛を探り出せばこうであろうとか、その探り当てた毛の種類によって判断するのに相違ないと確信するようになり、どうしてもこの技を身につけたい衝動に駆られて、彼のやり方を覚えようとしていた。

そんなある日のこと、この占い師の傍に客がいない時間帯を見計らって、
「どうにかして、私に卜筮占いの技をお教え頂けないでしょうか。」と懇願すると、占い師は、私のことを幼い子どもであるとの思いがあってか、「そなたは冗談を言っておるのか、これはな、そう易々と教える訳にはゆかない技なのであって、(もし叶えたいというなら)最低でも七日ほどは手のひらに油を湛え、これに火を灯す行を勤めなさり、その後で私の元に来られたならば、教えるに吝かではないぞ。」と云われたものだから、

なるほど、そう簡単には伝授して頂けないものなのだと自分を納得させつつ家に帰るや、父母をはじめ家族達が見ていない隙をこっそりと窺い、誰も来ない二階に上るなどして、密かに例の手灯りの行を始めてはみたものの、その熱さたるや、とても堪える事は無理であろうという程であったが、そこは無理を重ねて行を勤め上げ、ついに七日を満たして、勇躍、占い師のもとへとやって来たのであった。
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